修学旅行 その2

 仁王門におうもんを潜り抜けると、三重塔が現れた。


 三つの塔からなる、あでやかな赤い姿と、見上げるほどの高さは、見るものを圧倒する。


「高いですね〜!」

「ククッ、見事也」

「31mと国内最大級よ!」

「やけに詳しいな、ユイカ」

「べ、別にガイドブック見て、ワクワクしてた訳じゃないから!」

「(ガイドブック見て、ワクワクしてたんだな……)」





 そしてチケット代を払い、ついに本堂へ。


「ここが清水の舞台かぁ〜」


 木造建築でできた、本堂からつき出た形の清水の舞台。舞台からは京の街並みを一望できた。


「いい景色ですね〜」

「“清水の舞台から飛び降りるつもりで”ってやつか」

「フハハっ、この程度の高さ造作もないわ!」

「あら、それじゃあ飛び降りて見る? 安心しなさい。死んでも成仏できるらしいわよ?」

「やめておこう。俺は地獄に堕ち、閻魔えんま相手に国盗りを仕掛けねばならんのでな! 見よ! この煉獄れんごくを!」


 たかしは土産屋で買った、木刀を構えている。ご丁寧に名前まで付けたようだ。


「かっこいいよな! その木刀」

「ククッ、この煉獄れんごくには俺のお小遣いの3分の1を注ぎ込んだ。文字通り、清水の舞台から飛び降りる覚悟でだ!」

「木刀……ありですね」


 アリサは顎に手を当てて、真剣に購入を検討していた。


「あ、アリサさん?」

「もし買ったら、名前は“菊一文字きくいちもんじ”にしましょう!」

「ほう、京の都でそのめいかたるか。なかなかに造詣ぞうけいが深いと見える」

「な、何を言ってるんだ……?」


 俺は助けを求めるようにユイカに振り向く。


「あら、そう? 京都と言えば新撰組。新撰組と言えば沖田総司。沖田総司と言えば愛刀の“菊一文字宗則”でしょう?」

「く、詳しいな……」

「日本人なら常識よ?」

「そ、そうなの……か?」


 な、なんかこのグループ、異様にレベル高いんですけど!?





 帰りに音羽おとわの滝に寄る。音羽の滝とは清水寺の名前の由来となる清水が湧き出す滝である。


 裏にある不動明王にお参りを済ませる。


「3つの滝がありますね!」

「右端から“延命長寿”、“恋愛成就”、“学業成就”。どれか一つだけ選んで飲むの」

「一つだけしか選べないんだよな?」

「ええ、過ぎた欲は身を滅ぼすわよ。しっかり、選んで決めなさい」


 各々、悩みに悩んで水を選ぶ。


「ククッ、俺は“延命長寿”とゆこうか。この世界を支配するには時間はいくらあっても足りぬでな……」


 たかしが柄杓ひしゃくで水を飲み干す。


「ククッ、ちゃんと一口で飲み干すのだぞ? 二口だとご利益が半減するそうだ」

「キャラの割には豆な奴だな……。俺は無難に“学業成就”にするよ。来年は受験に向けた年になるからな」


 たかしに言われた通り、一口で水を飲み干す。


「アタシも無難に“学業成就”にするわ」

「では、私は“延命長寿”を」


 アリサとユイカもコクリと流麗りゅうれいな動作で、飲み干した。


「なんで延命長寿にしたの?」


 俺はなんとなく聞いてみる。


「えへへ、ミナト君と少しでも長く一緒にいられたらなって」


 花のような笑顔でそういうアリサに胸がキュンとなる。


「アリサさん……」


 俺は抱きしめたくなる衝動をなんとか堪える。お、落ち着け、ここは公の場だ。


「俺も“延命長寿”にしとけばよかったな……」

「お熱いわねぇ……」

「ユイカは恋愛成就にすると思ってた」

「……そうね。そうしようとも思ったけど。しばらくはそういうのいいわ。今はアンタらバカップル眺めてるだけで、お腹いっぱいだもの」


 ふふっと、はにかみながら、ユイカはそう言った。



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