修学旅行 その1

 2年生の修学旅行先は“京都”。日本の歴史と文化を学ぶことができる、美しいみやこである。


「京都は初めてです! 楽しみですね!」


 新幹線で俺の隣に座っているアリサが、ワクワクしていた。


「ふふっ、あんまりはしゃぎすぎないの。アリサ」


 ユイカが優しくアリサをたしなめる。


「クックック、京の都には古来より、あやかしが巣食うという。せいぜい気をつけることだ……」


 相変わらずのたかしが、不敵な笑みを浮かべる。俺を含めたこの4人が修学旅行の班になっている。


 基本的に修学旅行中は、班行動が基本となる。


「歴史的な建造物、伝統的な街並み、そして京料理。想像するだけで、今から胸が弾むようです!」


 アリサは閉じて、思いをせている。


「うん、いっぱい思い出を作ろう。アリサさん」

「はい!」


 おおやけの場では気恥ずかしいので、“さん”づけでアリサを呼んでいるだった。


「さて、そろそろ着く頃ね」

「クックック、待っていろよ。京の都よ。この俺がいませ参じよう!」





 京都駅からバスで金閣寺に到着する。ここでは指定時間まで、班での自由行動となる。


 境内けいだいに入ると、キンモクセイの木々が出迎えてくれた。


 丁度、紅葉を迎えた落葉樹達は、秋風に揺られ、美しくささめいている。


「綺麗です……。“風光明媚ふうこうめいび”という言葉はこういう時にためにあるんでしょうね……」

「うん、綺麗だ……」

「アリサの方が綺麗だよ、とか言わないの? ミナト?」


 ユイカが小悪魔のような顔でからかってくる。むっ、素直にからかわれてたまるか。


「そんなの口に出すまでもないだろ?」

「ミ、ミナト君///」


 アリサの顔も、まるで紅葉したみたいに赤くなる。


「くっ、からかうんじゃなかったわ……」


 ふっ、残念だったな、ユイカ。ちなみに綺麗だと思ってるのは本心だよ。



 

 金閣寺に到着した。


 金箔きんぱくに覆われた三層からなる寺院。その輝きは人々を魅力するばかりか、辺りの池にすらその威光を映しだす。


「うわぁー! 本当に金色に光ってますよ! ピカピカです!」

「流石、世界遺産ね〜!」


 静謐せいひつな庭園と調和し、一体となった金閣寺は、俺の目を捉えて離さない。


「記念に撮影しましょう!」

「そうね!」


 アリサとユイカは持ち前のスマホで、パシャパシャと撮影を始めた。


「たかしは撮影しなくていいのか?」


 たたずんでいるたかしに声をかける。


「ふっ、我がまなこに焼き付けておいたわ。それより、竜のキーホルダーはどこに売っているのだ? ぜひ、土産に購入したい」

「知らねーよ……。お前、絶対、小学生の時、裁縫箱のデザインにドラゴンの奴を選んだ口だろ?」

「な、なぜそれを知っている!? 貴様、エスパーか!?」


 分かりやすすぎる……。





 次の目的地は清水寺だ。そのためにまずは清水坂を通る。


 石畳でできた坂道の両側に、古式ゆかしい木造建築や茶屋が建ち並ぶ。


「スイーツ店もありますね!」

「いいわね〜。ちょっと覗いてみましょうよ!」


 甘いものに目がない女子達に釣られて、スイーツ店に入る。


 様々なスイーツが並ぶが、一際目を引く商品があった。


「八ツ橋シュークリームですって!」

「うわぁ、珍しいですね!」


 どうやら、生地に八ツ橋を練り込んだ抹茶シュークリームのようだ。


 2人はそれを購入し、美味しそうにパクつく。


「う〜ん! 八ツ橋が香る硬めの生地に、抹茶の風味が効いたクリームがたまりません!」

「こりゃあ、うまいわね!」


 それを見たたかしが、ゴクリとツバを飲み込み「すまん」と言って店に、戻って行った。


 どうやらたかしも食べたくなったらしい。


 ふと、俺の目の前に八ツ橋シュークリームが差し出される。


「はい、ミナト君も。美味しいですよ?」

「っ!」


 かなり気恥ずかしかったが、冷静に考えれば俺達は恋人なんだ。別に気にする必要はない……はず。


 俺はそれをパクりと一口。ほどよい抹茶の甘味が口いっぱいに広がった。


「お、美味しい!」

「ですよね!」


 にっこりと微笑むアリサに、相変わらずドキッとする。恋人になってもこれは変わらないんだろうと自嘲じちょうしてしまう。



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