告白後
「俺と付き合って下さい!」
教室に、アリサに対して告白する声が響き渡る。アリサが恋人がいるとカミングアウトしようとした矢先のことだった。
「ごめんなさい。私、恋人がいるんです……」
「へ?」
告白した男子生徒の目が丸くなる。
「「「えええええええええええええ!?」」」
その一言に、クラスが騒然となる。
「だ、誰と付き合っているの?」
男子生徒が震えながら、アリサに尋ねる。
「
「「「えええええええええええええ!?」」」
また一段と、教室が騒がしくなる。
《え!? 嘘でしょ!?》
《今日はエイプリルフールだっけ……》
《アリサちゃんって、冗談も言うんだね!》
《そ、そうか。冗談か……ほっ》
「じょ、冗談だよね?」
男子生徒が確認する。
「冗談でもなんでもなく、本当です。だからアナタの気持ちには答えられません……。でもその気持ちは嬉しかったです」
アリサは丁寧にお辞儀をして、謝罪する。
「な、なんでミナト“なんか”と──」
「──“なんか”?」
アリサの顔が、一瞬険しくなったのを俺は見逃さなかった。
まるで氷のような瞳だった。
「ひっ……」
男子生徒はその瞳に気圧され、「取り消すよ……ごめん」と言って、トボトボと自分のクラスに帰って行った。
一瞬、クラスが静まり帰った後、アリサは女子生徒に囲まれた。
《きゃあああ! アリサさんいつから付き合ってたの!?》
《最近、いい雰囲気だと思ってたのよね!》
《あちゃあ、私、ミナト君に目をつけてたんだけどなぁ》
《ねぇねぇ! どこまで行ったの!?》
《お似合いだね! おめでとう!》
そして俺は男子に取り囲まれる。
「ミナト、テメェ裏切ったな!」
「何をだよ……」
「いつからだよ!?」
「正式には文化祭の夜……かな」
「テメェとは絶交だよ!」
「そうか。なら、今日の唐揚げはやれないな。残念だ……」
「嘘だよ! 俺達ズッ友だよ! おめでとう! 唐揚げくれよ!」
「ほらよ」
「んほぉ……らめぇ……このカリカリたまらないのぉ。あっあっあっあっ……」
「アリサちゃんと、どこまでやったんだよ!? AかBかCか!?」
「言えるかぁ!」
たかしが俺の横にきて、ポンと肩を叩く。
「──おめでとう」
「……ありがとう」
それは中2病で飾らない、たかしの本心からの言葉のように感じた。
そして俺とアリサはクラスメイトから手荒い祝福を受けたのだった。
♢
「意外とみなさん、受け入れて下さいましたね」
「そうね」
アリサとユイカが、俺の部屋でくつろいでいる。
「みんな、どこかほっとしたのかもしれないわね」
「どういうことだ?」
「男子はみんなアリサという灯りに魅せられて、火に飛び込む虫みたいなもんだったでしょ?」
「ふむ」
「その灯りがなくなったら、男子は他の女子を意識するようになる。なら女子も嬉しいし、男子も楽になったんじゃない? ほら、灯りを求めてずっと飛び続けるって疲れるでしょ?」
「なるほどね。でもその例えだと、俺も虫だな」
俺はふっと、自嘲する。
「バカね。アンタはロウソクよ」
「……ロウソク?」
「そう、誰もかれもが、灯りを目指すばかりで、その灯りが消え去りそうなことに気付けなかった」
どこか自分に言い聞かせるように、ユイカは
「……」
アリサが病気で弱っていたことを思い出す。
「その事に気づいたアンタは、優しくロウソクを差し伸べた。そして、灯りに優しく寄り添ったのよ。他の男との決定的な違いはそこ」
「ユイカ……」
「な、なによ?」
「お前って、意外とポエマーだな!」
「うるさいわよ! そりゃまぁ、ノートにポエム書いてるけどさ!」
「(書いてるんかい……)」
アリサも、真面目にそのポエムを聞き入っていた。
「素敵なポエムでした! ユイカ!」
「やっぱりアリサは“分かってる”わね」
こちらを見て、ユイカはふふんと鼻を鳴らす。
「私が“灯り”だとするならば、燃えるような恋をしましょうね! ミナト君!」
「う、うん!」
それだとロウソクの俺はとけちゃうんだけど、まぁいいか。燃えるような、とろけるような恋ができたのならばそれで。
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