文化祭 その3

「次はステージパフォーマンス、観に行きましょうよ」


 ユイカの提案により、体育館で行われている。ステージを観に行くことに。


 ステージ上では学生達のバンドが、会場を盛り上げている。


「盛り上がってますね〜!」

「ククッ、なかなかのビートじゃあないか」

「この次は3Cの演劇みたいだね」


 俺は学園のパンフレットをめくる。


「ロミオとジュリエット……だったわよね?」

「そうそう」

「わぁ、ぜひ観ましょう!」

「ククッ、まぁ退屈しのぎにはなるだろうよ」





 劇が始まった。暗転し、役者にスポットライトが当たる。


 役者の演技力も思いの外高く、小道具にも力が入っていて、つい見入ってしまう。


『おおロミオ、どうしてあなたはロミオなの?』


 ロミオの恋人のジュリエットに対する熱い情熱、家族との対立との苦悩がありありと表現されている。


 毒死したロミオを見て、悲嘆に暮れたジュリエットが、ナイフで己の胸を貫くシーンは圧巻の一言。


 盛大な拍手と共に幕が閉じられた。


「ひっくひっく……」

「ううっ……」


 見ればアリサとユイカは感動して、涙を流していた。無理もない。俺も思わず涙ぐみそうになったくらいだ。


「ヒグッヒグッ……ぴえーーん!」


 たかしも泣いていた。中二病のお前はそれでいいのか……。





 次のステージはファッションショー。男女が己でコーディネートした服装で競い合うステージである。


「ちょっとアリサさん、いい?」


 同じ2年生の女の子がアリサに話しかける。


「はい?」

「ファッションショーのトリを飾る子が、足ひねっちゃって……。丁度、その子の服とサイズが合いそうな子がいなくて困ってたところにアリサさんがいたのよ!」

「という事は?」

「お願い! ファッションショーの代理として出てくれない!?」

「ええ!?」


 アリサはびっくりしている。まぁいきなりこんなこと言われては無理もないだろう。


「行ってきたら? めったにないチャンスじゃない」

「そ、そうですね……。困っているみたいだし、わ、私でよければ……」

「やった! じゃあこっち来て!」


 アリサは女の子に、舞台袖に連れて行かれた。


「急で大丈夫かな……アリサさん」

「大丈夫よ、アリサなら。それよりアンタはしっかり、目に焼き付けときなさいよ?」

「あ、ああ」

「クックック、お手並み背景といこうじゃないか!」

「アンタもしっかり応援すんのよ、たかし!」

「はい……」





 暗がりの中、ファッションショーが始まった。


『エントリーNo.1番。田中舞子さんでーす!』


 ランウェイを自信たっぷりに歩く姿にスポットライトが当たる。


《きゃああああ! かわいー!》

《似合ってるぞー!》


 観客も大盛り上がりだ。


「この俺の闇のコーデを披露ひろうできぬとは……。運営の目は節穴か?」

「至って正常よ……」


『エントリーNo5! サッカー部のエースこと荻堂傑おぎどうすぐる!』


「みんなのスグルちゃんだぜ⭐︎」


 スグルはバッチバチにスーツとチョウネクタイを着て、シルクハットを被っていた。


《きゃあああ! みんなのスグルちゃんよぉ!》

《相変わらずキザな奴だぜ!》

《いよっ! 千両役者!》


 ステージはつつがなく進行し、ついに最後にアリサの番となる。


『エントリーNo15番! この学園が誇るアイドル! “早乙女ユイカ”!》

 

 ステージ端から緊張した面持ちで、アリサは現れた。思わず会場が息を呑む。


 アリサはどこまでを蒼く、上品なドレスを見にまとっていた。


 カツンカツンとランウェイを一歩ごとに歩くその姿を、会場の皆が注視する。


 あまりの華麗さに見惚れて、だれもかれもが歓声を上げることさえも忘れていた。無論、この俺も。


 やがてセンターの位置でアリサは停止する。どうやらあまりの静けさに、少し困惑しているようだ。


「アンタ、最初の一言をかけてあげないでいいの?」


 ユイカの一言でハッとした俺は、息を大きく吸いこむ。


「すっっっっごく可愛いよ! アリサさーーーん!」

「っ!」


 アリサと目が合う。すると少し恥じらいながらも、嬉しそうにアリサは手を振ってくれた。


 俺の声援を皮切りに、声援が波のように押し寄せる。


《うおおおおおおおおおおおお!》

《声がでねぇほど、かわいいいいいいい!》

《きゃあああああああああああああああ!》

《天使か!?》

《心臓があああああああ!》

《この世のものとは思えねぇ!》

《ドレスが素敵ぃ!》


「クックック、やるじゃあないか」

「お化粧も素敵だけど、やっぱり笑顔が一番のお化粧よね」

「あぁ、本当に素敵だ……」


 俺はその光景を目に焼き付ける。一生、この姿を忘れないように。

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