文化祭 その2

「いらっしゃいませ〜!」


 文化祭が始まり、俺たちの出し物である“コスプレ喫茶”の営業が開始した。


 クラスの各々が、思い思いのコスプレ衣装を身にまとっている。


「クックック、よく来たな、喫茶店・三千世界さんぜんせかいへ……」

「ちょっと、たかし! 勝手に変な喫茶店名にしないでよ!」

「はい……」


 厨二病ちゅうにびょうのコスプレをするものがいた。


「いらっしゃいアルー!」


 チャイナ娘のコスプレをする人も。


「おっとっと……お客様だねェ〜」


 アニメの自作コスプレ衣装を着る猛者もさもいた。


 そんな中俺は、アリサとユイカに好評だった執事服を選んだ。


「いらっしゃいませ、お嬢様。何名様ですか?」


 俺はお客さんの女の子2人に接客をする。見たことがない顔だ。他校の生徒かな?


「2名で〜す」

「かしこまりました。お席はこちらへどうぞ」


 俺は空いている席に案内し、メニュー表を渡す。


「注文がお決まりになりましたら、お声かけください」

「は〜い」


 俺は次の接客へと移る。


「ねぇ、さっきの男の子、けっこうイケてない?」

「分かる! 執事服似合ってたよね〜」





 コスプレ喫茶は好評なようで、お客さんはどんどん増えて、仕事が忙しくなる。理由は明白。


 ウチのクラスの美少女2人、アリサとユイカがコスプレで接客しているからだ。さっきから、やたら男性客が多いのもそれが理由だろう。


「「いらっしゃいませ、ご主人様!」」


 アリサとユイカはふりふりのメイド服を着て、接客をしていた。


《たまらねぇ……》

《こんなの反則ですよ……》

《本物のメイド喫茶よりレベルたけーぞおい!》

《写真とりてぇなぁ……。でも禁止かぁ……》


 男性客の鼻の下が軒並のきなみ伸びている。まぁ、あの可愛らしさならしょうがないか……。





 午前中のシフトが終わった。これで今日の俺の仕事は完了。後は、ゆっくりと文化祭を回るだけだ。


「クックック、疲れているようだな、我が友よ」

「たかしか。お前も終わったんだよな。なら、文化祭見て回ろうぜ」

「よかろう」


 すると向こうから、アリサとユイカもやってきた。


「お疲れ様です。ミナト君、たかし君」

「お疲れ様〜。アンタ達も終わって暇でしょ? よかったら一緒に文化祭回りましょうよ」

「オッケー。たかしもいいよな?」

「クックック、俺は構わんぞ」





「三年C組お化け屋敷か……」

「だ、大丈夫でしょうか」

「まぁ、学園祭のレベルだし、そんなでもないでしょ。行くわよー」


 入ろうとすると、1人、人数が足りないことに気がついた。


「たかし?」 

「…………」


 見ればたかしの顔は真っ青になって、震えている。


「お前、ホラー苦手なのか……」

「クックック、馬鹿めが! 化生けしょうの類なぞ、恐るるに足りん! 本物の冥界を知った俺では、浅ましくて入る気がしないだけよ!」

「そうか……そういうことにしとく……」


 俺達は仕方なく、3人でお化け屋敷に入ることにした。


 入室した途端、一気に視界が暗くなる。


「っ!」


 少ない光量で照らされた、ぼんやりと薄暗い空間。おどろおどろしいBGM。不気味な背景。そしてひんやりとした冷気。


「これガチのやつじゃん……」


 文化祭のレベルを逸脱いつだつしたクオリティに、思わず俺は舌を巻く。


「こ、こわいです……」


 アリサが俺の右腕を掴んでいた。


「この程度で怖いなんて、アリサはお子ちゃまねぇ……」


 と言いつつ、ユイカもしっかり俺の左腕を掴んでいた。


「ちょっと2人とも、動きにくいんですが……」

「お、お願いします!」

「ちょっとくらいいいでしょ!」


 ホラーにドキドキしてるのか、女の子に挟まれている状況にドキドキしているのか、よく分からなくなってきた。


 ああ、そう言えば恋愛テクニック本でこんな状況のテクニック書いてあったよな。確か“吊り橋効果”……だっけか……。


『うらめしや〜!』


 落武者の格好をした、男子生徒がいきなり現れた。


「「きゃああああああああああああ!」」

「ぐえー!」


 2人のびっくりした時の抱きつくがキツすぎる……。は、はやく終わってくれ……。

 




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