文化祭 その1

「という訳で、今回、ウチのクラスの出し物は、“コスプレ喫茶店”に決定しました!」


 クラス委員長が声を張り上げると、クラスのみんなもわーわーと歓声を上げた。


《コスプレ喫茶めっちゃ楽しみ!》

《やっぱ女子はメイド服だろ!》

《アリサちゃんのメイド服!?》

《想像しただけで鼻血が……》

《ちょっと男子ィー》

《いやー! 楽しみだな!》





「という訳で、サンプルを貸してもらいました!」


 アリサが俺の部屋で、大きめの紙袋を手にしている。中身は衣装のサンプルだ。


 これを着て写真を撮り、その姿を見て、各々おのおの女子達で服を決めるようだ。


 その写真のモデルにアリサが抜擢ばってきされたらしい。まぁ、納得だ。


「という訳で着替えるので、少しあっち向いてて下さいね!」

「おっけー」

「のぞいたら許さないわよ」


 ユイカが忠告をする。ユイカは着付けの手伝いをするようだ。


「のぞくかよ……」


 ごそごそと衣擦きぬずれれの音が聞こえて、ドキドキする。


「む、胸がきつい……です」

「しゃーないわね。じゃあ、ここをこうして……。できたわ!」

「ミナト君、いいですよー!」

「オッケー」


 振り返ると、ミニスカサンタの格好をしたアリサがいた。


 か、かわええーー!!!!!


「えへへ、メリークリスマス! です」

「似合ってるわね、アリサ!」

「み、ミナト君……どうですか?」


 少し恥じらいながら、上目遣いで見つめるアリサを見て、俺の理性が蒸発した。


「いやー、あれだね。アリサさん自体がクリスマスプレゼントみたいなもんだよね。うん、メリクリ」

「何言ってんのよ……アンタ……」


 次のコスプレはミニスカポリスだった。


「た、逮捕しちゃうぞ! です……」


 心臓を撃ち抜くポーズを恥じらいながらするアリサ。


「逆にこっちが逮捕したいよね」

「いますぐアンタを通報してやろうかしら……」


 3度目のコスプレは、ピンクナースだった。


「お、お注射しちゃいますよ?」

「胸がドキドキして苦しい……」

「ドクター、早くきてー。動悸の患者でーす」





「まぁ、無難にメイド服がいいんじゃないかしら?」

「私も可愛いと思いますよ。あれ?」


 ごそごそと紙袋から何かを取り出す、アリサ。それは執事服のサンプルだった。


「男性用のが混ざってたんですねー」

「あら? いい機会じゃない。ミナト、アンタきてみなさいよ」

「えー……」

「私もミナト君の執事服姿、見てみたいです!」

「2人ともそういうならまぁ……」


 俺は自室でごそごそと着替えて、2人の前に姿を現す。


「いらっしゃいませ、お嬢様」


 こ、こんな感じかな?


「…………」

「…………」


 反応がない。うっ、やっぱり似合ってなかったんじゃないか?


「かっこいいですー!」

「わ、悪くないわね……」


 2人ともまんざらでもない反応だった。


「お褒めに預かり恐悦至極きょうえつしごく……」


 俺はそれっぽく礼をする。


「こ、紅茶を頂けるかしら?」

「あっ……それっぽいですね、ユイカ! お、お願いできますか?」

「少々お待ち下さいませ」


 俺も興が乗ったので、そのまま付き合ってみることにする。紅茶を淹れ、おもむろに2人に提供した。


「あっ、香りも豊かですよコレ!」

「アタシ好みの甘さに調整してあるわねー!」


 2人は美味しそうに、クピクピと紅茶を飲み干す。


「とっても美味しかったです。ミナト君!」

「ありがとうございます。アリサお嬢様」

「お、お嬢様……///。いいですね……」


 アリサはお嬢様呼びにうっとりとしている。


「ア、アタシも美味しかったわよ。ミナト」

「そりゃよかった」

「アタシもお嬢様って呼びなさいよ!?」

「か、かしこまりました……。ユイカお嬢様……」

「くぅー、いいわねぇ! 今度からずっと、その呼び方にしなさいよ!」

「わがままなお嬢様だな……」

「あら? お嬢様ってのはワガママなもんなのよ?」

「ぐっ……」

「おーほっほっほ!」


 ユイカに一本とられたな。なんかまじでお嬢様っぽくなってるし。


「おーほっほっほげ? げほっ! げほ! へ、変な笑い方したらむせたわ……」





 ソファで2人きりの時。


「ねぇ、ミナト君?」

「なに? アリサさん」

「ま、また“アリサお嬢様”って呼んでくれませんか?」

「ご随意ずいいに。アリサお嬢様……」

「は、はい……!(たまらないですぅ///)」


 ────アリサはときおり執事をおねだりするようになりましたとさ。









 

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