体育祭 その1

宣誓せんせい! 僕たち私達は日頃の練習の成果を存分に発揮し、仲間達と協力し合い、最後まで存分に戦うことを誓います!」


 爽やかな秋空の下、選手代表の宣誓が、校庭に響き渡る。


 今日は体育祭当日。全校生徒、並びに保護者達が、校庭を埋め尽くさんとばかりに集まっている。


 開会式プログラムが終わり、生徒は各々のテント下に置いてある席へと戻る。


「ミナト君、今日は頑張りましょうね!」


 テント下の隣のイスで、同じ赤組のアリサが話しかけてきた。


 赤いハチマキを額に巻き、長髪を後ろでくくり、体操服を着たアリサは、普段とは違いスポーティな雰囲気を身にまとっていた。


「同じ赤組同士、がんばろうな!」

「はい!」

「アタシも忘れないでよね」

 

 近くの席のアリサが話しかけてきた。アリサも同様に額に赤のハチマキを結んでいる。


「ああ、勝とうな!」


 赤組、白組の分け方はクラスごとに決まっている。なので、ウチのクラスは全員赤組である。


『最初の競技は“玉入れ”です。出場する選手は集まって下さい』


 選手呼び出しのアナウンスが、マイクによって響き渡る。


「さて、行ってくるわね。応援……してよね?」


 ユイカは俺の目を見て、そう言った。


「もちろん。暴れてこいよ。ユイカ」

「何よ、それ」


 ふっと、笑みを浮かべたユイカがおもむろに席を立つ。


《頑張って! ユイカー!》

《赤組の意地、見せたらんかい!》

《さて、お手なみ拝見ですわ》

《ユイカさん、ファイトー!》


 クラスの赤組の声援を背中に受け、ユイカは出場するのだった。


 玉入れが始まった。赤組、白組、両者共に必死に、上部のカゴに向かって、球を投げ入れる。


「フレー! フレー! 赤組!」


 隣のアリサが応援団に負けじと、声援を送る。俺も負けてられないな。


「がんばれー!」


 俺も喉が枯れんばかりの声援を送る。


「うおりゃー!」


 時間ギリギリで、ユイカが魂の一投をなげる。それがギリギリでカゴに吸い込まれていった。


 時間切れとなり、集計タイムに入る。


「ひとーつ、ふたーつ!」


 カゴに入った球を、お互いに一つずつ放り投げて、確認する。


「さんじゅーいち、さんじゅーに」


 全校生徒が固唾の飲んで、その結果に注目する。


 白組の数える人が首を振る。これ以上はもうないというサイン。つまり、赤組がもう一つ球があれば、勝ちである。


「さんじゅーさん!」


 高らかに球を放り投げ、勝鬨かちどきをあげたのは赤組である。


『勝利したのは一球差で、赤組です!』


 どわぁと赤組から歓声があがる。


 ユイカが玉入れを終え、テントに帰ってきた。


《やったな!》

《おめでとう!》

《さすがやで!》


 ユイカは歓声に手を振り、席に座る。


「ユイカ、頑張ったな。最後の一投が効いたな!」

「あ、ありがと……」


 ユイカは照れたのか、プイっと顔をそらす。


「ユイカ達のおかげで、赤組の勝利がぐっと近づきましたよ! わーい!」


 アリサはユイカに抱きついている。


「あ、熱いからやめなさいよ! 次、アンタの出番でしょ!」

「そうでした!」


 障害物競走のアナウンスが流れる。


「行ってきます!」

「うん、アリサさん、頑張って!」

「ファイトよ、アリサ」

「はい!」


《アリサちゃーん、頑張ってー!》

《俺も赤組になりかった……》

《ファイトー!》

《俺、白組だけど応援するわー!》

《スポーティなのもいい……》

《きゃああああああ!》


 学年、赤白問わず応援を受けるアリサ。


「相変わらず、凄い人気だな……」


 圧倒的な声援に俺はつい、たじろいでしまう。


「当たり前でしょ? あの子はこの学園のアイドルなんだから」

「そっか……。そうだよな」


 普段、ずっと一緒にいるのでマヒしていたが、アリサは俺なんかとは不釣り合いなほどの天才美少女なのだ。


 俺なんかが恋人(仮)でいいのだろうか? そんな弱気の虫がつい、顔を出す。


「アンタ、余計なこと考えてるでしょ?」

「うっ……」


 参ったな。ユイカには表情でバレバレのようだ。


「恋愛は釣り合うとか釣り合わないとかじゃない。気持ちよ。だから、ホラ、応援しなくていいの?」

「……そうだな」


 様々な声援が飛び交う中、俺は立ち上がり声を張り上げる。


「頑張れ、アリサさーん!」


 アリサは振り返り、嬉しそうに俺に向かってて手を振ってきた。その眩しい笑顔に思わずドキリとする。


《アリサちゃんが俺に手を振ってくれたぞ!》

《ばっか! 俺だって!》

《おいどんかも!》


「うん、なかなかいい応援じゃない。上出来よ、ミナト」

「……ありがと。ユイカは本当にいい奴だな」

「べ、別に、大したことはしてないわよ!」


 頬を赤く染めて、プイッと向こうを向くユイカだった。


「一着でしたー! ブイ!」


 障害物競走のアメ食いコーナーで、顔が真っ白になったアリサが帰ってきて、歓声に包まれる。


「一着おめでとう、アリサさん!」

「ありがとうございます!」


 小麦粉で顔が真っ白になっても、アリサの素敵な笑顔は全く、損なわれることはなかった。



 

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