電気マッサージ

 とある休日のことだ。アリサがうきうきでウチにやってきた。


「ふんふんふーん♪」


 アリサは鼻歌を歌って、上機嫌な様子だ。


「アリサさん、今日は機嫌がいいね。何かいいことがあったの?」

「よくぞ聞いてくれましたー! 午前中、電気屋さんに行く用事があったんですけど、在庫処分で“良いもの”見つけちゃいましたよ!」

「そっか! 何があったの?」

「はい! コレです!」


 ジャーンと袋から取り出したのは、手のひらサイズの棒状の本体に、振動で揉みほぐしを行うヘッドがついた“電気マッサージ器”である。


「ッ!?」


 一瞬、息が止まる。自分で使ったことはないが、なぜか妙に見覚えのあるマッサージ器である。


「在庫処分で1980円だったんですよー! 肩こりにも効くそうなんですよ。えへへ、最近肩がよく凝るから、便利そうだなーって」


 そ、そうだよな……。肩こりとかのコリをほぐす用だよな。い、いや、別に他の用途を思い浮かべた訳じゃないぞ。うん、全く。


「さっそく使って見ますね!」


 本体のスイッチを入れると、ヴィィインと低い振動音を奏で、マッサージ器が作動する。


「おおっ!」


 アリサはおもむろに、先端のヘッドを肩に当てる。


「あっ……これ……いいッ……ですね。んッ……。ふぁ……」


 気持ち良さそうにマッサージをするアリサ。漏れ出る吐息が妙に艶っぽい。


「ミナト君にもやってあげますねー」

「う、うん」


 試しにマッサージを受けてみると、思いの他気持ちよかった。これで1980円ならお買い得だろう。


「あのー、背中の方にも試しにやってもらいたいんですが、よろしいでしょうか?」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます。よっと」


 アリサはソファの上でうつ伏せになる。


 俺はスイッチを入れて、アリサの背中周りをじっくりほぐす。


「んっ……あっ……ふっ……あん……ふぁぁ」

「だ、大丈夫アリサさん?」

「いや……やめちゃ嫌ですぅ……。もっとぉ……」

「わ、分かったよ……」


 健全なマッサージのハズなのに、ものすごくイケナイ事をしている気分になってしまうのは、なぜだろうか……。


 アリサの嬌声きょうせいが俺の嗜虐心しぎゃくしんをくすぐる。


「これなら、どう?」

「ふぁ!? ふぁ……んっ! そこいいっ……です。あぁ、そこッ……んっ……あんっ! ふぁああ!」



「──アンタ達、何やってんの?」


 振り向くと、ユイカが立っていた。


「え!?」

「鍵が空いてるから、不用心だなと開けてみたのよ。そしたら変な声が聞こえたから、来てみれば……」


 ユイカは呆然と立ち尽くしている。


「あっ、ユイカ! えへへ、電気マッサージ器でミナト君に気持ちよくしてもらってました!」

「アリサさん!?」


 間違ってないけど、言い方ぁ! 


 俺は誤解を解こうとユイカに近寄る。


「ひっ! 近寄らないで! このケダモノ! その電気マッサージ機でアタシをどうするつもり!?」

「ち、違うって! ただ俺はマッサージを……」

「ユイカにも使ってあげましょうか? 一緒に気持ちよくなりましょう!」

「アリサ、目を覚まして! この男はケモノよ!」

「今度、学園に持っていって使ってみましょう!」

「アリサアアアアアアアアアアア!」

「…………」





 その後、俺はユイカの誤解をなんとか解いた。


「ごめんなさい……。はやとちりだったわ」

「ユイカは何をそんなに勘違いしてたんです?」


 アリサは小首を傾げる。


 ユイカは顔を赤くして、ごにょごにょとアリサに耳打ちをする。


「え? え!?」


 すると、アリサもみるみると頬を染める。ユイカはがなんと説明したかは、なんとなく想像できた。


「私、にっこにっこで、店員さんの前でこれを購入してしまいました……」


 アリサは絶望に打ちひしがれている。


「ア、アリサさんの使い方は間違ってないよ! ただ、幅広い用途があるだけだって!」

「そ、そうよ! 気を落とさないで、アリサ!」


 2人で必死にフォローする。


「いいんです……。私はド淫乱のドスケベ娘なんです……」


 アリサはズーンと肩を落とす。


「ミナト、アンタなんとかフォローしなさいよ! 仮にも恋人でしょ!?」


 俺はなんとかフォローをしようとする。


「ア、アリサさん! 俺はド淫乱のドスケベ娘でも大丈夫だよ!」

「アンタ、フォローって言葉知ってる!?」

「うわぁ、ごめん! テンパって……」

「え? ほんとですか?」


 すると意外にもアリサが生気を取り戻した。


「う、うん、ほんとだよ!」

「えへへ、ミナト君がそう言ってくれるなら、いいです!」

「(いいんかい……)」


 ──その後、電気マッサージ器は意外にも、揉みほぐし器として、みんなに重宝されましたとさ。




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