恋愛雑誌テクニック⭐︎

《アリサ視点》


 放課後に本屋に寄ってみる。9月の新刊をチェックする為だ。


 入室した瞬間に、柔らかな照明とひやりとした冷房が体を包み込む。


「(ふぅ、涼しいですね)」


 9月とはいえまだまだ残暑が厳しい、今日この頃。このままでは、いずれ夏と冬だけになってしまうのではないかというニュースを聞いたことがある。


 それは悲しい。四季折々の美しい景色も日本の魅力の一つだからだ。


「(やっぱり本屋は落ち着きますね……)」


 私はびっしりと並んだ本棚からゆっくり、本を吟味ぎんみする。


 新書独特の匂いが鼻腔びこうをくすぐる。私はこの優しい匂いが大好きだった。


「(これは……)」


 何気なく目を引いた新刊コーナーにあった本。タイトルは“恋愛必勝テクニック”。


 パラパラとページをめくると、恋愛に役立ちそうなテクニックが列挙されていた。


「(……買っちゃいましょうか)」


 私はそわそわと辺りを見回す。


 静かな雰囲気の中、客は各々自分の選んだ本に夢中になっており誰もこちらを気にとめていない。


「(ううっ……でもレジのお姉さんに、はしたない女って思われちゃいますかね……。そうです!」


 私は唐突に閃いた。


「(新刊コーナーで他に気になっていた硬派な本2冊に、この恋愛本をサンドイッチして持っていきましょう。ふふっ、我ながら冴えていますね)」


 私は澄まし顔で、レジのお姉さんに本を持っていき、会計を済ませる。


「ありがとうございました。またお越しくださいませ〜」

「はい、また来ます〜!」


 ペコリと店員さんに軽く会釈えしゃくをし、紙袋に入った本を大切に、カバンにしまう。


 なんだかいけないことをしているみたいで、胸がドキドキしてしまった。





 家に帰って、恋愛必勝テクニック本のページをめくる。


「ふむふむ。なるほど」


 私は内容を余さず脳にインプットする。


「ん? 袋とじですか?」


 私はハサミをとってきて、袋とじ部分をチョキチョキと切り落とし、中身を確認する。


「こ、これは……///」


 裏恋愛必勝テクニック! ■■■で彼氏を喜ばせよう!


 ご丁寧に図解で、■■■の仕方まで解説してある。


「きゃあああ! まだこういうのは早いですぅ!///」


 私は思わず、袋とじを投げ出す。


「…………」


 その後、私はいそいそと机の引き出しの中に袋とじを仕舞う。


「い、いつか役に立つかもしれません。念の為です……。念の為……」


 鏡を見る。見れば私の顔は真っ赤になっていた。


「ふぅ……とりあえず、普通の恋愛テクニックの部分は役に立ちそうですね。今度、ミナト君に試してみましょう」





 夕食後の2人きりの団らん中、私は恋愛テクニックを試してみることにする。


 恋愛テクニックその1 ゲイン・ロス効果


 これは普段とのギャップにキュンとくる効果らしい。いわゆるギャップ萌え。これを利用してみよう。


「今日は暑いですね〜」


 パタパタとわざとらしく手を仰ぎ、上部のボタンを外す。すると、私の谷間がわずかに露出する。


 清楚なキャラからの微エロ! これは決まったんじゃないだろうか!


「エアコンつけるね。あと、胸元がちょっと緩んでるよ。アリサさん、可愛いんだから、外とかは気をつけてね」

「は、はい///(可愛いって言われましたー///。心配もしてくれて嬉しいですぅー! あれ?)」


 なんか思ってたのと違うような……。


 恋愛テクニックその2 吊り橋効果

 

 恐怖や緊張状態だと恋愛感情が芽生えやすいという性質。心拍数のドキドキが恋愛感情のドキドキと錯覚するのだとか。


「ホラー映画、借りてきたんですよ。一緒に見ませんか?」

「そっか。たまにはいいかもね。よし、一緒に観よう」

「雰囲気出すために、暗くして見ましょう!」


 DVDが再生される。おどろおどろしい雰囲気が流れる。


『悪いこはいねーがー!』

「きゃああああああああ!」


 私は思わずミナト君に抱きつく。びっくりして心臓がバクバクする。


「大丈夫? 無理そうだったら言ってね」


 そう言って、ミナト君は優しく私の手をギュッと握ってくれた。


「(あっ、嬉しい/// あっ、心臓がドキドキしてる……。これどっちのドキドキなんだろう……。あれ?)」



 恋愛テクニックその3 ダブルバインド効果


 二択の選択を迫ることで、どちらかを選ばなければならない状況を作り出す。


「ねぇミナト君?」

「ん?」

「ミナト君は私のこと“好き”ですか? “嫌い”ですか?」


 この状況なら“好き”と答えるしかないはず! そうすれば好きだと意識してしまうでしょう。決まった!


「アリサさんはどうなの? 俺のこと“好き”? “嫌い”?」


 まさか質問返し!? 質問を質問で返すなって漫画で読みましたよ!?


「うぅ……“好き”……です」

「よかった。俺も」


 ミナト君は満面の笑みで、私を優しく撫でる。


「うう……///(やられっぱなしです……。今度の機会があったら、次こそは!)」





 




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