調理実習

「という訳で次回は調理実習だ。カレーを作ってもらう。3人1組で行い、組み分けは、こっちで決めておいたから、後で確認しておいてくれ」


 家庭科の先生の発言にクラスのみんながざわつく。


《っしゃあ! カレーだぜ!》

《うわぁ。俺、料理なんてカップ麺くらいしかできねーべ?》

《どれどれ、組み分けは……っと》

《くっ……これも因果律の定めか……》


 クラスの反応は様々である。俺も張り出された組み分け表を確認してみる。



2班 如月湊 早乙女アリサ 救世ユイカ



「アリサさん、ユイカ、今度の調理実習、一緒だよ。よろしくね」

「「…………」」


 2人とも真っ青な顔をして、固まっていた。いや、アリサは分かる。料理苦手だから。もしかして、ユイカお前もか?


「ユイカは料理苦手なのか?」

「は、はぁ!? この私が料理が苦手な訳ないじゃない!」


 嫌に取り乱しているな。怪しい。


「本当か?」

「あ、当たり前じゃない!」





 とある夕食前のこと。アリサとユイカは俺の部屋で、まったりしていた。


「今日は、今度の調理実習に向けて、みんなでカレーを作る練習をしようと思うんだ」

「なるほど! 確かにその方が良さそうですね!」

「ふ、ふーん。まぁ、アリサの練習にもなるし、いいんじゃない? 私は寝てるわ! ぐぅーzzz」

「ユイカもな?」

「ユイカもやりましょう!」

「ぐっ……仕方ないわねぇ!」





 結果は散々だった。包丁の握り方、野菜の剥き方、どれもめちゃくちゃだ。


「ユイカ……?」

「ううっ、アタシも料理下手なのよ……。見栄張ってごめんなさい……」


 ユイカはしょんぼりと肩を落とす。


「ユイカ、私と料理下手同盟を組みましょう!」 

「嫌な同盟ね……」


 ユイカも俺の家で食事をとる機会が多い理由がわかった気がする。


「言いにくかったよな……。でも素直に言ってくれるありがとう。ユイカ。これで調理実習に向けて、対策を打てるよ」

「う、うん……」

「丁寧にゆっくり教えるから、頑張ろうな」

「そうね……。アタシやってみるわ」

「私も頑張りますから!」

「アンタはほどほどにね? 家が壊れるわよ?」


 アリサの家事の下手さは次元が違うのだ。




「ピーラーでニンジンを剥いたら、次は包丁で切るよ。左手を猫の手のようにして、ゆっくり切ってね」

「こ、こうかしら?」

「ん〜もうちょっと曲げてみて」


 俺はユイカの左手に触り、指を曲げさせる。


「ッ〜!(し、自然に手を触ってくるのわね。アリサで慣れてるのかしら……)」


「そうそう、いい感じだよ」


 俺はにっこりと優しく微笑む。


「あ、ありがと……(う〜、笑顔が眩しい……)」

「私は何を手伝いましょうか?」

「アリサさんは、ジャガイモを洗ってくれるかな?(アリサさんは、包丁持たせると指切っちゃいそうだからな……)」

「分かりました! お任せ下さい!」





「うん、美味しいです〜! まろやかなコクと程よい辛さが口いっぱいに広がります〜! じっくりと煮込まれたお野菜とお肉が、またたまりませんね!」


 満面の笑みでアリサが舌鼓したつづみを打つ。


 ユイカ作のカレーが完成した。


「ほ、ほとんどミナトに手伝ってもらったものだけど……」

「俺はアドバイスしただけ。作ったのはユイカだよ」

「あ、ありがと……。あっ、美味しい……」

「だろ? 自信持っていいよ。ユイカ」

「うん!」


 ユイカの顔は作る前と比べて、イキイキとしていた。この感じで、うまく分担すれば、調理実習もなんとかなりそうだ。





 調理実習は大成功だった。先生の味見も高評価で、自分たちで食べても文句なしの出来だ。


《ユイカの班のカレー、すごく美味しそうね!》

《うんうん、すごくいい匂いだわ!》

《ちょっと、味見させてくれよ》


 ざわざわとギャラリーが集まってくる。


「はいはい、みんな席に戻って、自分たちの🍛食べなさーい!」


 先生の掛け声で、みなゾロゾロと席に着く。


「うまくできたな!」

「完璧ですね!」

「うん! どんなもんよ!」


 ユイカは満足そうに、素敵な満面の笑みを浮かべていた。


 

 

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