少女漫画を読んだ日に

《アリサ視点》


 私は少女漫画を読んだことがなかった。ただ漫画自体はよく読む方である。


 母国で日本のことを勉強をする際に、言語や文化面など、大変参考にしたものだ。


 七つの玉を集める冒険譚ぼうけんたん、海賊の王を目指すピカレスクロマン、はたまた鬼を滅するダークファンタジー。


 どれもこれも私の琴線きんせんに触れた、名作達だ。


「アリサ、アンタ“どすこい花太郎”って知ってる?」


 ユイカが唐突に話を振ってきた。


「どすこい花太郎? 力士の方ですか?」

「違う、違う。最近、ドラマ化して、話題にもなってる少女漫画」

「へぇ〜。面白いんですか?」

「面白いなんてもんじゃないわよ! 主人公がこれまたかっこいいの!」


 ユイカはジェスチャーを交え、力説する。


「なるほど。世の女性をとりこにする魅力がある事は伝わりました」

「でしょ? 今度、漫画貸してあげるから、読んで見なさいよ。10代の乙女なら必修科目よ!」

「ありがとうございます! 暇な時に、読んでみますね」





 自宅に帰って、一息をつく。ミナト君との夕食まではまだ少し時間もある。


 そうだ。この前貸してもらった少女漫画を読んでみよう。


 私の好みは特定の少年誌に偏っている為、少女漫画を読むのは初めてで、新鮮だった。


「ふむふむ」


 まず思ったのは、少年漫画とは明らかに違う絵のタッチ。


 バトル漫画の迫力のある荒々しい線とは違い、線の細い繊細で綺麗な絵だった。


「なるほど。少年漫画に比べると、心理描写も多く、人間関係に重きを置いているようです」


 ペラペラとページをめくる。


「ふむ? 一向に、鬼や死神のような異形が出てきませんね。いずれは、ヒロインを巡って、能力者バトルトーナメントが開催されるですかね?」


 ──当時の私の漫画の知識は、かなり偏っていたのだった。





『おいどん、アンタに惚れちまったよ』

『おいどんさん……』

『ちゃんこ鍋とアンタ、どっちも食っちまうぜ?』

『おいどんさん……。せめて、白米も一緒に……らめぇ!』

『おいどん、もう我慢できねぇ!』

『うふ、決まり手は“押し倒し”……ね?』


「ほえ〜……。す、すごいです……」


 少年漫画とは違い、恋愛描写が“過激”である。私は興味津々で少女漫画を読み進めた。


 ヒロインが、力士を目指している少年に、押し倒されてしまった時はドキドキした。


「ううっ、これはちょっと……///」


 その後、ヒロインが重さに耐えかねて「グエー」とカエルのような鳴き声を出したところには、涙を禁じ得なかった。


「かわいそうに……。重かったでしょうに……ぐすっ」


『すまんでごわす!』

『この重さ、癖になりそう……』


「えええ!? これに興奮しちゃうんですか!?」


 理解が追いつかなかった。でも世の中ではこの話が支持されているらしい。つまり共感されているということだ。


 もしいつか、ミナト君に押し倒されたら「グエー」ってカエルの声を出す練習をしようかな? その時はミナト君、喜んでくれるかな?


『ごわすさん……。お尻を叩いて下さる?』

『はっけようい……のこったァ!』

『ああああああああああ! たまらないわぁ!』


「ど、どういうことですか!? お尻を叩かれると世の男性、女性は興奮するのですか!?」


 試しに自分のお尻を軽くペチンと叩いてみる。


「ヒリヒリします……」


 後でミナト君に、お尻を叩くと興奮しますか?と聞いてみようかな?

 

 スマホの通知音が鳴る。あっ、ミナト君だ。


「今日のご飯も楽しみです♪」


 私は合鍵を持って、ウキウキでスキップでミナト君の部屋に向かう。





「ミナト君って、私のお尻を叩くと興奮しますか?」

「ーーーッ!?!?」


 ミナト君は固まった。


「ごめん、なんか聞き間違えたかも……。もっかい、言って?」

「ミナト君って、私のお尻を叩くと興奮しますか?」

「聞き間違えじゃなーい! いきなりどうしたの!? アリサさん!?」

「え? でもこれが普通なんじゃ?」

「ごめん、ちょっと頭が追いつかない……。休憩させて?」


 うーんとうなり、ミナト君はソファに横になった。


 スマホの通知音が鳴る。ユイカからだった。


『ごめん! 似てたから間違えて“夜の大相撲〜秋場所〜”っていう、アダルトな漫画を間違えて貸しちゃった! 読んでもいいけどエロいよ?』


「え? つまり?」


 私はえっちい漫画が人気の漫画だと信じ、プレイもこれが普通だと思ってしまったってこと!?


「み、ミナト君、ごめんなさーい! 勘違いです! 私、痴女ちじょじゃないですよー!」


 

 


 

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