嫉妬

 近所のユイカの家まで送って行く途中、ユイカが「気がついた?」と言ってきた。


「アリサさんのことだろ? 少し元気がなかった」

「ん。分かってるならいいわ。理由は分かってる?」


 俺は頭を振る。


「鈍感ねぇ……。まぁ、いいわ。帰ったらアリサとゆっくり話しなさい。恋人(仮)でしょ?」

「ああ、分かった。ありがとう、ユイカ」

「ええ、見送りありがとう。じゃあ、また明日ね」





 帰宅するとアリサはソファでぼんやりと座っていた。


「ただいま」

「……あっ、おかえりなさい」


 やはりどこか変だ。いつもと違って顔に生気がない。


 俺はソファの横に座り、アリサに話しかける。


「アリサさん、どうかした?」

「……やっぱりばれてましたか」

「うん、元気がなかったから。嫌でなかったら、理由を話して欲しい。俺でよかったら、力になりたい」

「うう……言うのが恥ずかしいです……」


 アリサの顔がほんのりと赤くなる。


「アリサさんが心配なんだよ」

「うううっ……“嫉妬”……です」

「嫉妬?」

「他の女の子にモテててる聞いて、モヤモヤしちゃったんです! うっ……言っちゃいました……。恥ずかしい……」


 アリサは手で顔をおおった。


「なんだ、そんなことか。よかった……」


 俺は胸を撫で下ろす。もっと深刻な事態を想定していたから。


「ううっ……結構、悩んだんですよ? 私、嫉妬深いのかなぁなんて……」

「それだけ俺のこと気にかけてくれてるってことだから、俺は……嬉しいよ」

「あ、ありがとうございます………」 


 お互い顔がカァーと赤く染まる。


「てかさ、前にコハルに何か教えられてなかっっけ? NTR《寝取られ》の極意だかなんだか」

「あっ、あれは忘れて下さい!(少しだけ興奮したのは内緒にしときましょう……)」

「う、うん」

「そ、それじゃあ……」


 アリサは急に俺に抱きついた。


「ちょっ!?」

「嫉妬がかき消えちゃうくらい、今日はミナトに甘えちゃってもいい……ですか?」


 う、上目遣いでおねだりする、アリサさん可愛い……。


「う、うん。分かった。今日は存分にアリサさんを甘やかすよ。アリサさんの不安がなくなるくらい」

「えへへ。わーい! ひざ枕して、そのままなでなでしてください!」

「わ、わかった!」


 アリサの頭を膝の上にのせ、そのまま頭をなでる。アリサの目線はじっとこちらを見たままだ。


「じっー」

「っ!」


 恥ずかしくて、つい目を逸らす。


「あっ、顔そらさないでください! ずっとミナト君の顔見ながら、撫で撫でされたいんです!」

「う、うん……」


 ペットをあやすかのように、アリサをひたすらなでる。


 しばらくすると「交代です」と言ってアリサが自分の膝をポンポンと叩く。


「は、恥ずかしいよ……」

「遠慮せずに〜!」


 半ば強引に頭を膝に乗せられる。ポフっとした柔らかい太ももにドキリとする。


「なでなでしますね〜」

「は、恥ずかしい……」


 羞恥心しゅうちしんで顔が真っ赤になる。


「恥ずかしがるミナト君可愛いです……」

「やめてください……」

「あっ、こっちの顔ずっと見ててくださいね?」

「な、なんで?」

「えへへ。ミナト君の目には、もう私しか映らないようにしちゃいます。なーんて……」


 ジョークを飛ばすアリサさんに俺は、


「それならもう、俺にはアリサさんしか映ってないから大丈夫だよ? とっくの昔にね」


 なんて冗談で返してみる。


「〜〜〜っ!///」


 アリサの顔が真っ赤に染まる。


「何て恥ずかしいことを真顔で言うんですか! ミナト君!」

「アリサさんにだけは、言われたくないんだけど!?」


 


 

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