2学期

 長かった夏休みは終わりを告げ、2学期が始まった。


 あのけたたましいセミの鳴き声は鳴りを潜め、落ち葉をたずさえた風は、秋の到来を予感させる。


「おいっす〜……」

「おはよう、たかし」


 気怠けだるそうな瞳をしたたかしが、これまた気怠そうな挨拶をした。


 完全に厨二病キャラを忘れるほどにだれているのか……。まぁ、気持ちは分からんでもないが。


《夏休み終わっちゃたねー……》

《マヂだるい……》

《よっしゃー! 2学期だぜ!》

《イベントだらけの2学期楽しみだよねー!》


 クラスを見渡すと、休みボケ派と2学期楽しみ派に分かれているようだ。ちなみ俺は2学期楽しみ派。


 秋の体育祭、学園祭、修学旅行と楽しみな行事が目白押めじろおしである。


 今からワクワクするなと考えていると、教室の扉がガラッと開き、「おはようございます」と可憐かれんな声が、教室に響く。


 銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女が入室すると、一気に教室がはなやぐ。


《アリサちゃ〜ん♡ おはよ〜!》

《おはよう! 元気にしてた〜!?》

《休み中会えなくて、寂しかったよマイプリンセス……》

《やっぱ可愛いよなぁ……。また告白しようかな……》


 クラスのアイドルのアリサは、瞬く間にクラス中の人に囲まれる。


 そっか。感覚マヒしてたけど、アリサって、本当は俺が手が届かないほどの、高嶺たかねの花なんだよな……。


「はいはい、男共は散りなさいよ。アリサが通れないじゃない。しっしっ!」


《ユイカちゃんも久しぶりー!》

《クラスのNo1とNo2のお通りだ!》

《間に入りてぇ〜……》

《くぅ〜、あのツンがたまらないんだよなぁ!》


 アリサと共に現れたのは赤髪ツインテールで、男子には少しトゲがある小柄な女の子、救世ぐぜユイカ。


 こちらもアリサに負けず劣らずの人気者である。アリサとユイカのコンビは学園でも有名であり、“アリユイファンクラブ”なるものが存在するとかしないとか……。


 2人はカツカツと可憐かれんな足取りで、こちらへやってくる。アリサとユイカの席とはご近所なのだ。


「おはようございます、ミナト君」

「おはよう、ミナト」

「2人ともおはよう」


 2人の美少女と挨拶を交わす。まぁ、アリサとは今朝も朝ごはんを一緒に食べてはいたのだが。


「ミナトー、借りてた漫画返すわ〜。はい」

「あいよ」

「2学期も楽しみですね。ミナト君!」

「楽しみだね、アリサさん」


 和気藹々わきあいあいと3人で会話をする。2人の美少女と仲良さそうに話をするのだ。嫌でも男共の目を引いた。


《あれぇ!? いつのまにミナトの奴、アリサちゃんだけじゃなく、ユイカちゃんとも仲良くなってんだ!?》

《許せんなぁ……許せんなぁ!》

《ぬおおお! うらやまけしからんでござる!》

《まさか、ユイカさんにもあの例の“唐揚げ”食わせたんじゃ……》

《そりゃあ落ちるべ!? てか俺、禁断症状やばいべ!?》

《ミナト見ると、腹減ってくるんだよ……。あぁ、唐揚げ食いてぇ……から……あげ……》





 休憩時間にトイレに行った後、クラスメイトの遠藤麻里えんどうまりがプリントの束を運んでいるのを見かけた。


 肩まで伸びた黒髪、前髪で右目が隠れているのが特徴のおとなしめの女の子だ。


「んしょ……んしょ……」


 プリントの束で、前が見えなくなっている状態で運んでいるので、見ててあぶなっかしい。


「あっ……」


 手伝おうと思った瞬間、プリントのバランスが崩れて辺りに散らばる。麻里は必死にプリントをかき集めている。


「大丈夫? 手伝うよ」

「如月君? あ、ありがとう」


 俺たちはプリントを集め、その半分を俺が持つ。


「半分持ってくれるの?」

「危ないからね。またこういう時があったら遠慮なく言ってよ」


 俺は自然な笑みを浮かべ、麻里と会話をしながら教室へと運んだ。


「(如月君優しいなぁ……)」 





 なんだか最近は女子と自然な感じで、接する事ができるようになった。


 昔は女の子と話すことに苦手意識があって、話すのをできるだけ避けていた気がする。


 でもアリサと過ごすようになって、そんな苦手意識は消え去り、普通に女子と接することができるようになった。


《なんか最近、ミナト君っていい感じじゃない?》

《うん、わかる。なんか垢抜けたっていうか? なんか余裕があって、頼もしいというか?》

《私もこの前、プリント拾ってもらって、運ぶの手伝ってもらったんだー》

《アリサとユイカと普通に話してるしね。普通の男なら赤面モノよ? 言葉なんて出てこないわよ?》

《ミナト君ってフリーだよね?》

《私、告っちゃおっかな……》

《マヂ? きゃああ!》





「アンタ、最近モテてるわよ?」


 当然のように夕食に参加しているユイカから、いきなり突然そんなことを言われた。


「はぁ? いきなりなんだよ? 冗談か?」

「違うわよ。最近、アンタのこと“いい”っていってる女の子増えたから。こういうウワサって、広がるの早いわよ?」

「そ、そうなのか」

「そうよ。あっ、おかわりお願いねー!」

「あいよー」



 まぁ、好かれている事事態は悪い気はしない……かな?


 





 

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