救世ユイカ登場 その2

 ピンポンピンポンと呼び鈴が連打される。


「だ、誰だよ……。はーい?」


 インターホン越しにのぼくと、そこにはクラスメイトの救世ぐぜユイカがいた。何やらすごい形相ぎょうそうである。


「え?」


 そして傍には申し訳なさそうにたたずんでいるアリサがいた。そう言えばユイカはアリサと仲が良かったはずだ。


 とりあえず俺はガチャリとロックを解除する。すると「失礼するわ」と言って、ユイカがドカドカと入り込んできた。


「アリサさん? これは?」

「あの……すいません。私たちの関係を話したら、ユイカが突然……。話せば分かって貰えると思って、ここに連れてきてしまいした。申し訳ありません……」


 アリサがぺこりとお辞儀する。


「アリサは謝る必要ないわ! 悪いのはこの男よ!」


 ビシッと俺に指を刺すユイカ。ええ? 俺、なんかしたっけ……? そりゃあ、アリサとは結構深い付き合いはしているけど、そんな悪いことをしているつもりは……。


「ユイカは何か勘違いしています……」


 アリサはふぅとため息を吐く。


「アンタに聞くわ。本当にアリサと付き合ってはいないのね?」


 真剣な眼差しで、俺を見つめるユイカ。


「仲良くさせてもらってるのは事実だけど、付き合ってはいないよ」


 俺も真剣にそう答えた。


「そう……。アリサの照れ隠しだと思った私が馬鹿だったわね」


 ユイカはふぅと息を吐くと


「アンタ、アリサを“抱いた”んでしょ? それなのに付き合ってもいない? アリサとは遊びの関係って言いたい訳?」


 と、とんでもない事を言ってきた。


「だ、抱いてないよ!」


 俺は必死に否定する。


「嘘おっしゃい! アリサがさっきアンタに抱かれたって言ってたのよ!」

「はい、ミナト君には何回も抱かれました! (普通に抱きしめられました)」

「アリサさーーん!?」

「覚悟はいいかしら、このスケコマシ野郎……」


 ユイカは鬼のような形相で、ポキポキと指を鳴らしている。


 これは何かの間違いだ。俺は必死に頭を巡らせる。そうだ! “抱く”って言葉の意味で誤解が生じているんじゃないか?


救世ぐぜさん、ちょっと……」

「何よ? 遺言なら聞いてあげないこともないわよ?」


 俺はユイカに耳打ちをする。


「アリサさん、“抱いた”の意味勘違いしてるんじゃない? ちょっと聞いてみて」

「はぁ? そんな訳……。いや、アリサは外国育ち。日本語のそういう“隠語”には弱い……かも?」


 ユイカはアリサにごにょごにょと耳打ちを始めた。


「アリサ、“抱かれる”って意味はね──」


 それを聞いたアリサは顔を真っ赤にして


「そんな訳ないじゃないですか! ふしだらですよ!」


 と否定した。


 ユイカはあちゃーと頭を抱え、


「何か勘違いしてたようだわ……。はやとちりしてしまって、ごめんなさい……」


 とペコリと謝った。


「いや、いいよ。アリサさんとはちょっと特殊な関係だからね。俺たちから経緯いきさつを説明するよ」

「はい、私も言葉足らずなところがありましたし……」

「う、うん……。お願いするわ」





 俺はこれまでの経緯いきさつ懇切丁寧こんせつていねいに説明した。

 

 長い話を聞いて、ユイカはふぅと息を吐く。


「つまり付き合ってるってことね!」

「話聞いてた!?」

「だって話聞いてても、惚気のろけ話にしか聞こえんだもん。てか、アリサ、アンタ風邪引いた時はアタシに頼りなさいよ! ミナトがいなかったら危なかったじゃない!」

「ごめんなさい、ユイカ。私、部屋が汚れてるなんて恥ずかしくて……」

「バカアリサ……。アタシはアンタがどんなにズボラでも、幻滅したりなんかしないわよ」

「ユイカ……。ありがとうございます……」


 アリサは少し涙ぐんでいる。うん、ユイカはいい奴だな。アリサにこんな友達がいてくれて良かった。


 ユイカは改めてこちらを向き、礼を述べた。


「ありがとう、ミナト。あなたがいなかったら、アリサが危なかったかもしれないわ。それと、これからもアリサをお願いね。この子、人当たりは良さそうに見えるけど、なかなか人に心を開くことは無いから」


 自分も熱の時に、頼られなかったこともあったせいか、その言葉にはほんの少しの悲しみを背負っていた。


「うぅ……ユイカ、ごめんさーい!」


 涙ぐみながら、アリサはユイカに抱きつく。


「ちょっとアリサ、恥ずかしいってば! 全く……。今度、何かあったら遠慮なく頼りなさいよ? アタシもそうするから」

「はい、ありがとうございます! ユイカが友達で本当によかったです!」

「まったく、大げさねぇ……。さてと、つかえも取れたし、アタシはお邪魔するわ」

「もう帰っちゃうんですか?」

「アタシがいたら、お邪魔虫でしょ? ミナトに美味しい料理作ってもらいなさい」


 そこでぐぅーと腹の虫が鳴る。それはユイカの腹から聞こえていた。


「っ……///」


 ユイカは頬を染めて、恥ずかしがる。


「なぁ、よかったら夕飯食べていかないか?」

「そんなの迷惑……でしょ?」

「アリサさんがどんなご飯を食べているか、チェックしなくてもいいの?」


 俺は食べてもらいやすくするための、それっぽい理由を言った。


「うっ……。それもそうね。ちなみに今日のご飯は?」

「唐揚げ」

「うっ……。ア、アタシの大好物じゃない。アタシは唐揚げにはうるさいわよ?」

「ミナト君の料理はどれも絶品ですよ! ぜひ、ユイカも食べて見て下さい!」


 こうして今晩3人で食事する運びとなった。

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