救世ユイカ登場 その1

「じゃあ、母さん、コハルまたね」

「お世話になりました」


 駅まで送ってもらった俺たちは、挨拶を済ませる。


「寂しくなるわねぇ」

「アリサお姉ちゃん、寂しーよ……」


 母とコハルは名残惜しそうにしている。そんな2人に「またお邪魔してもいいですか?」とアリサが言った。


「ええ、いつでもいらっしゃい。もう家族みたいなものだと思ってるわ」

「ありがとうございます、お母様」

「お正月にでもまた来てよ! アリサお姉ちゃん!」

「はい、よろしければぜひ!」

「じゃあ、またな」


 田舎に別れを告げ、都会の喧騒けんそうへ。一年ぶりの帰郷にもかかわらず、この田舎は変わらず俺を待っていてくれた。


「帰りましょうか」

「うん、帰ろう」


 来た時と変わらず、緑はどこまでも広がり、セミは鳴き止まない。


 やっぱり俺はこの田舎が好きだ。願くばまた、アリサさんとここに──。





《九条アリサ視点》


 夏休みも終わりに近づいた頃、私は友人の救世ぐぜユイカとファミレスでゆっくりとしていた。


 赤髪ツインテールの小柄の可愛らしい女の子だ。


「ねぇ、アリサ。アリサは夏休み何してたの? ちょこちょこ、どっか行ってたみたいだけど」


 ドリンクバーのコーラを氷をカラカラとかき混ぜながら、ユイカは聞いてきた。


 この夏は、ユイカとちょこちょこ遊んだりもしてたけど、ミナト君といろんなイベントがあったので、誘いを断ったこともあった。


「はい、海に行ったら、夏祭りに行ったり、田舎に遊びに行ったりしてました」

「めちゃくちゃエンジョイしてんじゃん! アタシも誘ってよー!」


 ユイカはぷくっーと口を膨らませる。


「っていうか誰と行ってたの? C組の加藤グループ?」

「いえ、同じクラスのミナト君とです」

「ぶふっーーー!?」


 ユイカは膨らませていた口を吐き出した。


「え!? なに!? アンタ達付き合ってんの!? しかもミナト!? いや、そんなに顔は悪くないけど、アンタならもっと上行けるでしょ? バスケ部の近藤とか!」


 がぁーとまくしたてるユイカ。


「落ち着いてください、ユイカ。そもそも私はミナト君とお付き合いはしていませんよ?」

「へ? 付き合ってもいない男と、海とか夏祭りとか行ったの? アリサってそんな軽い女だったっけ?」

「軽い女とは失礼ですね、ユイカ。私にとってミナト君は“とても大切な人”です」


 わたしは胸に手を当てて力説する。


「ミナト君の料理はとっても美味しいんですよ! 私はミナト君の料理に活かされてます!」

「え……? アンタ達、食事を一緒にとる仲なの?」

「はい、毎食」

「毎食!?」


 ユイカの目が丸くなる。

 

「ミナト君は優しいんですよ。誕生日には2人っきりで祝ってもらえました! ケーキまで自作してくれたんです! おいしかったです」

「付き合ってんじゃん!」

「つ、付き合ってないです!」

「ほ、他にも何かあったりするの?」

「うーんと……この間はミナト君の実家にご挨拶に行きました」

「実家に挨拶!?」

「はい、とても仲良くさせていただいてます」

「もはや結婚を前提にお付き合いしてんじゃん!」

「し、してないですよ!」


 ユイカは何やら頭を抱えている。何をそんなに悩んでいるのだろう?


「……もしかしてミナトと寝たことある? (ちょっといやらしい意味で)」

「はい、何回か……(雷の日と実家で、すやすやと)」

「ぎゃあああああああああああああ!」


 ドッターンとユイカがテーブルに突っ伏す。


「ゆ、ユイカ?」


「(アリサを抱いておいて、友達関係だと言い張るのかあの男は! 許せない、アリサは騙されて遊ばれているのよ! 親友として、このアタシが!)」


 ユイカはテーブルからがばっと立ち上がる。


「今から、ミナトの家に行くわよ! アリサ!」

「ええ!?」


 その顔は何か決意を秘めた、真剣な表情をしていた。

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