救世ユイカ登場 その1
「じゃあ、母さん、コハルまたね」
「お世話になりました」
駅まで送ってもらった俺たちは、挨拶を済ませる。
「寂しくなるわねぇ」
「アリサお姉ちゃん、寂しーよ……」
母とコハルは名残惜しそうにしている。そんな2人に「またお邪魔してもいいですか?」とアリサが言った。
「ええ、いつでもいらっしゃい。もう家族みたいなものだと思ってるわ」
「ありがとうございます、お母様」
「お正月にでもまた来てよ! アリサお姉ちゃん!」
「はい、よろしければぜひ!」
「じゃあ、またな」
田舎に別れを告げ、都会の
「帰りましょうか」
「うん、帰ろう」
来た時と変わらず、緑はどこまでも広がり、セミは鳴き止まない。
やっぱり俺はこの田舎が好きだ。願くばまた、アリサさんとここに──。
♢
《九条アリサ視点》
夏休みも終わりに近づいた頃、私は友人の
赤髪ツインテールの小柄の可愛らしい女の子だ。
「ねぇ、アリサ。アリサは夏休み何してたの? ちょこちょこ、どっか行ってたみたいだけど」
ドリンクバーのコーラを氷をカラカラとかき混ぜながら、ユイカは聞いてきた。
この夏は、ユイカとちょこちょこ遊んだりもしてたけど、ミナト君といろんなイベントがあったので、誘いを断ったこともあった。
「はい、海に行ったら、夏祭りに行ったり、田舎に遊びに行ったりしてました」
「めちゃくちゃエンジョイしてんじゃん! アタシも誘ってよー!」
ユイカはぷくっーと口を膨らませる。
「っていうか誰と行ってたの? C組の加藤グループ?」
「いえ、同じクラスのミナト君とです」
「ぶふっーーー!?」
ユイカは膨らませていた口を吐き出した。
「え!? なに!? アンタ達付き合ってんの!? しかもミナト!? いや、そんなに顔は悪くないけど、アンタならもっと上行けるでしょ? バスケ部の近藤とか!」
がぁーとまくしたてるユイカ。
「落ち着いてください、ユイカ。そもそも私はミナト君とお付き合いはしていませんよ?」
「へ? 付き合ってもいない男と、海とか夏祭りとか行ったの? アリサってそんな軽い女だったっけ?」
「軽い女とは失礼ですね、ユイカ。私にとってミナト君は“とても大切な人”です」
わたしは胸に手を当てて力説する。
「ミナト君の料理はとっても美味しいんですよ! 私はミナト君の料理に活かされてます!」
「え……? アンタ達、食事を一緒にとる仲なの?」
「はい、毎食」
「毎食!?」
ユイカの目が丸くなる。
「ミナト君は優しいんですよ。誕生日には2人っきりで祝ってもらえました! ケーキまで自作してくれたんです! おいしかったです」
「付き合ってんじゃん!」
「つ、付き合ってないです!」
「ほ、他にも何かあったりするの?」
「うーんと……この間はミナト君の実家にご挨拶に行きました」
「実家に挨拶!?」
「はい、とても仲良くさせていただいてます」
「もはや結婚を前提にお付き合いしてんじゃん!」
「し、してないですよ!」
ユイカは何やら頭を抱えている。何をそんなに悩んでいるのだろう?
「……もしかしてミナトと寝たことある? (ちょっといやらしい意味で)」
「はい、何回か……(雷の日と実家で、すやすやと)」
「ぎゃあああああああああああああ!」
ドッターンとユイカがテーブルに突っ伏す。
「ゆ、ユイカ?」
「(アリサを抱いておいて、友達関係だと言い張るのかあの男は! 許せない、アリサは騙されて遊ばれているのよ! 親友として、このアタシが!)」
ユイカはテーブルからがばっと立ち上がる。
「今から、ミナトの家に行くわよ! アリサ!」
「ええ!?」
その顔は何か決意を秘めた、真剣な表情をしていた。
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