帰省 その2
「ただいまー」
「お邪魔します」
我が家に1年振りに帰宅する。懐かしい木造建築の匂いが鼻をくすぐる。あぁ、ウチの匂いだ。その匂いに俺は安堵を覚える。
「ここがミナト君の育った家なんですねー」
アリサは
「自分の家だと思ってくつろいでね。アリサちゃん」
「はい、ありがとうございます。お母様」
「早速、お昼にしようよー! もう、お腹ぺこぺこだよー! “アレ”用意しといたんだよー!」
「アレ?」
アリサがはてと小首を傾げる。
「ママとコハルちゃんで、流しそうめんの準備しといたわよー」
「夏と言ったら流しそうめんだよね!」
「流しそうめん?」
「まぁ、見た方が早いよ」
♢
流しそうめんを流すための、竹を半分で割って作られたものが、庭に設置されている。
「俺が水とそうめんを流すから、それを箸ですくって、めんつゆにつけて食べるんだよ」
「流す理由はなんなのですか? 普通に食べるのとは違うのです?」
「う〜ん。確かに味は変わらないかもしれないけど、“気分”かな。風流な気分になって、美味しく感じるんだ」
「なるほど! 海の家で食べた“焼きそば”や祭りで食べた“かき氷”みたいなものですね! 確かに、雰囲気で味わい深いものになることもあります!」
それを聞いて、アリサは真剣に割り箸を構える。少しでも麺を取りこぼさないという、気迫を感じる。
「お兄ちゃん、早く早くー!」
「あいよー」
俺は水と共に、ゆでたそうめんを上部に流す。透き通るような麺が、流水に揺られ舞っている。
「来ました!」
アリサは身構え、そうめんがきた瞬間に割り箸を
「あれ?」
まるでスカッという音が聞こえたかのよう。アリサはそうめんをすくえなかったようだ。
「へへー、いただきー! うーん! おいひい!」
そうめんを華麗にすくい、ちゅるちゅると美味しそうに食べるコハル。
「あー! 私のそうめんがー!」
アリサはうらやましそうに、それを眺めていた。
「あらあら、まだまだあるから、焦らずとも大丈夫よ」
「はい、次こそは!」
俺が第二弾を流すと、前回の反省を活かしたのか、見事にそうめんを割り箸で掴み取る。
そしてめんつゆにたっぷりとつけて、ちゅるちゅると吸い上げる。
「うーん! 心地よい冷たさと、この喉ごし! 確かに流すことで“涼”を感じられます! 夏の暑さで食欲が減っていましたが、これならいくらでも食べられそうです! アクセントのワサビがまた、たまりませんね!」
アリサは目を閉じて、
「あらあら、美味しそうに食べてくれるわねぇ。こっちまで嬉しくなるわ」
「お兄ちゃん、どんどん流してー! 後で交代するからー!」
「行くぞー」
その後、俺達は満腹になるまで、存分に流しそうめんを味わったのだった。気のせいか、夏がほんの少し涼しくなったような、そんな気がした。
♢
昼からは家の近くにある墓に参る。
「私もご一緒してもよろしいですか?」
と聞かれたアリサに、
「アリサちゃんみたいな可愛い子をミナトちゃんが連れて来た知ったら、お爺ちゃん、お婆ちゃんも喜ぶわ!」
と母が言って、一緒に墓参りをすることに。
慣れないながらも、線香を立て、祈るアリサの姿は様になっていた。
俺も横で一緒になり、線香を立て祈る。
「(恋人ではないけどさ。俺、素敵な女の子の友達ができたよ。じいちゃん、ばあちゃん。なんだかさ、放っておけないんだ、彼女のこと。好きなんだ。でもその事を伝えると今までの関係が壊れてしまいそうでさ……。怖い。でもさ、ちゃんと気持ちは伝えないいけないとは思ってる──)」
♢
実家で夕食を食べた後のことだ。
「そういえばアリサさんはどこで、寝てもらう?」
俺は母に聞いてみる。すると母は、
「あら、もうミナトちゃんの部屋に、2人分の布団を用意してあるわよ?」
なんて当たり前のように言ってきやがった。
「い、いや無理だって!」
「お母さま、それは!」
「どうして? 付き合ってるでしょう? それともまさか──」
や、やばい! でも一緒に寝るの流石に……。
「気を使って頂き、ありがとうございます! お母様! 今夜は一緒に寝させてもらいます!」
ええけえええええ!? 確かに雷の時は一緒に寝たけどさ! あれは緊急事態だったから……。
「ですよねー? ミナト君! (合わせ下さい!)」
「う、うん! ありがとう、母さん!」
「壁は防音だから安心しなさいな。きゃ⭐︎」
きゃっ⭐︎じゃねーよ! 何を安心するんだよ! ちくしょう! コハルは腹抱えて笑いを堪えてやがるし!
♢
「ね、寝ましょうか」
「う、うん」
夜、俺の部屋でアリサと2人。俺は今日、眠れるのでしょうか……。
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