帰省 その1
「お盆に実家に帰ろうと思うんだ」
リビングで2人でくつろいでいる時に、俺はアリサにそう切り出した。
「お盆とは確か、亡くなられた方の魂が現世に帰ってくるので、それを供養する日でしたよね。はい、それはとても大切なことです。ぜひ、帰ってあげてください」
お盆に帰省する。それは良いのだが、一つ懸念点がある。母と妹から、アリサを連れてくるようにチャットアプリでせがまれているのだ。
いや、彼女でもないのに実家に連れて行くとかハードル高すぎだろ……。いや、彼女だとしても厳しいかも……。アリサだって、さすがに嫌だろうな……。
「何日ぐらい、向こうに滞在する予定なのですか?」
「うん、二、三日は泊まろうかと思ってる。アリサさんにはその間、迷惑かけるね。ごめん」
「全然気にしないで下さいよ! ミナト君がいなくても、全然大丈夫です!」
「ほんと? 食事は何を食べる予定?」
「宅配ピザ祭りをします!」
「…………」
栄養状態が心配だ。まるでペットだけ残して旅行に行くような不安に駆られる。
本当に大丈夫かな……
♢
《アリサ視点》
本当を言うと大丈夫ではなかった。
二、三日も彼に会えないと聞いただけで、気が気ではない。胸が痛くて、切なくて、悲しくて。
彼のいない食卓を想像する。独りでもくもくと味気のない食事。耐えられない。考えたくもない。
彼と一緒にいたい。離れたくない。でも、わがままを言って彼を困らせたくもない。
私は涙が出そうになるのをグッと
♢
「……本当を言うと寂しいです。なので……」
アリサは俺の横にぴったりくっつく。
「ア、アリサさん?」
「少し、甘えてもいいですか?」
頭をこてんと、俺の方に傾ける。
「……うん」
俺はその頭を優しくなでる。不安さを
ああ、やっぱり俺は彼女を放ってはおけない。
あの時を思い出す。勇気を出して、食事を作ろうかと提案した時のあの気持ちを。
だから俺は──
「よかったらさ、アリサさんも一緒に来ない? いや、うちの母さんとコハルが、アリサさんを連れて来いってうるさくてさ……。親父は今、長期出張でいないから、母さんとコハルだけだしさ」
アリサは一瞬、不意を突かれたような顔をした。
「……私もお邪魔していいんですか?」
「ああ、ぜひ来てくれると嬉しい」
「はい! お願いします! わーい! またコハルちゃんに会えます!」
今までの不安そうな顔が嘘のように、アリサはパァと目をキラキラと輝かせた。
「とっても楽しみです! 準備とかしなきゃですね!」
本心からなのだろう。ウキウキとハッスルしているアリサ。
うん、勇気を出して誘ってみてよかった。彼女には、寂しそうな顔なんて似合わないのだから。
♢
電車でコトコトと揺られること3時間。停車した駅から外へ出る。
「一年振りだな……」
「うわぁー、緑がたくさんですねー」
到着したのは緑あふれる片田舎。真っ青な空の下に、のどかな風景がどこまでも広がっている。
辺り一面の田園に、鳴り止まない
「帰ってきたんだな……」
「なんだか
鳥のさえずり、川のせせらぎ。
「おっ、コハルから連絡だ。もうすぐ着くってさ。おっ?」
見慣れた黒い軽自動車が、駅前に停まる。運転してきたのは母だ。そして中からコハルが飛び出してきて、
「アリサお姉ちゃーん! 久しぶりー!」
とアリサに飛びついていた。
「お久しぶりです! コハルちゃん!」
2人は抱き合って、
「あらあら、仲がいいのね」
「迎えに来てくれてありがとう。母さん」
「暑いから早く乗りなさいな」
「うん」
俺とアリサは後部座席に座る。
「元気にしてたかしら、アリサちゃん」
「はい、ミナト君のおかげです。お母様」
「あらあら、もう母呼ばわりとは嬉しいわねぇ。私は学生結婚にも理解はあるわよ?」
「だから俺とアリサさんはそんなんじゃないっ────」
「あら?」
母が首を傾げる。しまった。俺とアリサは母の前では付き合ってる設定だった。
「嫌ですねー! ミナト君ったら恥ずかしがっちゃって♡」
アリサが俺の腕に抱きつく。
「いやー、ごめん母さん。つい、恥ずかしくってさー! ラブラブ過ぎてごめん!」
「あらあら! 昼間っからお熱いわねぇ♡」
「(危なかった……)」
「(気をつけて下さいね、ミナト君!)」
ちなみにこの設定の事は、コハルにも連絡してある。
「(ふふっ、お兄ちゃん達も大変だねぇ。でも面白いからいっか! と言うより実家に連れて来る時点でもう、そこら辺のカップルより進んでるような……)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます