母親登場 その2

「あなたたちを見てると昔を思い出すわぁ。私がパンをくわえて、急いで登校してたら、曲がり角でトラクターを運転していたパパにぶつかったのが、めだったのよねぇ」


 頬に手を当て、うっとりと語る母。


「嫌な馴れ初め……」

「あの時は死ぬほどの衝撃を受けたわ……」

「物理的にじゃない……?」


 ふむふむとアリサが母の言葉を聞き入っている。


「素敵な出会いですねー!」

「どこが!?」

「あらあら、ありがとう。アリサちゃん」

「小さい頃のミナト君の話とかも聞きたいです!」

「あの子の小さい時はねー! それはもう可愛かったんだからー!」


 キャッキャッと話し合う2人。どうやら意気投合したようだ。よかった……のかな?





「でもよかったわ。ミナトちゃんにもこんな可愛い彼女ができて」


 母は、改めて俺たちを見ながらそう言った。


「だから違うんだって!」

「そ、そうですよ!」


 俺たちは慌てて反論する。


「あらあら、それじゃあ付き合ってもいないのに、部屋で一緒に料理を食べたりする仲ってコト? 年頃だし、何か間違いがあったらいけないから、アリサさんの親御さんにも、ご連絡差し上げたほうがいいかしら?」

「!? (それは非常にまずいです!)」


 アリサは俺と腕を組む。


「!?」

「(合わせ下さい! お願いします!)」


 し、仕方ない……。


「やだなー、母さん! 冗談だよー! 俺はアリサさんはラブラブカップル……だよー! ちょっと照れ臭くてさー!」

「そうですよー! 私達はラブラブカップル……です!」

「あらあら、それなら何の問題もないじゃない。私の杞憂きゆうだったわね!」


 俺たちは、ほっと胸を撫で下ろす。


「んー? でもなんか距離感が遠いような? なんかお互い遠慮がちって言うか?」


 母は顎に人差し指を当て、うーんとうなる。


「!?(まずいです!)」


 アリサは俺に抱きついてきた。


「!?(いきなり何するの、アリサさん!?」

「(ミナト君、合わせて下さい!)」

「(わ、分かった!)」


 俺もアリサをとっさに抱きしめる。アリサの柔らかい肌の感触が伝わり、胸がドキンと跳ね上がる。


「あらあら、お熱いのねー! これは間違いなくカップルだわぁ!」


 母がキャッキャッと喜んでいる。


「だ、だろ?」

「ミナト君……大好きです! ちゅちゅ♡」


 アリサは俺の頬に軽くキスをする。


「!? お、俺も愛してるよ、アリサさん!(演技とは言えやり過ぎなのでは!?)」


「うんうん、若いカップルはこうじゃないとね!」


 母は満足げに頷いた。よかった……なんとか誤魔化ごまかせたみたいだ……。ホッ。





「それじゃあ、私は帰るわねー」


 納得したのか母は、玄関から帰ろうとしていた。


「気をつけてな、母さん」

「きょ、今日はありがとうございました」


 くるりと母が振り返る。


「お盆には実家に顔出すのよ?」

「……考えとくよ」

「あと……」


 母は俺に耳打ちをする。


「避妊はちゃんとするのよ?」

「するかぁ!」

「しないの!?」

「そういう意味じゃなくて……。まぁ、いいや、早く帰って……」


 俺はげっそりし、しっしっと手を振る。


「はいはい、またね、アリサちゃん」

「はい!」


 母は去っていった。まるで嵐が過ぎ去ったよで、クタクタになる。


「そう言えば、最後になんて言われたんです?」

「っ!?」


 俺は母に最後に言われたことを思い出して、顔が赤くなる。


「ひ、秘密!」

「え〜! 教えて下さいよ〜!」

「い、言えない! 後、演技とは言えキスはやり過ぎなのでは!?」

「い、嫌……でしたか?」

「いや、嫌じゃないけど……」

「そう……ですか?」

「う、うん……」


 お互いに頬が赤くなる。


 なんだか気まずいような甘いような雰囲気が流れたのだった。

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