母親登場 その1

「「いただきます」」


 アリサと昼食をとる瞬間のことだ。ピンポンとインターホンが鳴り響く。


「はーい!」


 宅急便かな?と思いつつ、俺はインターホン越しに相手を確認する。


「げ!?」


 そこに映っていたのは、茶髪でふわふわの長い髪をした女性だった。コハルが後、十数年歳を取ればこうなるだろうなというイメージ。


 名前は如月優子きさらぎゆうこ。そう、つまりの俺の母親だった。


「…………」


 脳が一瞬、フリーズする。そしてアリサがいる今の状況を、母親に見られたらまずいと言う考えにようやく至る。


 ああ、どうして我が家の女性陣は連絡も寄越さずに勝手に来るんだよ……。


 おそるおそるドアを開ける俺。


「ミナトちゃん、元気にしてたかしら?」


 優しい声色で俺に語りかける母。


「あぁ、元気にしてるよ母さん……」

「暑いから中に入れてもらえるかしら?」

「それが今友達が来ててさ……。もうすぐ帰るらしいから、近くのファミレスで時間でも潰しててくれない?」


 俺はなんとかそれっぽい言い訳を取り繕う。


「あらあら、ミナトちゃんの友達ならご挨拶をしないと……。いつも息子がお世話になっていますって。ふふふっ」


 全体的にふわふわでポワポワな母である。ここはなんとかごまかさないと。


「あの、それがさ……」

「ミナト君? どうかしましたか?」

「げっ!?」

 

 なかなか帰ってこない俺の様子を見に、アリサが玄関に来たようだ。


「あらあら、まぁ、可愛らしい綺麗な女の子ね!」

「…………」

「そう気まずい顔をしなくてもいいわ。お母さん、そういうのに理解あるから」

「母さん……」

「“レンタル彼女”っていうサービスよね?」

「ちげーよ!」

「ええ? まさか“デリヘル”を呼んだのかしら!? 駄目よ、ミナトちゃん! まだ未成年でしょ、アナタ!」

「んなわけねーだろがあああああ!」





「初めまして。私、如月優子と申します。ミナトちゃんの母です」


 結局は家にあがった母が、アリサにぺこりと挨拶をする。


「あ、あのその……、早乙女アリサです。その……ミナト君にはいろいろとお世話になっています」


 アリサもしどろもどろになっている。まぁ、いきなり相手の母親が来たらこうなるだろうな。


 母はテーブルの上の食事を一瞥いちべつすると、


「あらあら、もう2人で食事をする仲なのね? 同棲ってやつかしら? きゃあ! やるわね、ミナトちゃん! このぉこのぉ!」


 と俺を肘で軽く小突いてくる。


「ち、ちがうんだって!」

「は、はい。ミナト君とは仲の良い友達のような関係で……」


 俺たちはあたふたと言い訳をする。


「──分かってるわ」


 うんうんと母は頷く。


「分かってくれたか……」

「あ、ありがとうございます」


 俺達はほっと胸を撫で下ろす。


「そういう“じらしプレイ”よね?」

「「…………」」


 何も分かっていなかった。母はおっとり系のかなりの天然である。


「そういうプレイもいいけど、あんまり激しいヤツだと、女の子がドン引きしちゃうから、気をつけるんだゾ? 私もパパの亀甲縛きっこうしばりには流石に──」

「あー! あー! 親のプレイは聞きたくありまーん!」

「興奮したわ」

「したの!?」


 俺は声を張り上げた後、頭を抱え込む。妹のコハルとは別のベクトルで、やっかいな母親なんだよな……。


「ミナト君はそんなプレイはしませんよ! 優しいプレイばっかりです!」

「アリサさん!? 誤解を招くような発言はやめて!?」

「あらあら、ミナトちゃんは誠実だものね。でも、時には強引なプレイもいいものよ? 私は天井に逆さ吊りにされて、捕獲されたマグロの気分を味わったわよ?」

「あっ、それも分かります! (チョコレートリキュールの時、よかったです///)

「分からなくていいよ!? 母さん、アリサさんに変な影響与えないで!?」




 


 







 

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