ウィスキーボンボンの悲劇 その2

「ミナト君、ウィスキーボンボンまだ少し残ってますよ? いかがですか?」


 アリサはにっこりと笑って、俺にチョコレートリキュールを勧めてくる。なぜだろうか。その微笑みになぜか、裏がありそうだと思ってしまったのは。


「いや、この前は眠ってしまったからね。また迷惑かけるといけないから、代わりにアリサさんが食べて欲しいな。後少しだし」


「(また強引なミナト君、見たかったです……)」


 なぜか悔しそうな顔をするアリサ。


「?」

「で、では残りは私が頂きますね!」


 アリサは残りのウィスキーボンボンを、勢いよくボリボリと食べ始めた。


「そ、そんなに一気に食べて大丈夫? アリサさん」

「大丈夫ですよ〜! ひっく!」


 アリサの頬はほてったように赤くなり、目もトロンとする。


「ア、アリサ……さん?」


 ソファにお互い隣り合った状態で、アリサが俺を見つめる。


「えへへ〜、ミナトくう〜ん♡」

「うわぁ!」


 アリサがいきなり俺に抱きついてきた。


「ミナト君の匂いだ〜♡」


 アリサは胸に顔を埋め、ぐりぐりと自分の顔を押し付ける。か、完全に酔ってる。


「ア、アリサさん! 落ち着いて!」

「ふええ……ミナト君は嫌なんですかぁ……クスン」


 アリサは一旦顔を上げて、涙目の上目遣いで俺の方を見つめる。


「い、嫌ではないけどさ……」

「わーい! なら遠慮しません♡」


 アリサは俺の身体に密着し、ほっぺすりすりしてきた。


「〜〜〜!?」


 アリサの柔らかいほっぺの感触に、俺は全身がマヒしたような衝撃を受ける。


「むふふ……。悪い虫が寄ってこないよう、私の匂いでマーキングします……。ミナト君は私だけのモノなんですから♡」

「ッ〜〜〜!?」


 酔っているから仕方ないとは言え、過激な発言に心臓がドクンと跳ね上がる。


「ねぇミナト君〜、あたまナデナデして下さい〜」


 猫撫で声でアリサは懇願こんがんする。ど、どうしよう……。


「してくれなきゃ、嫌ですぅ〜!」


 イヤイヤと暴れ出しそうになるので、俺は仕方なく頭を撫でる。


「えへへ〜、アリサこれしゅきい♡ ずっとなでなでして欲しいですぅ♡」

「…………」


 何この甘えん坊モード……。めちゃくちゃ可愛いんですけど!


「ふふっ、気持ちよかったです。ありがとミナト君、チュ♡」

「〜〜〜ッ!」


 アリサは俺の頬にキスをしてきた。柔らかいふわふわの唇だ。駄目だ、このままだと他にもとんでもないことをしでかしそうだ。


「ア、アリサさん。ベッドに行こうか? それで少しお休みしよう? ね?」


 この状態で外に出すわけは行かないし、ベッドで寝させて、酔いが覚めるまでゆっくりしてもらおう。


「じゃあ、お姫様抱っこして下さい♡ 」

「はいはい……」


 俺はアリサをお姫様抱っこして、ベッドへ連れて行く。そして、アリサをベッドに降ろし、そこから離れようとしたが──


「だ〜め♡ 一緒に寝るんです♡」

「うわぁ!」

 

 アリサに強く手を引かれ、梨崩なしくずし的にベッドに雪崩なだれ込む。


 アリサが俺の上にまたがっている状態だ。そして──


「ミナト君……チュ♡」


 上を取られた状況下で、アリサが俺の耳にキスをした。キスの音が、耳から脳髄のうずちをたちまちおかし、ゾクゾクする。


「うっ……あっ……」

「チュッチュッ♡」


 耳から首筋へ、アリサのキスは止まらない。アリサのたわわな胸の感触も相まって、この上なく官能的な行為に感じた。


 まるで蜘蛛くもに捕食される虫の気分。絡み取られ、消化液を流し込まれ、ドロドロのぐちゃぐちゃに……。そして最後には食べられてしまう。そんな気分。


「アリサさん、もう……」

「ふふっ、またまだこれからですよ?」


 手指を絡め、四肢を絡め、まるでお互いに一つになったような感覚。


 アリサの可愛い小顔が俺に迫る。俺は思わず目をつむったが──


「ぐぅ〜zzz」

「あ、あれ!?」


 そのまま体重をこちらに預けて、眠ってしまった。


「…………よかった……かな?」


 ほっとしたような、残念なような複雑な気分に襲われる。


 アリサに布団をかぶせ、俺は寝室を後にする。ん? 何かすごい既視感があるような?





「ふわぁ、アレ? 私、チョコレートを食べてそれで……」


 あくびをしながらアリサがリビングにやってきた。俺は夕食の準備をしている。


「そのまま眠っちゃったから、ベッドに運んでおいたよ」

「ありがとうございます。私もどうやら、そんなにお酒に強くなさそうですね」

「うん、お互いに控えた方がよさそうだね」

「アハハ、そうですねー(くっ、でもまたいつか強引なミナト君を!)」

「うんうん!(また甘えん坊アリサさんをいつか……!)」









 

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