ウィスキーボンボンの悲劇 その1

 チュンチュンとスズメが鳴き、朝の到来を告げる。羊数えが功を奏したのか、どうやら眠ることはできたようだ。


「…………」


 隣にはピンク色のパジャマを着た、可愛らしい少女が横たわっている。


 この状況を世間では“朝チュン”と呼ぶらしい。あいにく、そういう色っぽい事はしていない。そう、決して。


「すやーすやーzzz」


 可愛らしい寝息を立てて、熟睡しているアリサだったが、もう朝の7時だ。もう少し彼女の寝顔を見ていたい欲に駆られるが、意を決してカーテンを全開にする。


「ううーん?」


 昨日の雷雨が嘘のような、爽やかな朝の光が窓から差し込む。目覚めの到来を告げる光に、アリサが目を覚ましたようだ。


「おはよう、アリサさん」

「おはようございます……。ミナト君。ってアレ?」


 いつもの寝室との違和感に気がついたのか、はて?と首を傾げる。


 そして状況が飲み込めたのか、顔から火が出るような真っ赤な顔になった。


「き、きききき昨日は申し訳ありませんでした! たたたたたた大変ご迷惑をお掛けしました!」

「気にしないでいいよ、アリサさん。それより朝食にしよう。自分の部屋で着替えて来たらどうかな?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 トテテテと自分の部屋へと向かって行くアリサ。そんな状況に俺はひとりごちる。


「もう少しだけ、夜が長かったらよかったのにな……」

 




 昼食後、アリサが小箱を取り出した。


「アリサさん、これは?」

「は、はい……昨日のお詫び……です。ウィスキーボンボンです」


 ウィスキーボンボンとは、チョコレートの中にお酒が入ったお菓子である。ちなみにこの場合は、未成年が食べても法的には問題ない。


「ありがとう、アリサさん。ちょうど、甘いものが食べたかったんだ」

「お酒が入ってますけど、大丈夫ですか?」

「うん、昔食べたことあるよ。アリサさんも一緒に食べよう」

「はい!では、今から開けてもよろしいでしょうか?」

「うん、お願いするね」


 アリサは箱からチョコレートを取り出し、包装紙をく。そして、それをひとつまみして、俺の口の方に持ってくる。


「はい、あ〜ん……です」


 照れているのかアリサの頬は、朱色に染まっている。


「ちょっ! それは恥ずかしいよ、アリサさん!」

「き、昨日のお詫びですので!」


 アリサに押し切られる形で、俺はあ〜んと口を開ける。こんなの他の人に見られたら、余裕で死ねるぞ……。


 パクリ。もぐもぐ。


 ウィスキーボンボンを噛み砕くと、ジュワッと中から芳醇ほうじゅんなアルコールが染み出してくる。


 カカオの上品な甘さと、アルコールの風味が口の中でとろけ合い、混ざり合う。まるで夢のような極上の味わいである。


「うん! 美味しい!」

「よかった! まだまだありますからね! あ〜ん!」


 パクパクとチョコレートを食べる。美味し過ぎて、やめられない、止まらない。


「ふにゃ?」


 身体がほてる。意識がぼんやりとする。なんだか楽しく、なって、きた?


「み、ミナト君? た、食べ過ぎ……ました?」


 アリサが少し心配そうに、こちらを見ている。


「フフッ、そんな事ないよ。“アリサ”」

「よ、呼び捨てですか!?」


 アリサの顔が紅潮する。不思議だ。今なら、普段なら恥ずかしいことでも、なんでも出来る気がする。


「ミナト君、酔ってますよね?」

「そんな事ないよ。よしよし」


 俺はアリサの頭を優しくなでる。


「もぉ〜! 完全に酔ってるじゃないですか!(でも少し大胆だいたんでいいかもしれません///)」


 俺はアリサをじっと見つめる。


「な、何でしょう?」

「アリサは本当に可愛いな」

「ッ〜〜!」


 アリサの顔の赤色は、既に限界突破しそうになっている。まるでゆでだこのようだ。


「抱きしめていいか?」

「!?!?!?」

「嫌か?」

「嫌ではないですけど……きゃ!」


 その瞬間に、俺はアリサを思い切り抱きしめる。


「アリサとずっとこうしていたい……」

「み、ミナト君/// (きゃー! きゃー! 積極的なのイイですよ! コレェ!)」

「アリサの髪は本当に綺麗だね……」

「(普段なら、絶対そんな事言ってくれないのに/// あっ、優しく髪を撫ででくれてる♡)」


 俺はそのままアリサをお姫様抱っこして、ベッドへ連れて行く。


「ふぇええええええ!?」

「昨夜、一緒に寝たろ? 1度も2度も変わらないさ」

「ううっ/// そんなぁ……」


 俺はアリサをベッドの上で抱きしめる。


「あっ……ミナト君……」

「アリサ……」


 2人の顔が近づき合う。アリサが目を閉じる。俺たちはそのまま──


「ぐぅーzzz」

「み、ミナト君/// ……ってアレ!? 寝てる!?」





 目を覚ました。頭がボッーとしてる。リビングに行くとアリサがピコピコとゲームをしていた。


「あれ? アリサ“さん”、俺何してたんだけ? 確か、チョコを食べてそれから──」

「それから、眠くなったって言って、ベッドに行っちゃいましたよ?」

「そっか」


 何かアリサとイチャイチャする夢を見た気がする。夢だったのが少し惜しいな。


「じゃあ、一緒にゲームしようか」


 俺はアリサの横にすると、アリサはスススと距離をとる。


「?」


 アレ? もしかして俺、汗でもかいて臭う? シャワーでも浴びてこようかな……。


「(あんな事があったら、意識しちゃうじゃないですかー!/// でもたまには強引なのも、イイ……かもです)」





 


 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る