海へ行こう その2

 ギラギラと真夏の日差しが俺たちを襲う。


「そうだ、サンオイル塗らなきゃだねー! お兄ちゃん塗って!」

「なんで俺が塗らなきゃいけないんだよ……。自分で塗りなよ」

「背面は自分で塗りにくいじゃーん! はぁ……、ピチピチのスク水JCに合法的に触れるのに……。まぁ、いいや、アリサお姉ちゃーん! お互いにオイル塗り合おうよー!」

「はい、そうしましょう。ミナト君はあっち向いてて下さいますか?」


 アリサは恥ずかしそうに、俺にそう言った。


「う……うん。そうだね」


 俺は向きを変え、浜辺の波打ち際を凝視する。


「ふっふっふっー! 塗りたくっちゃうぞー!」


 なにやらコハルが張り切って、オイルをアリサに塗っているようだ。


「リンパもついでにほぐしていきますねー」

「ふふっ、くっ、くすぐったいですね……。ひゃっ! そ、そんなところまで?」

「みなさんやってますからねー」

「ふふっ……きゃっ! だ、大丈夫なんですか?」

「あくまで施術の一環ですからね……」

「ふっ……あっ……くっ……ふふっ」


 オイルを塗る音とアリサの反応が組み合わせって、なにやら官能的な音に聞こえる。


 音だけでも、健全な10代男子には十分過ぎる程の刺激だった。


 な、なにやってんだよコハル……。


「終わったよー、お兄ちゃん!」

「お、終わりましたよ……ミナト君」


 振り返るとアリサの肌が真っ先に目についた。


 日焼け止めオイルを塗り、滑らかでつややかになったその姿は、どこか淫靡いんびなまめかしい。


「あー! お兄ちゃんがえっちい目で、アリサお姉ちゃんを見てるー!」

「そ、そうなんですか!?」

「ち、違うって! 俺は熟女にしか興味ないから!」


 とっさだったので、とんでもない言い訳を口走ってしまう。しまった──


「嘘でしょ? お兄ちゃん……」

「嘘……ですよね?」


 2人とも絶句していた。特にアリサは魂が抜け落ちてるんじゃないかと疑うレベルだ。


「ごめん、嘘……」

「だ、だよねー! びっくりさせないでよ、お兄ちゃん!」

「ほっ……。さ、さぁ、海へ行きましょう!」

「レッツゴー!」

「お、おい、引っ張るなって!」


 俺は、アリサとコハルに引っ張られて海へ向かう。途中、周囲の男性陣の視線を感じた。



「(クソッ、可愛い女の子2人も連れてイチャツキやがって……)」

「(素直にうらやましい……)」

「(銀髪ボイン美少女たまんねぇ〜)」

「(スク水とか分かってんじゃん)」

「(両方とも、レベル高けぇな……)」





 アリサはおそる恐る、海へつかる。


「うわぁ、綺麗な海ですね〜。きゃっ!」

「へへー、どうだ!」


 コハルがアリサに海の水をかけたようだ。


「やりましたねー! お返しです!」

「きゃあ!」


 仲睦なかむつまじく水を掛け合っている光景は、まるで姉妹のようだ。見ているだけで微笑ましい。


「うわっ、冷たっ!」


 冷えた海水が容赦なく、俺の肌を濡らす。


「ふふっ、ミナト君もです!」

「くらえー! お兄ちゃん!」

「や、やったなー! くらえー!」

「きゃあ!」

「あはは!」


 3人できゃっきゃっして、水を掛け合う。


 なんだか童心に帰ったようで、楽しかった。うん、こんな遊びもたまにはいいかもしれないな。たまには。





 俺とコハルが海を泳いでいるが、アリサはこちらは来ない。どうしたのかと、アリサの方へと向かってみる。


「どうしたの?」

「あのー、私、泳いだことないんですよ」

「へ?」

「祖国ではプールの授業もなかったし、海へ行ったこともなくてですね……」


 なるほど、学園にもプールの授業はないしな。


「よかったら俺が泳ぎを教えるよ?」

「ほんとですか! ぜひお願いします!」

「うん、まずは俺の手を掴んでみて」

「こ、こうですか?」

「う、うん」


 アリサの手に触れる。その手は小さくて綺麗で柔らかかった。明らかに男性とは違うその感触にドキリとしながらも、俺はレッスンを続ける。

 

「それで俺が手を引っ張るから、アリサさんは顔を上げたまま、バタ足をしてみて」

「は、はい」


 アリサは緊張した面持ちで、ゆっくりと泳ぎ出す。ぎこちない動きだが、確実に前に進んでいた。


「うん、上手だね。さすがアリサさん。筋がいいよ!」

「ありがとうございます! これ楽しいですね!」


 いったん止まって、次のステップに移ることにしよう。


 バタバタバタバタ。見ればコハルがものすごいスピードで海を泳ぎまわっていた。


「うわぁ、コハルちゃんすごいですね!」

「あいつは泳ぎは得意だったからなぁ」

「よーし、私も頑張ろ──きゃ!」

「危ない!」


 アリサは足元の砂につまずいたのか、倒れそうになる。俺はとっさにアリサを抱きとめた。


「あっ……」

「っ!」


 お互い抱き合った状態で、時間が止まる。胸の辺りに、水着越しにふにふにとした感触が伝わる。


 顔を上げたアリサと目線が合う。その目はあおく透明で、まるで吸い込まれそうな錯覚を覚え──


「アリサさん……」

「ミナト君……」


 ん? 視線を感じて後方を見るとコハルが、ジッーとこちらを凝視していた。


「コ、コハル!? いつのまに!?」


 俺は慌ててアリサから身体を離す。


「あちゃー、バレちゃったかー! ちぇっ……、いいところとだったのにな……」

「べ、別にいいところでもなんでもないっつーの!」

「そ、そうですよ! ただの事故です!」

「まぁ、そういことにしといてあげるねー!」


 コハルはバタバタとどこかへ泳いでいったのだった。


 全く油断も隙もない……。





 


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