海へ行こう その1

 きらめく太陽、どこまでも澄み渡る青い空、砂浜に押し寄せる波。俺は今、海へ来ている。


 パラソルとシートを設置し、水着に着替え後にここで待機しているところだ。


「お待たせー! お兄ちゃん!」

「お待たせ……しました」


 アリサとコハルが水着に着替え、こちらにやってきた。


「……っ!」


 俺は思わず、その光景に目を奪われた。


 アリサの綺麗な長い銀髪は、太陽の光を浴びてキラキラと輝き、潮風になびいている。


 そして青白い彼女の水着は、持ち前の白い肌も相まって、より一層透明感を際立たせている。


 そう、それはまるで浜辺に舞い降りた天使のようだ。


「…………」


 本当に美しいものを見た時に、どうやら人は言葉がでないらしい。


「あのー、ミナト君。どうでしょうか? 似合って……ますか?」


 モジモジと顔を赤らめ、こちらの反応をうかがうアリサ。


「うん、とっても似合ってるよ! アリサさん!」


 心の底からの本音がポロリ。


「本当ですか! コハルちゃんと一緒に、デパートで悩んだかいがありました!」


 パァと顔を明るくして、微笑むアリサ。その笑みは太陽よりもなお一層、眩しく感じた。


「ねーねー、お兄ちゃん、アタシの水着の感想はー?」


 アリサに目を奪われて気が付かなかったが、コハルはコハルで、とんでもない格好をしていた。


「なんでスクール水着なんだよ!?」


 コハルは紺色こんいろのピッチピチのスク水を着ていた。前面の白い部分には、ご丁寧に“こはる”と書かれていた。


「えへへ! お兄ちゃんが喜ぶと思って!」

「!?」


 腰に手を当て、胸を張り、満面の笑みでコハルはそう言った。


「ミナト君、私もスク水の方がよかったですかね……?」


 アリサが不安そうに、こちらの顔をうかがっている。


「いや、俺スク水好きでもなんでもないから! 誤解するようなこと言うなよ、コハル!」

「え? 実家のお兄ちゃんのベッドの下に、スク水特集のえっちい本がたくさんあったのに!?」

「な!?」


 そんなはずはない! ベッドの下に隠してあったのは洋モノだったハズだ!


「ミナト君……やっぱりスク水なんですね……。そう言ってくだされば、私もスク水を……」

「嘘つくなー!」

「あはは、冗談じゃーん!」


 俺は逃げるコハルを追いかける。子供の頃にした鬼ごっこを思い出して、少し懐かしい気分になった。





 ひとしきりコハルを追い回した後、俺はトイレに行きたくなった。


「ちょっと、トイレ行ってくるね」

「あー、アタシも行くー!」

「はい、ではここでお待ちしています」


 俺とコハルはトイレに行き、アリサの元に戻る。


「ヒュー、彼女1人ィ? よかったら俺っちと遊ばなーい?」

「いえ、1人ではありません」

「君みたいな娘、1人にする奴なんて放っておいて、俺と遊ばねー?」

「結構です」


 見るからに軽薄そうな、サングラスをかけた色黒男にアリサが絡まれていた。


 俺はその男とアリサの間に割って入る。


「ごめん、待たせたね。アリサさん」

「ミナト君! 待ってました!」


 アリサは嬉しそうに俺と腕を組む。


「ちっ、男付きかよ……」


 男は悪態をつき、その場を去って行った。


「よかった……。何事もなくて。ごめんね、目を離して悪かったよ」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ? ふふっ、そんなに心配してくれるんですね? ミナト君」


 アリサは少し意地悪そうに、こちらを見て笑っている。


「ああ、当たり前だって! 今日はもう、アリサさんから目を離さないから……」

「ふええ!?」

「(お兄ちゃん、そういうところだぞー)」


 アリサは俺に真剣に返事をされて、顔が真っ赤になる。


「はい……では今日は……私から目を離さないで下さい……ね?」


 頬を赤らめ、こちらを見つめる水着のアリサにドキリとする。


「(はよくっつきなよ……この2人)」


 コハルがなにやら大袈裟なため息を吐いたのだった。





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