お泊まり会

「お邪魔しま〜す」


 アリサはいったん自分の部屋に帰って、お風呂に入って、パジャマに着替えてきたようだ。


 上気した顔がなんだか色っぽくて、ドキリとする。


 夜中にパジャマ姿の女の子を自宅に招くのは、なんだか気恥ずかしく感じた。


「ど、どうですかね? パジャマ姿。変じゃないですか?」

「う、うん! とっても似合ってるよ!」

「ありがとうございます……!」


 それを聞いてパァとほころぶアリサ。


「こういうのワクワクしますね〜!」

「いらっしゃい、アリサお姉ちゃん。一緒にゲームしよー!」


 コハルも風呂に入り、パジャマ姿に着替えている。パジャマパーティーだなこれは。


「いいですね〜。ミナト君も一緒にプレイしましょう!」

「それじゃあ3人でゲームしよっか。あんまり遅くまでしないようにほどほどにね」

「お兄ちゃんには負けないよー?」


 3人で乱闘ゲームをプレイするが──


「また勝ちましたー、ブイ!」

「アリサお姉ちゃん強すぎー!」

「いつのまにこんなに強く……」


 俺とコハルはアリサのキャラに蹂躙じゅうりんされた。


 聞けば、ネット対戦で最上位クラスに昇格しているのだとかなんとか。


「他のゲームもしよー!」

「はい!」


 結局、3人で夜遅くまで、ゲームに熱中したのだった。





《アリサ視点》


 私とコハルちゃんは、リビングに布団を2つ敷いて、眠りにつこうとしている。ミナト君は、自室のベッドで眠っているようだ。


「アリサお姉ちゃん?」


 コハルちゃんが小声で、私に話しかけてきた。


「はい、なんでしょう? コハルちゃん」

「恋バナしよー!」


 コハルちゃんは目を輝かせて、そんなことを言ってきた。どうやら、まだ眠る気はゼロのようだ。


「こ、恋バナですか?」

「うん! やっぱりまずは、お兄ちゃんとアリサお姉ちゃんの話だよねー! 本当に2人は付き合ってないの?」

「はい、お付き合いはしていませんよ」

傍目はためからはそうは思えないんだけどなー。じゃあ、お兄ちゃんのことは好き?」

「!?」


 私はいきなりのことで戸惑ったが、正直に告白する。


「はい……好き……です」

「告白しないのー?」

「ゆ、勇気が出なくて……ですね……」

「ふーむ、なるほど(お兄ちゃんも奥手だからなー。これはくっつくのに時間かかるかもね)」


 コハルちゃんは顎に手を乗せて、考え込む。


「それじゃあ、私をお兄ちゃんの彼女だと勘違いした時は、辛かったんじゃない?」

「そう……ですね。クラクラして、涙が出て、胸が張り裂けそうでした。あと、頭が破壊された様な痛みを訴えました」

「なるほど……。アリサお姉ちゃん……、才能あるね」

「? なんの才能ですか?」

「それはね“NTR(寝取られ)だよ!」

「寝取られ?」


 私は小首を傾げる。


「好きな人を他の人に取られると、普通は気分が落ち込むんだけどね。その道を極めた者は、それすらも興奮に変えることができるんだよ!」

「へ、変態じゃないですか!」


 私は頬を赤くする。そんな才能が私にあってたまるか!


「何を隠そう、アタシもお兄ちゃんに恋人が出来たことを妄想して、ハァハァしてるんだよね……」

「なにやってるんですかー!?」


 私は思わずツッコミを入れる。普段、ツッコまれる方が圧倒的に多いので、新鮮ではあった。


「でもさー私、アリサお姉ちゃんがお兄ちゃんと一緒にいても、全く興奮しなかったんだよねー」

「なんでです?」

「うん、心の底からお似合いだって思っちゃったから! だから、アリサお姉ちゃんとお兄ちゃんが、いつかくっ付いたらいいなーと、本気で思ってるんだ! えへへ」

「コハルちゃん……」


 私は思わず、コハルちゃんを抱きしめたくなった。本当に私達のことを想ってくれている、かわいい妹だと思って。


「そうだ、アリサお姉ちゃん! 試しにNTRの練習してみよーよー!」

「わ、私は別に……」

「これを習得するとね……好きな人に恋人が出来てもダメージ無くなるからお得だよ!」

「た、確かに一理ありますね……」


 私はゴクリと唾を飲み込む。


「でしょー? 試しにお兄ちゃんが、仲のいい親友と付き合ったところを想像してみて?」

「では少しだけ……」


 私はミナト君と親友のユイカが、付き合ってイチャイチャしているのを、遠目で眺めているところを想像した。


 途端にズキンと脳が痛むと共に、心の奥底から何か得体の知れない興奮が湧き出てきた気がする。


「どうやら“いたった”ようだね……。NTRの真髄しんずいに……」

「これがNTR……」

「ようこそNTRの世界へ……」

「これで無敵です……」





 私たちが今朝の朝食をとっている時のことだった。


「あのー、ミナト君?」

「うん?」

「今度、他の女の子とイチャイチャする予定はありますか?」

「ええ!?」


 見ればコハルちゃんがクククと笑いを堪えている。


「コハル?」

「なーに? お兄ちゃん♡」

「ちょっと、後で話があるから俺の部屋に来なさい」

「やだー、こわーい♡」

「それとアリサさん」

「はい?」

「俺が他の女の子とイチャイチャするなんてありないよ」


 恥ずかしそうだけど、優しい瞳でミナト君がそう言った。胸がキュンとする。


 ごめんコハルちゃん。やっぱり私はNTRより純愛派……かも?

 



 





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