妹登場!
【アリサ視点】
期末試験が終わり、その成績が学園の廊下に張り出された。
「うおー! 前回より順位上がったぜ!」
「……最悪っしょ……」
「よしっ! 赤点回避! ひゃっほぉ!」
「赤点だああああ! 終わりだああああ!」
人によって反応は様々である。私が成績表を上から見ると、すぐにその名前は見つかった。
1位 早乙女アリサ
2位 法竜院たかし
3位 救世ゆいか
4位 荻堂傑
5位 ハムレット・ハムスター
1位という成績に、とりあえず私は胸を撫で下ろす。正直、ゲームにハマりすぎて、やばかったので徹夜しちゃったのは内緒だ。
っと、そうだ。ミナト君は?
「えっーと、あった!」
38位
確か前回の中間試験では、真ん中より下って言っていたハズだ。
「おめでとう、ミナト君!」
私は横にいて、放心気味のミナト君に話しかける。
「俺が50位以内……。やった! こんないい成績は初めてだ! ありがとう、アリサさんのおかげだよ! アリサさんもおめでとう!」
2人してお互いの順位を
♢
放課後のホームルームが終わり、クラスのみんなはウキウキ気分だった。
「アリサー。夏休みどっか遊びに行きましょうよ」
私に話しかけたのは“
「いいですね〜」
「んじゃまぁ、とりあえず帰りにバーガー屋、寄って帰りましょ。ポテトパクつきながら、計画立てるわよ!」
「はい、それでは行きましょうか」
バーガー屋でセットを頼んだとしても、夜のミナト君の料理は余裕で食べられる。一応、これでも育ち盛り……なのだ。
♢
バーガー屋で計画を立て、ユイカと別れて、マンションへと帰宅する。
「あれはミナト君ですかね?」
遠目ではあるが、ミナト君らしき姿が見えたので、私は小走りで駆け寄る。
「──え?」
その瞬間、私の頭はフリーズした。ミナト君と一緒に腕を組んで歩いている、仲良さそうな“女の子がいた”のだ。
「え? え?」
コソコソと少し近づいて見るが、間違いなくミナト君だった。
私は放心して、ふらふらと自分の部屋に戻って、ベッドに突っ伏す。
「嘘……」
頭が現実に追い付かず、クラクラする。身体に力が入らない。脳が破壊された様な痛みを訴える。
「……彼女さん?」
想像しただけで吐き気がした。
「そうですよね……。私たちって付き合ってる訳でもないですし……」
だからミナト君が誰と付き合っても、文句を言うのはお
「嫌……です……」
今までのミナト君との思い出がフラッシュする。
風邪の時、看護してくれたこと。美味しい料理を2人で食べたこと。一緒にゲームに熱中したこと。そして……そして人生で一番嬉しかった誕生日のこと。
「…………」
ミナト君にプレゼントしてもらった、犬のぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。
ちゃんと告白すればよかったのかもしれない。そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
でも出来なかった。ミナト君はただ優しいだけで、友だちではあるけど、別に私に恋愛感情などないのかもしれない──と。
料理も家事もできない私なんか、彼には
そう思うと告白なんか出来やしなかった。
いつまでもそんな
ああ、私はいつのまにかこんなにも彼のことを……。
するとピロンとスマホの通知音が鳴った。
『ご飯出来たよー』
ミナト君からだった。
「……どうしましょう」
考え込んだものの、せっかく料理を作ってもらったのに、無駄にすることは出来ない。
そうだ。さっきのことをミナト君に聞いてみよう。
そして彼女さんだったら、もう料理を作ってもらうのはやめにしないと。そうでないと彼女さんに悪い……から。
♢
私は重い足取りで、合鍵を手にしてミナト君の部屋に向かう。
じっと鍵を見つめる。
「この鍵も返さないといけないかもしれませんね……」
ピンポンとチャイムを鳴らしてから、鍵を開ける。
中に入って、リビングに向かうとそこにはミナト君と“あの女の子”がいた。
茶色い髪を肩まで伸ばした、明るそうな女の子だ。
「あっ……」
喉につまる。すると女の子が、トテトテとこちらに向かってきた。
もしかしたら、ミナト君をたぶらかした悪い女として、
「そのっ……あのっ……ごめんな……」
「“お兄ちゃん”の彼女さんだー!」
「ばかっ、違うって! ごめんね、アリサしん。妹の
「……妹さん?」
私はポカンとする。見比べてみると、確かにどことなくミナト君に似ているような気がする。
「あれ? メッセージ見てなかった? 妹がいるから、アレだったらご飯そっちに持って行くよって送ったんだけど」
「あっ……」
ボッーとしていて、2件目の通知に気が付かなかった。
「よかった……です」
私はほっと胸を撫で下ろす。
「妹のコハルがさ、夏休みに入ったからって、俺ん家に遊び来るって言ってさ。急なことだからびっくりしたよ。だから、その分さっきスーパーに行って買い出ししてきたんだけど」
「お兄ちゃんのご飯食べに来たんだよ。お兄ちゃんのご飯美味しいからねー!」
「そう……なんですね。よかったです……あれ?」
安心して気が抜けたら、ポロポロと嬉し涙が出てきた。
「あー、お兄ちゃんが彼女さん泣かせたー!」
「え、俺!? ア、アリサさん大丈夫!?」
そしてミナト君が心配して近づいてきた瞬間、私は我慢出来ずに抱きついてしまった。
「!?」
「ひゃあ! アツアツだぁ!」
「ごめんなさい。私、ミナト君の妹さんを彼女だと勘違いしてしまって……」
「お兄ちゃん、謝りなさい!」
「半分、お前のせいでもあるけどな! ごめんね、アリサさん。変な勘違いさせちゃったね。ちゃんと報告しておくべきだった」
ミナト君は、優しく私の頭を撫でてくれた。ああ、ミナト君の胸の中はとても温かくて安心する。
ミナト君の手の感触、体温、匂い、全てが心地よい。ずっと包まれていたい。
「いえ、私が勘違いしただけですから……!」
すると、くぅーと私のお腹の虫がなる。
「あっ……」
恥ずかしくなって、私はミナト君から離れた。
「ははっ、お腹空いた? 今日はたこ焼きの準備をしてあるんだ。前にアリサさんが食べたいって言ってたよね」
「は、はい」
「アタシも一緒に食べてもいーい?」
ミナト君の妹さんがこちらを見てそう言った。
「はい、ぜひ!」
気づけばさっきまでの体調不良は、嘘の様にサッーと引いていた。
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