妹登場!

【アリサ視点】


期末試験が終わり、その成績が学園の廊下に張り出された。


「うおー! 前回より順位上がったぜ!」

「……最悪っしょ……」

「よしっ! 赤点回避! ひゃっほぉ!」

「赤点だああああ! 終わりだああああ!」


 人によって反応は様々である。私が成績表を上から見ると、すぐにその名前は見つかった。


 1位 早乙女アリサ

 2位 法竜院たかし

 3位 救世ゆいか

 4位 荻堂傑

 5位 ハムレット・ハムスター


 1位という成績に、とりあえず私は胸を撫で下ろす。正直、ゲームにハマりすぎて、やばかったので徹夜しちゃったのは内緒だ。


 っと、そうだ。ミナト君は?


「えっーと、あった!」


 38位 如月きさらぎミナト


確か前回の中間試験では、真ん中より下って言っていたハズだ。



「おめでとう、ミナト君!」


 私は横にいて、放心気味のミナト君に話しかける。


「俺が50位以内……。やった! こんないい成績は初めてだ! ありがとう、アリサさんのおかげだよ! アリサさんもおめでとう!」


 2人してお互いの順位をたたえあう。うん、ミナト君が赤点じゃなくてよかった! これで夏休みに遊びに行けるかも!





 放課後のホームルームが終わり、クラスのみんなはウキウキ気分だった。


「アリサー。夏休みどっか遊びに行きましょうよ」


 私に話しかけたのは“救世ぐぜゆいか。小柄で赤髪ツインテールの可愛らしい私の友人だ。


「いいですね〜」

「んじゃまぁ、とりあえず帰りにバーガー屋、寄って帰りましょ。ポテトパクつきながら、計画立てるわよ!」

「はい、それでは行きましょうか」


 バーガー屋でセットを頼んだとしても、夜のミナト君の料理は余裕で食べられる。一応、これでも育ち盛り……なのだ。





 バーガー屋で計画を立て、ユイカと別れて、マンションへと帰宅する。


「あれはミナト君ですかね?」


 遠目ではあるが、ミナト君らしき姿が見えたので、私は小走りで駆け寄る。


「──え?」


 その瞬間、私の頭はフリーズした。ミナト君と一緒に腕を組んで歩いている、仲良さそうな“女の子がいた”のだ。


「え? え?」


 コソコソと少し近づいて見るが、間違いなくミナト君だった。仲睦なかむつまじく会話をしている。


 私は放心して、ふらふらと自分の部屋に戻って、ベッドに突っ伏す。


「嘘……」


 頭が現実に追い付かず、クラクラする。身体に力が入らない。脳が破壊された様な痛みを訴える。


「……彼女さん?」


 想像しただけで吐き気がした。


「そうですよね……。私たちって付き合ってる訳でもないですし……」


 だからミナト君が誰と付き合っても、文句を言うのはお門違かどちがいだ。でも──


「嫌……です……」


 今までのミナト君との思い出がフラッシュする。


 風邪の時、看護してくれたこと。美味しい料理を2人で食べたこと。一緒にゲームに熱中したこと。そして……そして人生で一番嬉しかった誕生日のこと。


「…………」


 ミナト君にプレゼントしてもらった、犬のぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。


 ちゃんと告白すればよかったのかもしれない。そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない。


 でも出来なかった。ミナト君はただ優しいだけで、友だちではあるけど、別に私に恋愛感情などないのかもしれない──と。


 料理も家事もできない私なんか、彼には相応ふさわしくないとさえ。


 そう思うと告白なんか出来やしなかった。


 いつまでもそんな益体やくたいもない考えが、頭をぐるぐると回る。


 ああ、私はいつのまにかこんなにも彼のことを……。


 するとピロンとスマホの通知音が鳴った。


『ご飯出来たよー』


 ミナト君からだった。


「……どうしましょう」


 考え込んだものの、せっかく料理を作ってもらったのに、無駄にすることは出来ない。


 そうだ。さっきのことをミナト君に聞いてみよう。


 そして彼女さんだったら、もう料理を作ってもらうのはやめにしないと。そうでないと彼女さんに悪い……から。





 私は重い足取りで、合鍵を手にしてミナト君の部屋に向かう。


 じっと鍵を見つめる。


「この鍵も返さないといけないかもしれませんね……」


 ピンポンとチャイムを鳴らしてから、鍵を開ける。


 中に入って、リビングに向かうとそこにはミナト君と“あの女の子”がいた。


 茶色い髪を肩まで伸ばした、明るそうな女の子だ。


「あっ……」


 喉につまる。すると女の子が、トテトテとこちらに向かってきた。


 もしかしたら、ミナト君をたぶらかした悪い女として、糾弾きゅうだんされるのではないだろうか。


「そのっ……あのっ……ごめんな……」

「“お兄ちゃん”の彼女さんだー!」

「ばかっ、違うって! ごめんね、アリサしん。妹の小春こはるが失礼なことを……」

「……妹さん?」


 私はポカンとする。見比べてみると、確かにどことなくミナト君に似ているような気がする。


「あれ? メッセージ見てなかった? 妹がいるから、アレだったらご飯そっちに持って行くよって送ったんだけど」

「あっ……」


 ボッーとしていて、2件目の通知に気が付かなかった。


「よかった……です」


 私はほっと胸を撫で下ろす。


「妹のコハルがさ、夏休みに入ったからって、俺ん家に遊び来るって言ってさ。急なことだからびっくりしたよ。だから、その分さっきスーパーに行って買い出ししてきたんだけど」

「お兄ちゃんのご飯食べに来たんだよ。お兄ちゃんのご飯美味しいからねー!」

「そう……なんですね。よかったです……あれ?」


 安心して気が抜けたら、ポロポロと嬉し涙が出てきた。


「あー、お兄ちゃんが彼女さん泣かせたー!」

「え、俺!? ア、アリサさん大丈夫!?」


 そしてミナト君が心配して近づいてきた瞬間、私は我慢出来ずに抱きついてしまった。


「!?」

「ひゃあ! アツアツだぁ!」

「ごめんなさい。私、ミナト君の妹さんを彼女だと勘違いしてしまって……」

「お兄ちゃん、謝りなさい!」

「半分、お前のせいでもあるけどな! ごめんね、アリサさん。変な勘違いさせちゃったね。ちゃんと報告しておくべきだった」


 ミナト君は、優しく私の頭を撫でてくれた。ああ、ミナト君の胸の中はとても温かくて安心する。


 ミナト君の手の感触、体温、匂い、全てが心地よい。ずっと包まれていたい。


「いえ、私が勘違いしただけですから……!」


 すると、くぅーと私のお腹の虫がなる。


「あっ……」


 恥ずかしくなって、私はミナト君から離れた。


「ははっ、お腹空いた? 今日はたこ焼きの準備をしてあるんだ。前にアリサさんが食べたいって言ってたよね」

「は、はい」

「アタシも一緒に食べてもいーい?」


 ミナト君の妹さんがこちらを見てそう言った。


「はい、ぜひ!」


 気づけばさっきまでの体調不良は、嘘の様にサッーと引いていた。


 




 



 

 



 

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