期末試験

「おいどんと付き合って欲しいでごわす!」


 学園での朝、クラスに押しかけてきた恰幅かっぷくのいい男が、アリサに告白する。


「ごめんなさい……」

「ごわす!?」


 アリサは申し訳なさそうに、相手を振る。


「あー、力也もダメだったかよ」

「今月に入ってから20人目か?」

「南無阿弥陀仏……」

「いやー最近のアリサちゃん、前よりさらに肌艶はだつやよくなってんのよ」

「それに前より、よく笑うようになったよな」

「アレは恋する乙女の目だよ。間違いない!」

「嘘……だろ……」


 クラスがざわめいている。ごわすを振ったアリサはそのままスタスタと、俺の隣の席に座る。


「朝から忙しいね、アリサさん」


 俺はアリサに声を掛ける。


「そうですね。お気持ちは嬉しいんですけどね……。自分に好意を向けてくださっている方を、振るのはどうしても心苦しいというか……。中には傲慢ごうまんな方もいて、そういう人は比較的振りやすいんですが……」


 そういえばケンカでは、殴る方も楽ではないという話を聞いたことがある。


 振る側にも振る側の精神的負荷がかかるのだろう。目の前で泣き出す男の人もいるしな。 


「人気者は人気者で大変だね……」

「彼氏がいたら、こうはならないでしょうか?」

「え? うん、まぁそうだろうね」

「それならいっそ私たち、付き合っちゃいますか?」

「!?」


 俺の顔が一瞬で、沸騰ふっとうする。


「なーんて。クスクス、ミナト君は反応がいいから、からかいがいがありますね」


 からかい上手なアリサさんに、俺はお返しをする。


「アリサさんさえよければ、俺は付き合うよ?」

「ふえええ!?」


 アリサの顔も一瞬でゆでだこみたいになる。よし、決まった!


「アリサさんは反応がいいから、からかいがいあるねぇ」

「もぉ〜、ミナト君!」


「話は聞こえんが、なんだかイチャついてんな……あの2人」

「なんかあの2人の距離感、近くね?」

「ぐぬぬ! 単純にうらやましいぞ! ミナトめ!」

「まさかあの2人……いや、ないない」

「なんか夫婦漫才を見ているような……」

「まぁ、告白してこないミナトだから、相手していて気が楽なんだろ」

「まさか、ミナト、“唐揚げ”でアリサちゃんを落としたんじゃねーだろな……」

「まさかあの伝説の唐揚げか!?」

「ミナトの唐揚げはやべぇよ!」

「そりゃ誰だって落ちるぜ!?」

「ククッ、ミナトの本領はタコさんウィンナーにあるということに、まだ貴様らは気づかぬのか……」



 なんだか羨望せんぼうの眼差しを、クラス中の男子から受けているような気がする。き、気のせい、気のせい。


 後、また気が向いたら唐揚げ作ってやるから待ってろよお前ら。





 昼食をたかしと共に屋上でとる。


「この前は助言サンキューな」

「ククッ、なんのことだかな」

「おかげでアリサさんと楽しい誕生日を過ごせたと思う」

「フンッ、ならばよい」

「ほれ、タコさんウィンナーだ」

「ククッ、さすが分かっているな。我が宿敵よ。はむはむ、たまらん!」


 タコさんウィンナーを美味しそうに食べるたかしは無邪気で、微笑ましかった。





 俺とアリサは、放課後に俺の部屋で一緒に勉強をしている。


 一学期の期末試験が近い。そしてこれを乗り越えられれば、念願の夏休みとなるのだ。


「赤点なら夏休みが補修で潰れてしまうから、頑張らないと……」

「はい、頑張って勉強しましょうね。ミナト君が補修なんて嫌ですよ? 夏休みは一緒にたくさんの思い出をミナト君と作りたいです!」


 その言葉だけで、俺のやる気はみなぎってきた。アリサとの夏を想像するだけで、ワクワクが止まらない。


「んーここは……」


 早速、俺は数学の問題につまずく。


「任せてください!」


 アリサは俺の横に来て、数式の解き方を教えてくれる。


 横で密着している分、彼女の体温や女の子特有の甘い匂いを感じて、ドキドキしてしまうう。


「ここはXにこちらを代入して〜」

「なるほど」


 アリサの教え方は、すごく丁寧で分かりやすかった。


「悪いね。俺の勉強に付き合わせているみたいで」

「私も復習になるし、ちょうどいいんですよ。それに普段、ミナト君にはお世話になりっぱなしですから!」

「そう……かな?」

「はい、だからその分、私を頼って下さいね?」

「うん、頼りにしてるよ、アリサさん!」

「はい!」


 アリサは頼られたのが嬉しかったのか、むんと力こぶを作って見せた。


 見れば一つも力こぶはできていなかったが、そこがまた愛らしかった。


「ははっ、アリサさん、力こぶできてないよ?」

「いえ、触ってみてください。ほんの少しだけあります!」

「え?」

「さぁさぁ!」


 ずいっとアリサは俺に迫るので、仕方なくアリサの腕を触る。ぷにぷにすべすべとして、すごく触り心地がよかった。


 ぷにぷにぷにぷに。


「どうですか?」

「うーん、ぷにぷに」


 俺はアリサの腕をしばらくぷにぷにしていた。


「あの、ミナト君……?」


 ぷにぷにぷにぷに。


「自分で言ってといてなんですけど、そろそろ恥ずかしくなってきたのですが……」

「ご、ごめん、あまりにも触り心地がよくて……」

「は、恥ずかしかったので、代わりにミナト君の腕も少しお触りしますね!」

「ええ!?」


 アリサは俺の腕をペタペタと触り始めた。


「うわー、ゴツゴツしてます。やっぱり男の子……ですね」


 アリサは興味津々に俺の腕をペタつく。


「あのー、アリサさん、恥ずかしいんですが……」

「ふふっ、これでおあいこですね?」


 すっかり勉強そっちのけで、なんだか甘い時間を過ごしてしまった。





 アリサが突然、時間を確認してバッと立ち上がる。


「ど、どうしたの?」

「タコさんとイカさんがスミを塗りたくるゲームの、フェスイベントが始まります! ちょっとプレイしてきますね!」

「ほ、ほどほどにね……」

「はい! イヤホンでプレイするのでご安心を! 分からないところがあったら、遠慮なく呼んで下さいね!」


 アリサはウチでゲームをして以来、すっかりハマってしまったようだ。


 アリサ、点数落ちなきゃいいけどな……。




 



 




 


 

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