アリサとゲームをしよう

 俺がリビングのソファに座ると、アリサは俺の隣に座ってきた。彼女の体温を感じる。ち、近い。


 彼女からのシャンプーだかリンスだかのほんのりと甘い匂いもして、余計にドキリとした。


「実は気になっていることがあったんです……」

「な、何?」

「ミナト君って、ゲーム機持ってるじゃないですか?」


 アリサはテレビの下に置いてある、ゲーム機を指差す。携帯モードと据え置きモードをスイッチできる人気ゲーム機だ。


「うん、持ってるね」

「あれ、やってみたいです!」

「アリサさんは持ってないの?」

「はい、両親が厳しい教育方針だったので……。動画でプレイしている人を見て、やってみたいなぁって、ずっと思ってたんです!」

「そっか。じゃあ、一緒にプレイしよっか」

「はい!」


 アリサを目を輝かせてソワソワしている。よっぽど、楽しみなのだろう。


 俺が選んだゲームはみんなでワイワイ乱闘しあう格闘ゲームだ。様々な人気キャラが大集合している、超人気ゲームである。


「あっ、これ動画でよく見てました!」

「よし、じゃあ一緒にやろうか」


 俺は片方のコントローラーをアリサに渡す。まずは1対1で操作に慣れてもらおう。


「操作方法教えるね」

「はい」


 アリサは目は真剣そのもの。


 一通り操作方法を教えた後に、試しに2人で戦ってみた。


「えいっ! えいっ!」


 アリサはパワー型キャラを使っている。


「よっ、ほっと」


 対して俺は、身軽でスピーディなキャラを使って、おじさんキャラを翻弄ほんろうする。


「こ、攻撃が当たらないです!」

「威力の高い技は遅くて、隙が多いからね!」


 俺はアリサのキャラの大振りな攻撃の後隙をついて、反撃をする。


「や、やられちゃいました……」


 少し、初心者相手に力を出し過ぎたかな? 次からはもう少し抑えて、プレイしよう。


 その後、手加減した俺にアリサは勝利した。


「勝ったね〜、アリサさん」

「手を……抜きましたね?」

「ぎくっ。でも、アリサさん初心者だし……」


 しまった。あからさま過ぎたか? でもこういうさじ加減って案外難しいんだよな……。


「真剣勝負で手を抜かれるのは屈辱くつじょくです! 本気でお願いします!」


 アリサの瞳がメラメラと燃えている。アリサって、もしかしてかなりの負けず嫌いなのかな?


「わ、分かったよ。次は手を抜かない」

「お願いします!」


 その後のアリサの上達は凄まじかった。俺の動きをよく観察し、ガードからの反撃までしっかりとこなす。


 忘れていたが、彼女は様々な分野での天才なのだ。それはゲームに関しても例外ではないようだ。


「すごく上手くなってる……」

「まだまだこれからです!」


 その後、2人で熱中してゲームをプレイし、ついにアリサが俺から勝利をもぎとった。


「くっ、負けた!」

「やりました! ブイ!」


 アリサは嬉しそうに俺に向かって、指をブイマークにする。


「ふふっ、どうやら俺を本気にさせたな……」

「ふっふっふっ、どこからでもかかってきて下さい」


 俺は遠距離攻撃主体のキャラに切り替える。


「きゃあああああ! 全く近づけません!」

「はははははっ! どーだ!」


 俺は大人げなく、遠距離攻撃を連続させ、アリサのキャラを全く寄せ付けない。


「勝った!」

「ず、ずるいですぅー!」


 アリサはプクーと頬を膨らませる。そんな顔もとっても可愛らしい。


「勝負の世界に卑怯はないのだ!」

「いえ、遠距離攻撃には慣れてきました。次は勝ちます!」


 その後も2人でゲームに熱中し、時間を過ごすのであった。





「ふぅ、ちょっと休憩」


 俺がゲームを辞めると「まだまだ物足りないです!」とアリサが言ってきた。


「それじゃあ、オンライン対戦やってみる?」

「オンライン対戦?」

「あぁ、世界中のプレイヤーと戦うことができるんだよ」

「うわぁ、楽しそうですね。ぜひ、やらせてください!」


 アリサはオンライン対戦を始めた。


「ねぇねえ、ミナト君。見て下さい。私が倒された後に、ペコペコしゃがんで、“ごめんね”って謝ってきますよ! 日本人って本当に礼儀正しいんですね!」


 アリサは感動しているようだ。しかし──


「それ“あおり”だよ」

「……煽り?」


 アリサは小首を傾げる。


「倒した相手に対して、特定の行動を反復することで、煽っているんだよ。ペコペコしたり、左右に激しく動いたりしてね」

「…………」


 アリサはしばらく沈黙する。


「ボコボコにしてやります!」


 アリサは敵にイノシシの様に突進した。


 当然、単調な攻撃となり、アリサはいともたやすく敗北した。


「うわあああああああん! 悔しいですぅ! ミナト君、なぐさめて下さぁい!」


 アリサは俺にずいっと、体を寄せてくる。


「っ……!」


 彼女の柔らかい肌が服越しに伝わり、ドキリとしてしまう。


「よ、よしよし……」


 俺は彼女の頭を優しくなでて、なぐさめてみる。す、少し大胆過ぎたかな?


「ふぅ、いやされます……」


 彼女は仔犬のように気持ちよくなでられている。


 しばらく経ち、アリサ冷静に戻ったのか、「す、すいません! はしたないことをしました……」と謝ってきた。


「ふふっ、甘えるアリサさん、可愛かったよ」


 俺は冗談でそう言ってみる。するとアリサの顔がすぐにトマトの様に真っ赤になった。


「み、ミナト君……からかわないで下さいよ、もぅ……」

「ははっ、悪かった、悪かった」


 アリサはチラッと時計を見る。


「もう……こんな時間ですか。名残惜しいですが、今日はここまでですね。ありがとうございました」

「うん、俺もアリサさんと、ゲーム出来て楽しかったよ。また、やろう」

「本当ですか? ふふっ、次も楽しみにしてますね」


 彼女はペコリとお辞儀をして帰宅する。


 残された俺は、シーンとした部屋でポツリと独り。彼女がいないだけで、部屋がなんだか色褪いろあせて見えた。


「……もう寝よう」


 そう言って俺はベッドに戻り、ぽっかりと胸が空いたような寂しさを抱え、眠りについたのだった。




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