まさかの夜中に訪問

 今日の晩ご飯は、アリサと2人で話し合った結果、すき焼きとなった。


 俺は昼からスーパーへ買い出しに行き、すき焼きの食材を購入した。


「7時か。すき焼きの準備はしたし、そろそろアリサさんを呼ぼうかな」


 俺がスマホで連絡をすると、すぐにインターホンが鳴る。


「アリサです」

「はい、どーぞ」


 鍵を開け扉を開けると、アリサは白い箱を手にしていた。


「今日、ケーキ買ってきたんですよ。駅前の人気のケーキ屋さんです。いちごショートケーキとチョコレートケーキを一つずつ。看病と掃除のほんのお礼です」

「ありがとうアリサさん。ありがたくいただくよ。そうだ、食後に2人で一緒に食べない?」

「いいんですか? ありがとうございます!」


 俺はケーキの箱をいったん冷蔵庫にしまう。


「そうだ。忘れてた。合鍵を返しとくね」


 俺は彼女に合鍵を渡す。


「はい。そう……でしたね」


 心なしか、受け取った彼女の顔はほんの少しだけ寂しそうだった。


「ああ、そうそう。それとこれも」


 俺は“自分の部屋”の合鍵を渡す。


「……これは?」

「俺の部屋の合鍵。食事のたびに、外で待ってるの面倒でしょ?」

「セキュリティー上、大丈夫なんですか?」

「うん、信頼してるよ」


 しばらく彼女は考え込んでいたが、


「はい。ふふっ、ではお預かりしますね」


 柔らかな笑みを浮かべて、合鍵を大事にそうに胸の前で握りしめていた。





 グツグツとすき焼きの鍋が煮えだした。


「そろそろ食べられそうだね〜」

「はい、すき焼き楽しみです!」


 俺は茶碗に生卵を割り、かき混ぜる。


「なぜ卵を?」


 アリサは小首を傾げている。


「日本ではき卵に、すき焼きの具材を絡めて食べるのが人気なんだよ。アリサさんもどう? あっ、やっぱり生卵には抵抗あったりするのかな?」

「いえ、日本の生卵は安全と聞いています。ぜひ、挑戦させてください!」


 俺はアリサに溶き卵の入った茶碗を渡す。


「「いただきます」」


 2人で手を合わせ、食事を始める。


 アリサは牛肉を箸でつかみ、溶き卵にしっかりとディップさせる。


「では、行きますね……」


 アリサは恐る恐る口の中に、牛肉を運ぶ。


「!?」


 アリサの顔が衝撃を受けたような顔になる。


「ア、アリサさん、大丈夫?」


 俺はそっーと彼女の顔色をうかがう。すると──


「お、おいしいですぅ……」


 アリサは喜色満面きしょくまんめんのとろけそうな笑みを浮かべていた。


「ふぅ、よかった……」


 俺はほっと胸を撫で下ろす。


「柔らかな牛肉とまろやかな溶き卵が、甘さをともなって、口の中で調和しています。こんな組み合わせがあったんですね……」


 アリサは目を閉じて、牛肉の味をかみしめている。


 こんなにいいリアクションをしてくれると、作ったこっちも嬉しくなるな。


「う〜ん、ご飯が進みますね!」

「まだまだあるから、どんどん食べてよ、アリサさん」

「はい! あっ……それとあの……」


 アリサが少し恥ずかしそうに言う。


「ご、ご飯のおかわりもらってもいいですか?」

「もちろん!」


 それから2人で仲良く鍋をつついたのであった。





 アリサが帰った後、俺は風呂に入り、リビングでまったりとしていた。


 スマホの通知音が鳴る。そしてその相手はアリサだった。


『今からお邪魔してもよろしいでしょうか?』


「!?」


 よ、夜中の今から? 忘れ物でもしたのかな? とりあえず俺はOKと返事をした。


 ガチャリと音がして、合鍵を使ってアリサが入ってきた。


「お、お邪魔します……」

「っ……」


 風呂上がりなのだろう。少しほてった顔が妙に色っぽくて、ドキリとした。


「よ、夜中にどうしたの? アリサさん」

「いえ、その、もう少しミナト君と一緒にいたいなぁって……。め、迷惑ですよね?」


 頬を赤らめ、上目遣いでアリサはとんでもない発言をする。か、勘違いするってこんなの!


「そ、そっか。じゃあ、ゆっくりしていってよ」

「はい、お邪魔しますね!」


 アリサは嬉しそうにリビングに上がっていったのだった。







 





 


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