お好み焼きを食べよう

「しかし、とんでもないことになったな……」


 俺は自宅に戻って、そう呟く。


「早乙女さんの部屋で看病して、寝顔まで見て、そして食事を一緒にすることになるんて、夢にも思わなかったな……」


 大胆にも、俺は食事を作るなんて言ってしまった。


 気恥ずかしかったのは事実だが、それ以上にアリサを放っておけないという気持ちが勝ってしまった。


「よーし、早乙女さんに喜んでもらえるような、お好み焼きを作るぞ!」


 俺は気合を入れて、お好み焼きの調理を開始する。





 ピンポンとチャイムが鳴る音が響き渡る。


 後はホットプレートで焼くだけで完成なので、アリサを携帯で呼び出した所だ。


「お邪魔します」


 アリサの見慣れない私服にドキリとする。か、かわいい。


 こんな子を自宅に招くなんて、クラスのみんなに知られたら殺されるじゃなかろうか。


「後は焼いたら完成だからね」

「はい、とっても楽しみです!」


 彼女は俺の方を向いて、微笑んだ。その天使のような微笑みに思わずに見惚れてしまいそうだ。


 さっきまでは、看護する使命感から必死だった。しかし日常に戻った今では、彼女をすごく意識してしまう。うー、お、落ち着け俺!





 ホットプレートで焼き上げたお好み焼きから、香ばしい匂いが辺りに広がる。


「うわぁ、いい匂いですね〜!」

「よし、もう食べられるね」


 俺はホットプレート上のお好み焼きをヘラで切り分け、皿の上に乗せる。そしてソース、マヨネーズ、青のり、かつお節をまぶしたら完成!


「美味しそうですね……」


 アリサは待ちきれないのか、そわそわとしている。


「じゃあ、いただこうか。ただ、熱いから気をつけてね」

「はい、いただきます!」


 アリサは海外育ちながらも、器用に箸を使いこなし、お好み焼きを食べ始めた。ふーふーとして、パクりと一口。


「ん〜、美味しいです!」


 彼女は頬に手を当て、幸せそうにお好み焼きを味わっている。よかった、うまく作れたようだ。


「外はカリッと、中はふわっとした生地に、たっぷりと入ったキャベツと薄切り豚肉。それらと絶妙に絡み合う、ソースやマヨネーズ。これはたまりませんね!」


 目を輝かせたアリサの箸の勢いは止まらない。


「ははっ、ゆっくり食べてね?」

「はい! ん〜幸せです〜!」


 本当に美味しそうに食べるものだから、こっちまで思わず、頬が緩んでしまう。


 



「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした」


 ふぅ、我ながら美味しかったな。満足だ。


「じゃあ、食器洗ってくるよ」

「あっ、手伝いますね」

「早乙女さん、家事苦手だけど大丈夫?」

「しょ、食器を拭くくらいなら、なんとか……」

「分かった。それじゃあお願いするよ」

「はい」


 2人で並んで、後片付けをする。


「ふふっ、こうしているとなんだか夫婦みたいですね〜」

「──え!?」

「あっ、いえ、その別に深い意味はないですけど……」

「そ、そうだよね、あはは……」


 アリサの白い頬がほんのりと赤く染まる。


「あのー、その……ミナト君って呼んでもいいですか?」

「!?」

「あっ、馴れ馴れしい……ですよね?」

「い、いや、そう呼んでもらって構わないよ」


 それを聞いたアリサの顔はパァッと明るくなった。


「じゃあ、私のこともアリサって呼んで下さい!」

「!?」


 し、下の名前で呼ぶなんて、まるで彼女みたいじゃないか……。


「ア、アリサ……さん?」

「ふふっ、はいアリサです」


 照れながらも下の名前で呼ぶと、嬉しそうにアリサは返事をしてくれた。


 下の名前で呼ぶだけで、グッと距離が縮まった気がして、なんだか嬉しかった。


「ミナト君、ミナト君!」

「な、何?」

「ふふっ、呼んでみただけです」


 か、からかわれたのな? よし俺も──


「アリサさん、アリサさん!」

「な、何ですか?」

「いや、呼んでみただけ」

「ふふふっ」

「はははっ」


 2人して笑い合う。それはまるで青春の1ページのように甘酸っぱい一時ひとときだった。


 ってアレ? アリサさんってこんなキャラだったっけ? 


 クールな性格で、こんなに明るく楽しそうに笑う所は、学園でもあまり見たことがない気がするけど……。






 

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