アリサ視点


《アリサ視点》


「むにゃ?」


 私はようやく目を覚ます。身体が軽い。額に手を当てる。どうやら熱も下がったみたいだ。


 同時に昨日の夜のことも思い出す。


「熱に浮かされてたとは言え、如月きさらぎ君に甘え過ぎ……ましたね」


 私の顔がカァーと赤くなる。


「と、とりあえず、昨日交換した連絡先に連絡しましょう」


 私はスマホで如月きさらぎ君に連絡する。


「もしもし、如月君ですか?」

『早乙女さん、丁度よかった。サンドイッチできたから、今から持って行くね』

「……え?」


 そういえば昨日、寝る前に朝食を作るとかなんとか言ってた……ような?




 

「おはよう、早乙女さん」


 如月君が卵サンドイッチを持ってきてくれた。


 ──きゅるるるる


「あっ……」


 それを見た私のお腹の虫が鳴き出した。恥ずかしくて、私の頬がカァ赤くなるのを感じる。


「ふふっ、お腹空いてるみたいだね」

「と、とりあえず、昨日のお礼がしたいので、中に上がってもらえませんか?」

「う、うん、分かった!」


 如月君は心なしか緊張しているように見えた。


 



「出来立てだから、すぐに食べてくれると嬉しいな」

「はい、いただきます!」


 テーブルの椅子に座り、まずは卵サンドを一口。ふわふわの食感と、程よい甘さが口いっぱいに広がる。


「とっても美味しいです!」


 私の顔が自然とほころぶ。


「よかった。その調子だと風邪は治ったみたいだね」


 如月きさらぎ君は優しい目をして、微笑んでいる。その笑顔に私の胸がキュンとした。


「は、はい、如月君のおかげです」

「ところで早乙女さん──」


 急に真剣な目でミナト君が私を見つめている。その熱い眼差しに、私の胸が再びキュン。


「な、なん……でしょうか?」


「俺にこの部屋の掃除をさせてくれないかな?」

「──え?」

「俺さ、こういうゴミだらけの部屋を見たらウズウズするんだよね! 綺麗にしたくて、たまらなくなるんだよ!」


 如月きさらぎ君の目が燃えている。


「でも、如月君に悪いですよ……」

「また昨日みたいに風邪引いたら困るだろ? 親も友達も呼べないし」

「ぐぅ……」


 ぐぅの音もでない。


「安心して下さい。私が本気を出せばこのくらいは余裕なのです!」


 私は掃除のために、腕まくりを始める。


「うーん、不安だなぁ……」


 如月君は心配そうにつぶやいた。ふっふっふ、見てろよー!





 ──ドンガラガッシャーン! パリンパリンパリーン!


 おかしい。掃除をすればするほど汚くなる。


「あっ、ああ…………」


 チラッと見れば、如月きさらぎ君がこの世の終わりのような顔をしていた。


「バ、バトンタッチしてもいいかな? と言うよりさせて下さいお願いします」

「……はい」


 そこからの如月君はすごかった。またたく間に綺麗になっていく部屋を、私は呆然と見つめることしかできなかった。


「す、すごいですね……」





「ふぅ、こんなもんだな」


 部屋中をピカピカにした如月きさらぎ君は、ひたいの汗をぬぐう。


「ありがとうございました! 如月君は本当に頼りになりますね!」

「ははっ、そうおだてないでよ。……っとそろそろお昼か。早乙女さんはお昼はどうするの?」

「はい、また外食でも頼もうかと」

「外食するのもいいけど、栄養バランスには気をつけてね?」


 如月君は心配そうに私を見つめている。


「はい。自分でも料理はしてみるんですが、これが壊滅的でして……。どうしても外食に頼ってしまうんですよね」 


 すると如月君はうーんと逡巡しゅんじゅんして


「心配だね……。よかったら、俺が作るよ?」


 と意外な提案してきた。


「……え?」

「自分の分の材料費さえ出してくれるなら、1人前も2人前も大して手間は変わらないからね」

「い、いいんですか?」

「う、うん、早乙女さんさえ良ければだけど……」

「はい、ぜひお願いします!」


 私は目キラキラと輝かせて喜ぶ。


「そっか! それならご飯が出来たら連絡するよ。あっ、そうだ。なんかリクエストとかある?」

「日本料理で有名な“お好み焼き”が食べてみたいです!」

「関西風? 広島風?」

「カンサイフウ? ヒロシマフウ?」


 私は小首を傾げる。お好み焼きに種類があるなんて知らなかった。


「よく分からないので、おすすめでお願いします!」

「そっか、海外育ちだもんな。じゃあ、こっちに任せてよ」

「はい、任せます。せ、せっかくなので、如月君の部屋で、一緒に食べてもいいですか? あ、熱々を食べたいので……」


 私は思い切って、そう言ってみる。


「へ? ま、まぁ早乙女さんがいいなら……」


 如月君の頬が少し赤くなっている。


「フフッ、楽しみにしてますね?」

「う、うん」


 もっと如月君のことを知りたい。いつしか、私はそう思うようになっていた。


 如月君と話していると、なんだか頬が熱い。おかしいな、熱は下がったはずなんだけどな。



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