case3 : 別行動

【――B校舎 神谷凛、一之瀬結衣――】

「凛ちゃん、とりあえず1階まで下りて見よう?」


 私は凛ちゃんに提案してみました。


「それがいいね。ここは1階から4階まで教室だから、もしかしたら起きている人がいるかもしれないし!」


 凛ちゃんは元気よく返事をしてくれます。


 私たちは階段を下りながら、少しお話をする事に。


「いやーびっくりしたよ!まさか亮にぃと一緒にいるなんて」

「う、うん。私も凛ちゃんと亮さんが兄妹だったなんて……少し驚いたよ」

「まあねー。私たち似てないってよく言われるし」


 確かに似ていない……かも?見た目は全然似ていないし、性格も、ちょっと……違うと思いました。


「それよりも結衣の方だよ!何で亮にぃといたの?いつから知り合いなの?」


 し、質問攻めです……。知らない人だったら絶対に上手く話せないです。


 だけど、凛ちゃんとはこの学校に入ってからの友達で、いつもお話しているので緊張はしません。


 彼女の方に視線を向けると、その目はきらきらしていて、好奇心が抑えきれてない……


 私は少し戸惑いましたが、亮さんの妹とは関係なしに、友達にはできるだけ隠し事はしたくないので、話すことにしました。


 初めから……と言うわけにもいかないので、所々端折りながらですけど。


「……それで、今はお兄さんの家でお世話になってるの」


 説明し終わっても凛ちゃんは黙ったまま、こちらを一心に見つめたままです。何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか。


「うわあーーーーーんっっ!!!」


 突然泣きながら抱き着いてきました。


「そんなことがあったのに助けられなくてごめんね、大変だったよね。無事でよかったよぉーーーー!!」

「う、ぐすっ、大丈夫、ありがとう。凛ちゃん」


 私は泣きそうになるのを必死にこらえて、両腕で抱擁し返しました。


 凛ちゃんはとても優しいのです。私の事なのに自分の事のように泣いてくれます。


 しばらく抱き着いて泣いていましたが、そのあと少し黙ったまま動かずにいました。


「凛ちゃん、ありがとう……でももう大丈夫だよ」


 私が肩を軽くたたくと、はっとしたように凛ちゃんは顔を上げます。


「ご、ごめんね。つい……」

「ううん、嬉しかった。ありがとう、私も凛ちゃんが困っていたら、絶対助けるからね」

「えへへ、ありがとう!」


 そうして階段から進んでいなかった私たちは、急いで1階に向かいました。


 1階に到着した私たちは、一度近くの教室へと入るために扉を開けようとしましたが……、


――ガチャ、と音を発するも扉は開きません。


「どうしよ結衣、扉……、開かないよ」

「そんな 」


 いくら力を込めても、扉は少しも動きません。


「別の教室も確認してみよう?」


 念の為に、隣の教室に移動して……その異変に気付きました。廊下の空気が変わったような、肌に触れる感覚が違うのです。


「ねえ、なんかここ、おかしいよね……」


 凛ちゃんも廊下の異変に気がついたようです。


 何か変な魔力が辺りを漂っていて、私たちは嫌な予感がしたので、身構えつつ様子を見ます。


 初めは薄い魔力が、壁や天井に張り付くようにして存在していたのですが、その魔力はだんだんと形を作っていきます。


「うわー何あれ……気持ちわるっ」


 その魔力は人型のような形になりましたが、変に歪んでいて気持ちの悪い見た目です。自然と背筋に凍るような感覚が伝わってきます。


「凛ちゃん!後ろ!」


 前方に気を取られ過ぎて、背後を見ていませんでした。どうやら囲まれてしまったようです。


「倒すしかないね」


 凛ちゃんの気合いの籠った声が聞こえます。


「そうだね、まずはこれを倒そう!」


 私たちは顔を見合わせ、小さく笑みを浮かべて頷き合いました。私は魔術を使い、前方の敵の中心に重力の球を作り出します。得意魔術の重力魔術です。


 敵は重力に引っ張られて、吸い込まれていきます。重力魔術は、重力の操作や重力を圧縮して物理的に圧殺することが可能です。ちなみに今発動した魔術は“重力球”と言います。


 敵が動けずに吸い込まれていくのを確認して、廊下の奥へと重力の球を飛ばします。魔力制御が難しくて自由に操作することは出来ないですが、直線上にまっすぐ放つだけならば簡単なのです。


 強い魔術ではありますが……、本当に必要な時に使えなければ、使える意味がありません。


 後悔は沢山出てきますが、今は友達のお手伝いが優先です。


「凛ちゃん!」


 けれど、私が振り向いた時には、凛ちゃんもほとんど倒していました。無用な心配でしたね。


「――はあっ」


 凛ちゃんの手には、美しい短剣が二本、握られています。


 あれは凛ちゃんが得意としている生成魔術と召喚魔術を合わせたものらしく、"剣召喚"と呼ぶそうです。


 召喚と言うくらいですから、かなりの魔力が必要ですし、それを扱うには高い技も求められます。


 しかし、彼女にはそのどちらも障害にはなり得ません。


 凛ちゃんは剣は、とてもきれいで素早い剣裁きなのです。初めの一振が次の動きの一部となって、連撃のはずが1つの技のように見えます。


 私は一瞬、思わず見とれてしまいました。


「危ない!」


 気づくと凛ちゃんが囲まれています。

 ……いったいどこから?


 とっさに魔術を使おうと手を伸ばしましたが、


「えっ」


 敵が消えて……いえ、倒されていきます。


「な、なにが……」


 よく見ると、空中に剣が二本浮いていました。凛ちゃんが前の敵を持っている剣で倒しながら、空中の剣を操作して後ろの敵を倒しているのです。


 まるで剣自体が生きているかのように、滑らかな動きで。


「――ふう」


 あっという間にすべてを倒し終わると、剣が魔力へと戻り凛ちゃんへと帰っていきました。


「す、すごいよ凛ちゃん!今のって……」


 私は聞かずにはいられませんでした。


「え、ああ今のね……えっと、秘密にして欲しいんだけど、いいかな?」

「う、うん」


 凛ちゃんが声を抑えて顔を近づけます。


「実は……亮にぃに教えてもらった"多重剣"っていう上級魔術なんだ。重力魔術に生成魔術を加えた混合魔術でね。魔術を作ったなんてばれたらめんどうだから秘密にしてくれって、亮にぃが言ってた。5年練習して、最近やっと使えるようになったんだ!」


 上級魔術……!上級生でも扱える人は少ないのに……、実践でも使えるほど仕上げているの、凄い!!


 けど、それ以上にとてつもない情報を知ってしまいました。


「魔術を作ったの?!……す、すごいね亮さん」

「でしょ!それなのに亮にぃ、黙ってろ、ってさ!教えてくれたからいいけど……」

「でも、凛ちゃんもすごいよ!上級魔術なんて使える人ほとんどいないよ!それにすごくかっこよかった!」

「そ、そう?ありがとう!でも、亮にぃはもっとすごいんだから!私とは比べ物にならないほどたくさんの剣を出せるんだよ!」


 何だかすごく嬉しそうに話すなぁ……。多分お兄さんの事、とっても好きなんだろうな。


 少しだけうらやましい……ってなんて事考えてるの私!

 私は亮さんの助手!そ、それ以上なんて……


「結衣?」

「えっ?あっ……えっと……あはは」


 凛ちゃんの前で恥ずかしい姿を……。

 気を取り直して次の動きを考えることにします。


「一応、亮さんに連絡しておこう」

「うん、それがいいと思うよ。何か非常事態だったし」


 そう言ってポケットからバッチを取り出し、そこに魔力を流すと、


「亮さん、聞こえますか」


 頭の中で呟いてみます。

『一之瀬君、ちょうどよかった。すぐに先程の場所まで戻ってきてくれ』


「何があったんですか?不思議な敵が出てきたのですが」

『そちらもか。おそらくだが、術者に俺たちが動いていることがばれてしまった』 

「亮にぃは無事?」


 凛ちゃんが心配そうに言います。私も、少し心配です。


『当たり前だ。それより、このまま分かれていると危険だ。急いで戻ってきてくれ』

「分かりました」

「オッケー!」


 私たちは急ぎ、もと来た階段で上へ戻ります。

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