case2 : 厄介な仲間
俺は足取りの重い教室に向かって、仕方なく歩を進める。この先に面倒事が増える未来が見えているのだ。
「どうした神谷、嫌そうな顔をして」
「いや、そんなことはない……ないが、あるのだ」
「結局どっちだよ」
今日は榊原のツッコミが冴えているな……と、普段なら有り得ない現実逃避をしてみる。
そんな事をしても意味が無いのは分かっているのだが。
「そういえば私のクラスに神……」彼女がそう言いかけたところで、教室に到着した。
「つきました!ここです」
一之瀬君が急ぎ中へ入っていく。
「――誰?!」
入った瞬間声が聞こえる。
俺としては聞きたくなかった声が。
「凛ちゃん!私、一之瀬!」
「え……あれ?結衣!どうしてここに?」
驚いて陰から飛び出してきた少女は、2度驚くことになる。
「その……い、いろいろあって……とにかく無事でよかった」
一之瀬君がほっと息を出す。
「亮さん、眠ってない人いました!」
そう言って俺の事を呼ぶ。
「りょう……?」
彼女の発言にその少女は訝しんで、首を傾げる。
俺は教室へ入ると、
「よう、久しぶりだな、凛」
俺はここ最近で最も大きなため息を吐き、片手を上げて挨拶を交わした。
「え?あ、そういえば、凛ちゃんの苗字って神谷……」
これが俺がこのクラスに行きたくなかった理由である。
「亮にぃ!何で?え、どういうこと?」
俺の顔を見るなり指をさして叫び散らかすこの少女――神谷凛は、俺の妹である。
「落ち着け、聞きたいことはあるだろうが、とにかく待て。とにかく状況確認が最優先だ」
俺は教室を見渡して確認する。
どうやら起きているのは凛だけらしい。
「お前は何故寝ていない?」
寝ていれば、多少の面倒は避けられたというのに。
「あー、それね……今日たまたま遅刻しちゃって !あ、アハハ……本当にたまたまだよ!本当だよ!ね?結衣!」
必死だ。
それはもう分かりやすく。
「一之瀬君、正直に言っていいぞ」
「えっと……朝に弱いだけ……だよね?凛ちゃん」
「やっぱりか」
俺は呆れ顔で妹の顔を睨む。
「お前は全然変わってないな、凛。一之瀬君は遠慮してくれているが、毎週毎週遅刻しているのだろう?」
「そ、そんなこと……ない……はず、だよ!」
「視線をそらすな」
この妹は、相変わらずの遅刻魔のようだ。
そんな様子を遠くから見ていた榊原がいまさらのように言う。
「あ、凛って神谷の妹か!大きくなったんだなあ」
「いまさらか榊原……お前は会ったことあるだろうが」
「そんなこと言うがな、最後にあったのは俺が高校生の時だぞ。あの時はまだ小学生だったじゃないか」
「えっと……榊原さん、だっけ?」
凛がそう尋ねる。
「そうだ、まああったことがあると言っても数回だ。覚えてなくても仕方がない」
年がかなり離れているので、妹と言っても知り合いに会ったことがないやつはいる。
俺はもう一人暮らしをしているが、こいつは両親と一緒に暮らしている。最近は全く会っていなかったが、こいつも第六学院だったのは知っていた。
と言うか、忘れ物を届けに何度か来た事がある。
「そんなことよりも……」
俺は凛の方を向いて話題の軌道修正を計る。
「遅れてきたらもうこの状態だったということだな」
「そうだよ!来たと言ってもついさっき来たばかりだからよくわかってないけど!」
「それは何の自慢にもなってない」
「いてっ」
俺は頭に手刀を落とす。何故誇らしげに語るのか。
「とりあえず、こうして起きている人間がいた以上、他のクラスも確認するべきだろう」
「そうだな、ついでに何か情報がないか確認しとこうぜ」
次の目的が決まり、俺たち4人は廊下に出る。そして次の場所を確認するための作戦を立てる。
「調べると言ってもここは広すぎる。場所を限定して効率よく探した方がいい」
「具体的には?」
「3手に分かれて各校舎を調べることにしよう」
そう言うと一之瀬君が尋ねる。
「この学院は校舎が4つありますけど……」
「それは大丈夫だ。体育館は最後に全員で調べるから」
「なるほどね、りょーかい!」
凛が元気よく返事をする。
「別れ方だが、俺と榊原は別々に行動する。凛と一之瀬君は、一緒に行動してくれ」
俺は全員に指示を出す。
「全て確認したら、またここに戻ってきてくれ」
「何かあった場合は?」
「そうだな、お前たちはこれを使え」
俺はポケットから小石を取り出し、学生2人に渡す。
「これは念話石だ。そこに魔力を込めて話すと俺に聞こえるようになっている。何かあった場合はこれで俺に報告してくれ」
「なあ俺は?」
榊原が俺は自分で何とかしろってこと?そんな表情で聞いてくる。アホなのかこいつは。
「お前はスマホがあるだろうが」
「あ、そうか」
「俺はA校舎、榊原はC校舎、一ノ瀬君達はこの校舎を頼む」
「分かりました」
「おっけい」
「了解だ」
そう言ってそれぞれの場所に走っていく。
【――C校舎 榊原優紀――】
「なんもねえなあ……」
暇を持て余した口が、勝手に動く。
C校舎3階、4階は既に回ったが、特に何もなかった。
生徒が眠っている以外、平和そのものだ。
この校舎は、特別授業ができる教室が集まっていた。音楽室に、家庭科室、理科室に美術室と言った教室ばかり。
「次は2階に行ってみるか」
近くの階段を下りつつ考える。
もしも何かがあるとすれば、それはなんだ?そもそも犯人の狙いはなんだろう。と言うか犯人はいるのか……?
考えながら2階まで降りて、その場所にびっくりした。
「でかっ」
この校舎の1、2階は、大きな図書室になっていたのか。壁1面どこを見ても本だらけ。
「流石、都立の学院」
ものすごく偏見に満ちた感想を抱きながら、1階まで下りる。
「流石にここには何かありそうだな」
俺なりの勘を頼りに、でかい本棚に囲まれた通路を1本ずつ確認してみる。
通路を覗き込むようにして歩いていると、通路に一冊の本が落ちていた。これまた超分厚い辞書みたいな本だ。俺はペラペラとページをめくる。
「魔導書……のようだな」
内容的に関係ないか。重たい本に拒絶反応を起こし、視線を逸らした。しかし、最後に視界へ飛び込んできた妙に引っかかるページに、気になる一文を見つけた。
それは精神魔術のページ。長時間開いていたのか、本の折り目に跡が残り、開きやすくなっていた。
「精神魔術か……。俺はあんまり得意じゃないんだよな。この分野なら如月が得意そうだけど」
俺は身体強化系の魔術が得意だ。魔術で遠くから攻撃するよりも、さっさと近づいて攻撃した方が早い。
けどこの話を神谷にしたときは、
「これだから脳筋は……怪我をしても知らんからな」
と言われた。
あいつは近接の魅力が分かっていない!
そんなことを考えながら適当に読んでいると、
「な、これって……」
――見つけてしまった。
そのページにはこう書かれていたのだ。
『――精神魔術 : 相手の精神に作用して意識を操作したり、幻覚を見せたりする。大規模な魔術を行使するときに、魔力の確保などにも使われることがある。
例えば、召喚魔術である。より大きな悪魔を呼び出すときは、大量の魔力が必要となる。その確保に睡眠魔術や吸収魔術を使う。
人の夢はイメージの集合体である。魔術においてイメージは魔力を操る際に最も重要とされる。つまり夢には自然と魔力が宿るのである。その魔力を使うことで本来大量に必要となる魔力を補えるため一人で強力な魔術の行使ができるということだ。さらには……』
もしかすると犯人はこれを読んで……?
不吉な予感が体にまとわりつく。
一刻も早く神谷達に知らせなければ。
慌ててスマホを取り出そうとポケットに手を突っ込み、スマホを取り出すより早く周囲の異変に気付いた。
「なんだ……?周りの魔力が急に」
不思議な魔力が辺り一面に漂っている。何かが起きたのだと思い身構えつつ、念の為身体強化魔術も発動させる。
じっと構えて待つと、魔力だったものが奇妙な形をかたどっていく。
「これは……厄介な進展だな」
その形は徐々にモンスターのような見た目へと変わっていく。完全にその形を保たず、歪んだ形で襲ってくるのが気持ち悪い。
すると突然スマホが鳴り出す。電話を取ると、
『榊原!一度戻ってこい、まずいことになった』
珍しく慌てる神谷の声が飛んできた。
「神谷、何が起きているんだ」
『おそらくだが、術者が俺たちの存在に気付いたのだろう。このままバラバラでいるのは危険だ』
「分かった、今から戻る」
『そうしてくれ、くれぐれも怪我はするな』
「了解!」
あいつはやはり優しいな……と少し頬が緩む。
「俺らの隊長が怪我をするなって言ったんだ、ここで負けるわけにはいかないな!」
拳に力を込め、前から迫ってきた敵に拳を突き出す。
その拳の先から物凄い速度で衝撃波が放たれ、正面の敵が吹き飛ぶ。さらに、後ろにいた敵をも吹き飛ばす。
出口は……2階からが早いな。
敵も増えていく一方だし、急いで戻らないと。
俺は急いで出口へと向かう。
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