file.02 : 睡眠学院
case1 : 睡眠導入
【――第六学院――】
翌日、俺は事の説明をするために、榊原と一之瀬君の2人と共に、第六学院を訪れていた。
「でかいなあ」
「都内の学院だからな」
榊原が校舎を見上げ、感嘆の声をあげる。
実を言うと、俺と榊原は東京出身ではない。
魔攻学院は都内だけだが、他の県にも魔術師向けの学院はある。ただ、都内の学院ほど大きくは無いのは事実。
俺は数年前からこの近辺に住んでいるため、何度か見たことがある。と言うか、昇降口の前まで入ったこともある。規模感にそれほど驚く事は無い。理由は……そのうち話すとしよう。今はフラグになってはいけない。
ちなみに榊原は初めて訪れたらしい。まあ警察が学校に来る事なんてほとんどありえない、というかあっては困るからな。
「写真では見たことがあったが、実際にこの目で見ると、やっぱり違うよな」
「関心してないでさっさと行くぞ」
俺達は学院へと足を踏み入れる。
昇降口までは来たことがある。そう話したが、実際に校舎内を歩く機会はなかった。
そして今日、初の校舎内に入った訳だが……、初めの印象としては、とにかく廊下が長い。
それが入ってから真っ先に思ったことだ。
外見までは既知であっても、いざ入ってみると予想以上にでかい。これは、在校生である一之瀬君がいなければ迷っていた。
「とりあえず、事務室に行って校長先生との面会を頼まなければいけないので……」
そうして彼女の後について行く。
事務室に行くと、窓ガラスに、"会議中しばらくお待ちください"と張り紙が貼ってある。
「少し待つしかないな」
俺は近くにあったベンチに腰を下ろす。
「そうですね……待ちましょうか」
一之瀬君も隣に座る。
「お前も少しは落ち着いたらどうだ」
榊原は校舎に入ってから落ち着きがない。
「なあ、なんかおかしくないか」
榊原が突然そんなことを言う。
「何がだ?」
「今日は平日だぜ、普通に学校がある日だろ」
「まあそうだな」
「なのに、ここに来てから一度も、誰とも会わなかった。生徒にも先生にも」
「授業中なんだろう」
「いや授業中でも声くらいは聞こえると思うぞ。それに校庭にも誰もいないなんておかしいだろ。体育の授業や魔術の実習とかもあると思うんだ」
「一之瀬君、そういった授業は無いのか」
俺は彼女に尋ねる。
「い、いえ……体育も実習もあります」
「な?やっぱりおかしいだろ?」
「なるほど。一応誰かいないか確認くらいはしておくか」
そう言って立ち上がると、一之瀬君が一つの提案をした。
「職員室に行ってみませんか……」
少し自信がなさそうに、小声で意見を言う。
「職員室には誰かしら先生がいるはずです。それに窓ガラスには会議中と書いてあります。先生たちの会議は基本的に職員室で行っていますので」
「それは一理ある。まずは先生に顔を合わせるのが1番だろう。俺もその意見には賛成だ」
自信のなさそうな彼女の頭をなでてやると榊原には指示を出す。。
「とりあえず全員で職員室に行こう、話はそこからだ」
「おうっ、了解だ」
「一之瀬君、案内を頼む」
俺たちは彼女の後に続き2階へと上がり、長い廊下を2回ほど曲がった突き当りに到着。そのすぐ横が職員室だった。
「ここが職員室です。とりあえず私が入りますね」
彼女は急いで扉をノックすると「失礼します」と言って中に入る。
そして、「えっ……?」と気の抜けた声が聞こえた。
「どうかしたか?」
彼女に尋ねると、
「は、入ってきてください」
と、慌てたように言う。
許可が出たので、俺達も続いて職員室に入る。そして視線の先の光景に、たっぷり3秒は絶句していた事だろう。
「何が起こってんだ?」
「見ればわかる、寝ているのだろう」
俺は何を当たり前のことを、と答える。
「……………………」
そんな一瞬の沈黙を破ったのは、榊原だった。
「いや、そんなのは見りゃ分かるわ!何でみんな寝てんのかって聞いてんだよ!」
――渾身の冗談だったが……まあそういうことだ。
つまり寝ているのだ。
全員、端から端まで、一人残らず。
机に頭を突っ伏して。
「はあ……」
溜息をついてと俺は踵を返す。
「待て待て、おかしいだろうこれは」
「何がおかしい、きっと疲れているんだろう。教師と言うのも案外大変みたいだな」
「疲れているのはお前の方だ神谷、あれを見てもおかしいと思わないか?」
そう言って寝ている教師を必死に起こそうとしている一之瀬君の優しさを突きつける。
「冗談だ、明らかに面倒な気配がして、体が勝手に拒絶反応を起こしただけだ」
「まったく……お前が面倒事に関わりたく無いのは分かっているけどな、とにかく他の先生方も見て回ろう」
俺たちは、5分ほどかけて職員室を全て調べた。もちろん全員に起きてるか声をかけながら。
「ダメだな、起きている者は一人としていなかった」
「これは生徒の方も同じ状態かもしれん。であれば、妙に静かだったことにも説明が付く」
俺は職員室を見渡して、もう一度溜息を吐いた。
ここ数日で、一体どれほどの幸せを逃したのか。
「誰かが眠らせた……と言うことですか?」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「どうして……」
彼女が言うと、
「一応生徒たちの方も見てみようぜ」
榊原が大声で反応する。
「そう……ですね。わ、私もそれがいいか……」
俺は一瞬考えてから再度提案した。
「そうだな。とりあえず別の教室に移動するとしよう」
俺達は廊下に出て、どの教室に行くべきか……と考える。手当り次第に見ていくのもなしでは無いが、こういう時は目的を持って動いた方が効率的だ。
「亮さん、あの……私のクラスに行ってもいいですか?」
「別にいいぞ」
彼女はクラスメイトが心配なのだろう。
「はい。ありがとうございます」
「それで何年何組だ?」
「えっと、3年D組です」
――やはり行きたく無い。嫌な予感は的中したようだ。
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