case03 : 出会い
【――路地裏――】
俺は急いで少女の保護に向かった。黒い人影が魔術を放とうとしている。
紅い術式に、時間に反してやや高めの外気温。
――火属性魔術。
あらゆる属性の魔術が判明している世の中でも、特に殺傷性の高い攻撃魔法が多い属性。
どうやら確実に殺そうとしているようだ。
(このままじゃ間に合わない)
加速術式をかけ、少女の上まで来ると男がちょうど火の球を放つところだった。そのまま飛び降りつつ少女の前に障壁を展開する。
間一髪で障壁が間に合う。
真っ黒な煙を上げ爆発が起きた。かなりの威力のようだ。俺は少女に向かって大丈夫か、と声をかける。少女がこちらを見る。怪我はしていないようだ。戸惑っているのか、何が起きたのか分かっていないようだ。
「あ、あの…」
煙が晴れてきた。
「すまないが先にあっちの対処をさせてくれ。話はそれからだ」
男の方も何が起きたか分かっていないようだ。俺が見えるようになると叫びだす。
「なんだてめえは、どっから出てきた。何をした。ちっ、殺し損ねたじゃねえか」
なにやら混乱しているようだ。
「そんなに一気に質問されても困る。何故この子を狙っているんだ」
「てめえには関係ないことだ。それよりもそいつをよこしな。そうすれば命だけは助けてやる」
はぁ……。犯罪者ってのは何故似たようなことしか言わないんだろうか。渡せと言われて素直に渡すわけないし、そもそも自分たちの方が強いと思っているのだろうか。
相手の技量を測ろうともしない。
「お前はさっき殺し損ねたといったな。殺されると分かっている子どもを、はいどうぞと渡すはずが無いだろう」
「そうかよ。ならさっさと死ねっ!」
そういって魔術を使う。火の球が空中にいくつも現れる。中級魔術レベルだが、こんな狭い路地裏放てば面倒事が増えるだけだ。
「発動が遅すぎる」
地面に手の平を当て、俺は男の足元に魔術を使う。
――
すると、男の足元から鎖が飛び出し体に巻き付いていく。
「な、なんだこれ。くそっ」
「初級魔術“拘束(バインド)”と生成魔術を組み合わせた程度の技だが、お前程度では解くことはできない。暴れられても困る」
鎖で拘束された男に近づき、質問をする。
「何が目的だ。何故こんな場所にいる」
「知るか!逃がしたガキを殺して、連れて来いと言われただけだ。次いでに魔術を適当に発動させろとも言っていたが……んな事お前には関係ねぇだろ!」
「それは誰だ?」
「知らねぇって言っているだろ!知らない奴から連絡があっただけだ。金が貰えるってんで従っていただけだ。さっさとこれを解きやがれ!」
言っていることに嘘は無さそうだ。しかしこれ以上得られる物も無い。
「後は警察の仕事だ。お前はそこで寝ているといい」
――パチンっ。
そう俺が指を鳴らすと男は力が抜けたように地面に倒れる。精神魔術で男を眠らせた。
振り返り、少女に話しかける。
「大丈夫か君、けがはしてないか」
少女は黙って頷くとこちらを見上げてきた。視線が合う。……綺麗な瞳だ。
透き通るような青い瞳。純粋な瞳とはこういうのを言うのだろうなと心の中で呟いてみる。
年齢は中学生くらいだろうか。
しかしこの白い髪、どこかで見た事があるような……。
「君、どうしてこんなところにいたのか説明できるか?」
少女は首を振る。
「では、追われていた理由については、心当たりは?分からないならそれでもかまわんが」
すると少女は少しうつむいた。男よりかは情報がありそうな反応だが、今は無理そうだ。
取り敢えず、ここは精神衛生上あまり優れていない。
落ち着かせるためにも、明るい所まで移動しよう。
そう考え立ち上がった、その時――
「わ、私……」
俺は再度少女に視線を向ける。
「お父さんが……あの知らない人に……私も、生贄にって……」
「生贄?それはどういう意味だ?」
また首を振る。
そして次第に嗚咽が聞こえ始める。……仕方ない。
「――っ!」
俺は少女の頭に手を置く。まずは落ち着いてもらう方がいいだろう。
「君に何があったかは知らん。ただ、怖い想いをしながらも、一人で耐えてきたのは分かる。知らない人に襲われて、俺だって知らない人だ。だがな、俺は君の味方だ、だから安心して泣いていい。大丈夫、誰にも言いはしない。君はまだ子供だろう?今まで我慢してきた分くらいは、大人に任せてくれ」
びっくりしていた瞳から次第に涙が溢れてくる。やはり怖かったのだろう。今は少しそっとしておくのが正しい選択だろうか……。
「……なるほど、大体の経緯は分かった」
あれから少女が落ち着いてきたので話を聞いていた。かいつまんで説明するとこうだ。
少女は榊原から見せてもらった地図の所の25箇所目の丸……ここからそう遠くは無い一軒家に住んでいたらしい。父親と二人暮らしだったそうだ。
しかし3日ほど前に突然ローブを着た男が押しかけ、父親を殺そうとした。
家の2階まで逃げたが、逃げ場をなくしてしまった。
その部屋には子供がやっと通れるほどの窓しかなかった。男たちが隠れている部屋の前まで来たとき、父親はこの少女を窓から落としたのだと言う。
それから少女はここまで一人で逃げてきたが、少女を探していた男に偶然にも見つかってしまったと言うわけだ。
「だが、君を探していた理由はなんだ?別にわざわざ探さなくてもいいはずだが」
少女は少し悩んだあと、思い出したように言う。
「ローブの人……生贄って、言ってた」
「生贄か……」
何の生贄か、大体は予想がつくが……。
それは後でこの男からじっくり聞けばいいだろう。
「あ、あの…もう一人、男の人…いたと思う…」
「ああ、それなら大丈夫だ。あっちにも俺の知り合いが向かったからな。とっくに片付いているだろうさ」
少女は少し不安そうにうなずく。
「まあここにずっといるわけにもいかないし移動しよう。君、立てるか」
少女はうなずいて立ち上がるがよろめいて倒れそうになる。俺は体を支えてやりつつ言う。
「無理はするな、けがをしたら危ないからな」
「仕方ない」と俺は少女を両手で抱き上げる。
思ったよりも軽くて少し驚く。
「わっ」
「すまん、おんぶだと歩きにくいのでな。しばらく我慢してくれ」
少女は少しびっくりしたようだが、次第に安心したように力を抜いた。
俺はそのまま入口へと向かう。
入り口まで戻ってくると榊原が待っていた。
いや、待ち構えていた。
「遅いぞ、何分待ったと思ってんだ。もう少しで様子を見に行くところだったぞ」
「すまんな」
そばには男が倒れている。
やはり余裕で無力化したのだろう。
「この子から事情を聞いていた。こいつらはただの雇われだった。が、例の事件に関わっている事は間違いなさそうだ」
「襲われていた子か」
そういって顔を近づけてくる。少女はびっくりしたのか、俺にしがみついて震えている。
「馬鹿者、急に近寄るんじゃない。おびえてしまったではないか」
「す、すまん」
榊原はそこまでいかつい顔をしているわけではないが、やはり知らない人は怖いのだろう。俺は少女に説明する。
「大丈夫、こいつは俺の友人だ。怖い人ではない」
(まぁ脳筋お化けではあるが)
「神谷、お前今失礼な事考えなかったか?」
少女はゆっくりと俺の顔を見て、それから榊原を見た。そしてもう一度俺の顔を見る。分ってくれたようだ。
「とりあえず事務所に戻るとしよう、犯人も捕まえたわけだしな」
「ああ、だが、こいつらはどうする?」
「警察に任せる。もう呼んであるのだろう、本部に報告はしたのか?」
「大丈夫、もう済ませてある。直に来るだろうよ」
「そうか、なら来るまではここで待機だな」
それからしばらくして警察が到着した。
ここまでしっかりと被害がでて、事件性も高まれば後は警察の仕事だ。俺は榊原と事務所へ戻る。
何故かこの少女は俺から離れたくないらしく抱き着いたまま離れなくて、困った警察が任せたと押し付けてきた……ので、少女も一緒だが。
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