第七話「ゲーム実況のための動画編集(勉強会)」8/2(2)
結局家の近くのドラッグストアには寄って、飲み物とローションの類を数点購入して帰宅した。
平日の自室は掃除なんてものと無縁なのだが、そもそもこの部屋で生活している時間が少ないため、生活感のなさも相まって綺麗な方だと思う。ジャケットをハンガーにかけていつものようにローテーブルに寄り掛かった一希は、早速購入した飲み物――散々飲んだというのにまたアルコールだ――の蓋を開けている。
「風呂沸かす? シャワーだけの方がええ?」
「アホ。シャワーだけやと冷えるやろが。一緒に入んぞ」
「……マジ?」
優利以上に強面で正直、他人とべったりしているイメージが未だに湧かない――ベッドの上では途端に甘やかしてくれるのだが、風呂は今まではたまたま別々のタイミングだった――男のその言葉に、随分と返事を絞り出すのに時間が掛かった。
「今夜は俺のモンなんやろ? 拓真のことは彼氏って言うのに、俺のことは言ってくれへんやん?」
隣に腰掛けた優利の肩を抱き寄せ、深いキスを交わしてから、「言葉遊びもしてくれへんのは、もしかして……俺が本命やから?」と揶揄ってくる一希にお返しのキスをもう一度。
そのまま彼に押し倒されるままに床に転がり、仕事帰りで汚れたままの肌を晒される。感情が出ない表情に代わり、熱い指先が彼の興奮を肌越しに伝えてくる。
「……っ……汚い、って」
「そんなん言うても、風呂沸くまで待てんわ。なー、ほんまにココ……挿れてもうてええん?」
組み敷かれて見下される。その瞳にゾクゾクと腰が疼き、それを見抜かれたように下着越しの尻に指先が這う。いつの間にか脱がされたスラックスが足元で丸まって、舌を絡ませながらシャツのボタンが外されていく。一希の服装には一切の乱れがないことが、精神的な余裕の表れのように思えて、そのことがまるで自分よりも上の存在に犯されているように連想してしまい、優利はそんな自分に更に興奮してくる。
――歳下のくせに、こいつほんまにヤバい。カズに……カズの……
こんな時にまであの最低な名付けが頭を過り――いや、常に頭を犯されていた。『苗床』という自身の新しい呼び名には。
こんなこと、考えるのは二人に対してだけだ。拓真と一希相手にしか、ネコなんてやりたくない。犯されたいなんて、思わない。
「う、ん……」
「……優利?」
自分でも気づかぬうちに、優利は一希の背に回していた手で彼のシャツを強く握り締めていた。無意識に込められた力の意味を、一希は名を呼ぶことで優利の口からちゃんと聞き出そうとしてくれる。
「カズに……俺の『汚いとこ』見せたるわ」
「……珍しー」
目の前で歪められた口元に、最上の色気を感じた自分は、きっと彼の苗床になれる素質があるに違いない。
逞しい彼の腕に抱かれて、優利は集中できない頭でゲーム画面に目を落とす。
ベッドに座った一希の上に腰掛ける形――背面座位という言葉が浮かんで、自分でも自覚できる程の甘い声が漏れる――で座り、彼に弄られるままに任せて、自身は動画投稿のためのゲーム端末を操作する。
「カズ……そこっ……」
欲望の受け皿を指先で攻められて、更に同時に前も扱かれる。画面上では被害者チックなあの名前のキャラが、無事モンスターを討伐している。新規に始めたデータなので、こんな舐めプをしたって問題なく討伐は可能だった。実際に今、“舐められていたら”もしかしたら手元が狂っていたかもしれないが。
自身から溢れる先走りのせいで、卑猥な水音が小さく響く。そんな“雑音”すらも、購入したマイクは全て拾っていて。
ゲーム機に繋いだコードによって、このプレイ動画はパソコン内に保存されている。それはもちろんマイクが拾った音声もそうで、優利の甘い喘ぎも、“恋人”の愛撫を求める切ない声も、愛を嘯く彼の声も、全て、全て拾っている。
「っ、でる……っ」
優利よりも一回り大きな手に包まれて、その刺激<幸せ>に応えるように欲望を吐き出す。べっとりと汚れた手をわざと見せつけるようにして、彼は優利の耳元で笑う。
「俺以外でイけん身体にしたい」
「ア、ホ……」
力の入らない腰を引き摺るようにして、パソコン上の録画を終了する。マイクの電源もしっかり切ってから、動画ファイルを保存した。これで編集の練習を行うことができる。
「これ、マジで弟に見せるんか?」
既にこれがタチの悪い悪戯であることを伝えている一希が、微妙な顔をして再度確認してくる。彼はこの動画を撮る直前にも、二度程確認を行っている。
優利はテーブルの上の買って来ていたミネラルウォーターを一口飲んで、頭も気分もスッキリさせてからその問いに答える。
「べつに音声だけやからハメ撮りでもないし、ええやろ。いくら口で『同性愛に偏見なんかないで』って言ってもさ、やっぱ弟なりに不安とかあるんかなーってずっと思ってたし。俺は確かにバイってわけではないけど、男相手でも欲情できるんやでーって」
「……ほんまにええんやな?」
「……何、言わせたいん?」
膝の上に戻ってそう上目遣いに問い掛ける。こういった仕草は拓真の得意技だが、一希相手には優利もついやってしまう。歳下の彼に、ついつい甘えてしまう。
汚れた手をティッシュで拭いていた一希は、優利を抱き止めながら額にキスを落としてくれた。
――マジ、男前。
「……ちゃんと本気の恋愛感情ではないって、フォローしとけよ。『未来がない』もん同士、優利には俺とも、弟とも、“エエ関係”を続けて欲しいって思ってる」
「カズってさ、たまにめっちゃエエっぽいこと言いながらクズムーブするよな」
「それはお前らもやろが。俺は実の弟に対して欲情なんてせん」
「……やっぱ、バレた?」
「そりゃ、好きな相手のことくらいはわかる」
「うっわ、マジでクズ発言」
――そんなところも、俺は好きやけどなー。
ニヤニヤしていることが気付かれたのか、彼はぎゅっと強く優利を抱き直し「元気やな。もう一発抜くか?」と笑ってくれた。
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