第4話 夏休みの過ごし方

あれから数日は仕事もせず

体を休めてくれた瀬木さんは

一週間も過ぎる頃には

顔色も戻り元気になっている



ガチャ



『‥‥おはよ』



今日も普段通りに仕事部屋から

出てきた瀬木さんだったけれど、

体調を崩してから

一つだけ変わったことがある




朝七時を過ぎた頃に

毎日リビングへ顔を出し、

私と一緒に朝食を

食べるようになったことだ



特にこれといって

何か話すわけじゃないけど、

作ったものは残さず食べてくれるし、

私が家を出て行くまで

リビングで過ごすようになっていた



「あの‥‥瀬木さん少しいいですか?」



大学に行く前に声をかければ

読んでいた新聞を下げて

こちらにキレイな顔を覗かせる



「私、明日から…その夏休みなんです」



新聞をテーブルに置いた彼は

私の方に真っ直ぐ視線をうつす




「あの‥アルバイト先がここだと

 勿論‥その、ずっと家に居るわけですし、

 何か別で手伝えることがあれば

 もっと言って欲しいな……と」



バイトに行くのが当たり前だった

去年の夏休み。



ほぼ毎日バイトで、

夏休みの終わりがけに

レポートに倒れたのも事実



瀬木さんが倒れたこともあったし、

何となく一人にするのが心配だから

ここで出来ることがあれば安心できる



『ん‥‥それなら

 やってもらいたいことがあるかな。

 ……とりあえず大学行っておいで』



「はい、ありがとうございます!」




何をするかはよく分からなかったけど

仕事をくれるってことだよね、きっと。



もうすぐこんな素敵なお家に来て

早いもので一月が経つ



スタートは

めちゃくちゃだったけど、

前よりもかなり身体はラクだし

時間にも余裕ができている。




実際

家賃も水道光熱費もいらないし、

生活費は瀬木さんがくれたものが

じゅうぶんあるから

全然今も余ってるわけで、

バイト代がなくてもそんなに困ってない



「行ってきます」



『ん、気を付けて』



家から出れば

まだ朝早いのに照り付ける日射しに

背中が暑い‥‥

まさに家の中は天国だ。



勘違いではないと思うけど

倒れてから瀬木さんが

すごく優しくなってると思う



涼しい顔立ちは変わらないけれど、

なんとなく一言ひとことが優しいし、

雰囲気が昔のように柔らかい



私も気持ちを落ち着かせて

仕事として瀬木さんには

向き合えてると思っている



『日和おはよう!』



「彩おはよう。

 今日で休み前の最後の講義だね」



『うん、夏休み遊ぼうね』



「うん!……あ、でも」




そう言えば‥‥

安藤くんと出掛けようなんて

約束しておいて、

瀬木さんが倒れたことがあったから

すっかり忘れてた




『どうかした?』



「うん……

 安藤くんと出掛ける

 約束してたなぁって」



『ええっ!!!?』



「ちょっと……声大きいってば」



只でさえお兄ちゃんの講義なのに、

また呼ばれたらたまったもんじゃない



声を出せば見つかると

お互い分かってたので、

ノートに言いたいことを書いていく



"いつの間にそんな関係になってたのよ、

もう付き合ってたりして?"



"そんなんじゃないし!

ただ出掛けようって言われただけ"



"あのねぇ、

安藤くん只でさえモテるのに

彼女作らない上で日和を誘うって、

ただのお出掛けじゃないに

きまってるでしょ?"



そうなの?



安藤くんは確かにモテると思うけど、

そういう風に見たことないもん



私の心の中は未だに先輩で一杯な訳で、

安藤君は特別意識してないから

大切な友達の一人だ



『おい、お前ら、

 最終日に、んなことやってるとは

 いい度胸だな』



ヒッ!!!!



目の前から

ドス黒いオーラを纏って見下ろす兄に

書いていたノートを奪われる



「ちょっと……か、返してください!」



『はっ!?罰として没収。

 二人とも後で俺の部屋まで来い』



「『やられた…………』」




何もノートを取ることないじゃん!

それよりも絶対あれ見られる!!




「ちょっと彩、

 …何で嬉しそうな顔してるの?」



『ん?‥‥だって私先生の事好きだから』



ガタッ!!!!



『おい、立花!!』



………夏休み最後の日、

友人が放った一言に気を失うかと思った



大学の夏休みはとにかく

二か月の長ーい休みなのだけれど、

各授業で出される課題をこなすのは

本当に簡単じゃない



去年もだいぶ苦しんで作成したけど、

学年が上がって専攻科目も増やしたから、

今年は早めにやるつもり



安藤君には今日会えなかったから

また時間みて電話しようかな‥‥





「それより彩、さっきの本気!?」



『なんで?当たり前じゃない。

 文芸なんて難しいのを学ぶのは

 立花助教授に会うためだもん』



「あのさ‥…

 あの人あたしの兄だよ?」



『知ってるよ』



「本気?」



『当然』



「…………」



隠すこともなく笑顔でそう答える彩に

もう何も言えなくなった






コンコン



「失礼します」



ちょうど部屋から出てきた

教授にお辞儀をしてから

二人で部屋に入った




「あのノートを……返して欲しいなと」



『ノートねぇ‥‥なぁ、誰?安藤って』



ドクン



‥やっぱり見られた!!

というかこの人が妹のノートを

見ないわけがない!



「ダレデス……かね」



視線を斜め方向に思いっきり反らす。

お兄ちゃんは公私混同しすぎなのよ!

本当昔からシスコン‥‥



『先生、安藤くんは

 日和の事が好きな子です!!』



「彩!!」



お兄ちゃんの事

好きなのは分かったけど、

何でもかんでも話すのは

勘弁して欲しい

どっちの味方よ‥‥‥



『ふーん、好きな子ねぇ。』



「ち、違うから、ほんと」



『ふーん、ま、いいさ。

 ところでさ、日和、

 尾田から話聞いた?』



話?


……もう煙草を

目の前で吸うのやめてよね



窓が空いてても

こういうとこは

瀬木さんと大違いだ



白い紫煙を吐き出した兄から

強引にノートを奪ってやった



『夏休みアイツが

 軽井沢の別荘に行くから

 一緒に来ないか誘われたんだけど』



えっ!!?



そんな話は聞いてもないし、

その前に別荘!?



‥‥先輩あの若さで

そんなものまで持ってるの!?



寝る時間も削って働いてた私とは

本当に別世界の人過ぎる



そう言えば‥‥‥‥

帰ったら話あるって言ってたから

この事だったのかな。



『もし日和も行くのなら、

 課題作りの環境もかなり整ってるし

 二人で行けば?』



『えっ!?私も行っていいんですか?』



ちょっと……お兄ちゃん

当の本人がいないのに

話進めちゃっていいわけ!?




「彩!帰ったら連絡するから」



『オッケー』



お兄ちゃんが行くなら、

彩はバイト蹴っても

何がなんでも着いてくるだろうな



ガチャガチャン



マンションに着いてから玄関を開ければ、

涼しい空気にホッとする私の視界に

二つ並ぶ靴があり

急いでリビングへ向かった



ガチャ



『こんにちは、授業もう終わった?』


『日和ちゃん久しぶり』



やっぱり!

高城さんと和木さんだ



「あ、瀬木さんただいま。

 和木さん、高城さん、こんにちは。

 今日で一期の最後だったんです。」




『立花おかえり。

 飲み物持ってこっちおいで』



「はい‥」




手を洗ってから

冷蔵庫から冷たいアイスティーを

氷と一緒にグラスに注ぎ、

瀬木さんの隣に腰掛けた



あれ……

てっきりお仕事かと思ったけど

原稿とか見てないし、

今日は仕事じゃないのかな




『立花、明後日から

 二週間くらい予定空けて欲しいんだけど

 出来るか?』



に、二週間!!?



思わず飲みかけていたアイスティを

詰まらせそうになる




『瀬木先生、毎年都内は暑いからって

 長野の別荘に行って執筆するのよ。

 私と和木君も仕事あるから

 流石に二週は無理だけど

 最終日近くに休み取って行くのよ』




暑いからってだけで

別荘に行けるこの人って……

本当に次元が違う



「あの、兄が今日そんなようなこと

 言ってたんですけどこの事ですか?」




相変わらず深く腰掛けている瀬木さんは

少しだけ優しい表情をして口角を上げて頷く



『ん、そういうこと。』




去年はバイト三昧で

夏休みなんて

何処かに出掛けた事なかったかも



「あの‥‥

 友達呼んでもいいですか?」



お兄ちゃんのせいで

彩は来る気満々だし

どうしよう…



『部屋はあるからいいよ。

 その代わり向こうに行ったら

 仕事手伝うこと。』



ドクン



キレイな指が私の頭を優しく

くしゃりと撫でる



子供扱いしたような

たったそれだけのことなのに

顔が熱くなる私



それなのに表情すら変えず

落ち着いたままの瀬木さんは

マグカップ片手に立ち上がり

仕事部屋に行ってしまう



ガチャ



『瀬木先生……だよね、あれ。』



『そう‥だな。あんな隼人初めて見た』



『『ねぇ?ひ、よ、り、ちゃん』』



「…………」



二人がどんな先輩を知ってるのかは

分からないけど、

私は一緒に過ごせた五年前の数ヶ月と

今の瀬木 遥の顔をした

先輩しか知らない




「あ、あの!高城さんたちは

 そんなに休んでお仕事大丈夫なんですか?」



別荘に行くからと言っていたけど、

出版社って忙しいイメージなんだけど。



『勿論仕事で行くことになってるから

 有給でもなく出張よ。』



えっ?



『そうそう、

 人気が伸びて来た

 瀬木の原稿貰うためなら

 北海道でも行くさ』




北海道!?



瀬木さんって

やっぱりすごい人だ。

もっと早くに瀬木さんの本

読みたかったな‥‥



あの若さで誰もが作家になれる

わけじゃない。

別世界で生きてるって

どんな感じなんだろう。


瀬木さんの世界がまだ分からない‥‥


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暑いのに夕食にカレーを作ったのは、

高城さんたちが食べたいと

リクエストをくれたから



『仕事終わったなら帰れ!

会社空けすぎてクビになるぞ?』



いつもは二人で食べる

広いダイニングテーブルが

四人も集まれば相当賑やかになる。



二人だと静かにテレビから流れる

ニュースや洋画見ながら食べてるから

パーティくらいに感じてしまう



『日和ちゃん美味しい!

 毎日食べてる隼人が羨ましい‥』



「そんな……ありがとうございます。

 お世辞でも嬉しいです」



和木さんがおかわりされるので

二杯目をお皿に盛り付けて渡す



カレーなんて煮込めば

誰でも必ず出来るから

手抜き料理に入るんだけど、

カレー粉様様です。



『ほんとだよ?

 それじゃあ今度うちにも作りに来る?』



『食ったらとっとと帰れ!万年営業が』



『瀬木さん!!」



全くほんとこの二人は

年が離れてるのに

よくこれだけ言い合える。



和木さんも暴言吐かれても

ヘラヘラしてるし

高城さんなんて慣れてるのか

間にも入らない。




『それじゃ、先生、

 また長野でお会いしましょう。

 日和ちゃんまたね。』




二人を見送った後

リビングに座り

珍しくテレビを見ていた瀬木さんに

淹れたてのコーヒーをそっと置いた




『疲れただろ、大丈夫か?』



トクン



やっぱり雰囲気が柔らかい……

まるで昔の先輩のように



「楽しかったです。

 ……あの、夏休みに

 歴史の課題があるんですけど、

 後で本棚見せてもらってもいいですか?」



大学の図書室で借りてくればいいのに、

歴史関係は貸し出しが難しくて

持ち帰ることが出来ないものが多い



『歴史?』



「はい……何かおすすめありますか?」



『別荘にここより本が沢山あるから

 向こうで課題をやればいい。』



沢山あるんだ……

どうしよう‥

すごく楽しみかもしれない。

こんなにも長く旅行に行くのは初めてだし

本が沢山読めるなんて‥‥




『フッ……初めて笑ったな』



「えっ?……そ、そうですか?

 仕事のお手伝いで行くのに

 本が読めるのが楽しみで、つい。

 向こうで何でもしますから

 言ってくださいね。

 私、お風呂沸かしてきます」



浴槽にお湯を張りながら、

顔の筋肉が緩んでいくのを止められない



先輩と一緒にいられる。

それでじゅうぶんだと思う。

ここに来なければ

もう会うことの出来なかった

人だと思うから‥



部屋に戻り、

彩にメールをすると

すぐに行けると返信があった




コンコン



「はい」



カチャ



『あのさ、これ少ないけど給料』



「えっ!?ダメですよ。

 何だかんだで家賃も払わずで

 生活費も瀬木さんから貰ってるし、

 大したことしてないのに貰えません」




『俺が雇い主。

 立花はよくやってくれてるから貰って?

 それで明日旅行用に何か買っておいで。』



ドクン



去り際に見せた笑顔に

胸がどうしようもなく熱くなる



よくやってくれてるから……なんて

今の言葉だけで泣きそうだ。



封筒の中を開ければ

入っていた諭吉の枚数に驚き

眩暈がする



瀬木さん、

全然少なくないし‥‥



家政婦と

アシスタントだけしかしてないのに、

バイト数個は

かけもちしたくらいのお給料。



割りがいいとはいえ嬉しいけど、

やっぱり申し訳ない気持ちになってしまう



もう返すわけにもいかないし、

言ったとしても瀬木さんは

絶対受け取らないって分かる。



だからこれからも頑張ろう

私にはそれしか出来ないから。



明後日から旅行か‥‥



二週間どうなるか分からないけど、

少しでも先輩といられる時間があるなら

私なりに向き合おう、そう思った。




出発当日



大学でお兄ちゃんと彩と

待ち合わせということで、

私は準備を終わらせてから

キッチンでバタバタしていた



『掃除なんていいよ』



「駄目です。二週間も空けるなら

 綺麗にしてゴミとか

 残しておきたくないですから」



瀬木さんはこの季節にも関わらず

新聞片手に優雅に

熱いコーヒーを飲んでいる



洗濯は乾燥し終えて畳んだし

シーツも変えたし

後は大丈夫だよね?



火の元だけチェックし終えた私は

ようやくリビングで待つ彼の前に立った



『終わった?……荷物貸して』



「持てますので大丈夫‥‥あっ」



『はい、言うこと聞く。

 車回して来るから

 戸締りしてから

 マンションの前で待ってて。』



二週間分ともなると

荷物はどうしても少なくならず、

大きめのバケージを

瀬木さんに借りた私



瀬木さんも

同じくらい大きな荷物があるけど、

きっと私と違って

仕事道具なはず‥



最後にもう一度二階に行き

戸締まり確認をしっかりとした私は、

言われた通りエントランスを出て

外で待っていた



ん?


ちょっと待って……



車ってことは

先輩が運転するんだよね



うわ…‥‥‥…

どうしよう‥‥

考えたら変に緊張してきた



そんなことを考えていたら、

私の前に黒い一台の車が停まる



「(‥‥わぁ‥カッコ良すぎる‥)」




何もしなくても容姿が綺麗で

カッコいいのに、

更にサングラスをかけて

車に乗っている姿に

素敵すぎて俯いてしまう




ガチャ



大きめの黒い車の窓が開くと、

奥に座った瀬木さんが

中からドアを開けてくれた



五年前からは想像出来ない

大人びた姿に

見惚れそうだ



『立花、車高が高いから手かして』



「えっ?大丈夫ですよ‥‥あっ」



断ったのに、

差し出された手が私の手を強引に掴むと

力強くそのまま引き上げられた



嬉しいけど

顔が絶対赤い私は

そのままお礼も言えず

また俯いてしまった



『クス‥‥それじゃ櫂さん達の所に行こうか』



あまりの緊張で声が上手く出せない私は

大きく何度か頷くと

ゆっくりと車は発車した



『立花はこのまま乗ってて。

 櫂さんに挨拶してくるから』



大学に着いたら、

シートベルトを外した瀬木さんは

車から降りるとお兄ちゃんに頭を下げて

何か話してた



あれ……彩は?……って



「えっ!?」



隣の車の助手席から

ひょっこり顔を出す彼女に思わず口が開いた



何いつの間に

そんなところに乗ってるのよ!



ガチャ



『お待たせ。それじゃあ長野まで頼むな。』



「えっ!?……車二台で行くんですか!?」



『櫂さんも立花の友達も

 数日しかいられないし、

 帰り困るだろ?』



それはそうだけど‥‥


てっきり私の頭の中では

一台に四人乗りこんで

わいわい仲良く行く

プランがたってたから、



まさかの瀬木さんと二人なんて‥‥




長野まで約三時間。

この狭い空間に二人きり



心臓持つかな……



それでも無情に車は発車し、

控え目に彩に手を振る



静かな車内



緊張がバレないように

窓の外の景色を眺めたり

そわそわと落ち着きのない私




先輩と初めて会った時も

なんてカッコいいんだろうって思ったけど、

大人びた姿は更に増して見える



この五年で私はあの頃よりは

逞しく生きていることが

大きく変われたことだけど、

先輩はどうだったのだろう‥‥



「あの‥‥‥‥

 瀬木さんはいつから

 本を書き始めたんですか?」



ずっと聞いてみたかった



あの時の先輩は高校三年生で

進路とかいつ決めてたんだろう‥‥



『‥ん‥知りたい?』



「はい……」



先輩のことならどんなことでも知りたい。



あのままあの場所にいれたなら、

卒業していく先輩と同じ場所で

ずっと過ごせたのに

それが出来なかったから





『五年前』



えっ?



思わず隣を見れば

サングラス越しに目が合ってしまう



「こ、高校生って…ことですよね。

 …スゴいですね。」



『クス‥‥始めた動機は不純だけど。』




てっきり卒業してからだと

思っていたのに、

私と出会ってた頃には

本を書くって決めてたってこと?



そんな素敵な夢を

持っていた人の近くで、

よく同じ本なんか

生意気に読んでたなと思うと

恥ずかしさが増していく




「‥‥‥‥瀬木さん」



『なに?』





「‥あの‥‥瀬木さんは

 恋人とかいないんですか?」




調子に乗ってハッとした頃には遅く

質問してから口元を手で覆った



アルバイトの分際で

雇い主に突然何を聞いてくるんだって

思われてるかもしれない



でも……

高校の時のあの人と

まだ付き合ってるかもしれない



アルバイトとして

住ませていただいてるなら

もし鉢合わせた時に

相手が知らないのは嫌だと思う




『いるっていったら?』



ドクン



低くて耳に残る声が真っ直ぐ届く。

知りたいのに知りたくない‥‥

そんな気持ちが入り混じる



こんなにカッコいいんだもん‥‥

恋人ぐらいいてもおかしくないよ



あの時だって……

本当にお似合いの二人だったし。




「ふ、普通いますよね‥‥

 すみません変なこと聞いて。

 忘れてください。」



自分でも馬鹿だと思う。



泣かない……

この恋に関しては

あの時しっかりとここに

閉まったじゃない




『嘘だよ‥いないから。』



彼の手が伸びてきて

私の頭を優しく

くしゃりとまた撫でる



泣かないようにしてるのに、

この手が私の満杯のコップを

揺らすように掻き乱していく




サービスエリアに立ち寄り

休憩をしながらも、

思ったよりも早めに軽井沢に入ると、

一気に幻想的な雰囲気に

変わっていくことに

ドキドキし始めた。



素敵な場所‥‥‥‥



いつもはアスファルトや

ビルばかりの環境なのに

少し離れただけで

こんな自然が豊かな

場所があったんだ……



北海道もある意味自然は多かったけど、

私がいた函館は賑わっていたから

都心に近い雰囲気だった。



道路の両脇が木々で生茂り

まるで緑のトンネルを

駆け抜けているようだ。



どんどん進んでいくと

今度は視界にうつりはじめた

沢山の白い木々たちの世界になり



それは、本でしか見たことがなかったけれど

景色に映えてとても美しい



「(‥‥たしか……白樺の木のはず)」



そしてまたどんどんその白樺の中を

進んで行けば、

素敵な木目が美しい家の前で停車された



「ここですか?」



『ん‥‥

 荷物おろすから気をつけて降りて』



うわぁ……



あのマンションも

私には一生住めない物件だけど、

ここも凄い素敵な家だ



木目が美しいウッド調の二階建ての家は

想像していたよりも大きくて

森の中の別荘という名に

相応しい佇まいだ



『日和、元気だったか?』



もう一台から降りたお兄ちゃんと彩が

荷物を持ってこちらに来た



「元気って……

 この間会ったばっかりだし。」



『まぁ、そう言うなって。

 いい場所だな。

 涼しくて仕事が捗りそうだ』



『櫂さんたちこっちです。』



いつの間にか

私の荷物を運んでいた瀬木さんに

慌てて駆け寄ると

お礼を言って中に入った



『部屋は二階の好きな部屋使ってください。

 立花たちは一番奥がツインになってるから

 二人で使って』



『「はい、ありがとうございます」』



『凄い!!ホテルみたい』


「ほんとだね」



ツインルームには、

窓際に長い一枚板で出来た机と椅子が二脚と

広めのふかふかのベッドがある



部屋にはトイレとシャワーも付いていて

一階には檜風呂もあるらしい



『ねぇ、日和。瀬木さんって

 ものすごいカッコいいじゃない!

 一緒に住めるなんてあんた

 羨ましすぎるよ……

 ほんとにあんた達何もないわけ?』



「瀬木さんは私の雇い主だもん」



私たちに恋愛なんてものは全くない。

そもそも五年前だって

私の片想いだったし‥‥



荷物整理を終えた私は、

先に下へ降りれば

瀬木さんが誰かと話していたので

そちらへ向かった




『あら、こんにちは』



見知らぬ女性が私に気付いたのか

笑顔を向けてくれたので

慌てて頭を下げた



お母さんと同じくらいの年齢かな‥

穏やかな雰囲気で、優しそうだ。




『立花、ここの管理とお世話を

 任せてる仲さん。』



「あ、初めまして、立花 日和です。

 お世話になります」



人柄の良さそうな仲さんは、

私達がここにいる間、

食事や買い出し

掃除や洗濯、シーツの交換、

などを手伝ってくれるらしい



てっきり

ここでも自分達だけで

やると思っていたから

慣れている人がいて

嬉しくなる



「‥わぁ‥‥素敵」



開放的な窓に面したリビングは

暖炉も設置されている

素敵な空間だった



別荘になんて来たことないけれど、

こんな静かで落ち着いた空間なら

瀬木さんが仕事したいって思うのも

納得できる



『三日間は友達と過ごしていいよ。』



「えっ、でも……」



『時間はまだあるし、

 友達と過ごせばいいよ。

 俺も仕事を少し片付けたいから』



「はい、分かりました、

 お言葉に甘えてそうします、

 ありがとうございます。」



瀬木さんに頭を下げて、

早速彩のもとへと向かった

  


お兄ちゃんは、

旅行がてら論文など

色々纏めたい事があると

部屋に隠っていた



「彩、お兄ちゃんのとこ行かないの?」



『んー、やめとく。』



「えっ?……彩らしくないね、

 どうかした?」



只今並んで文芸の

レポートを作成中だ。



二階の窓からは、一面森の景色が見えて

気持ちが落ち着く。

お兄ちゃんがここに来たいっていうのも

納得だ。



着いてからはまず

別荘の近くを彩と散歩した。



お互いこんな自然に囲まれるのは

人生で初めてだったから

空気の綺麗さ一つにも感動してしまう



同じ夏なのに、

暑いけど涼しさも感じられ、

ここでしか味わえない雰囲気を

楽しんだ。




そして今

パソコンでお互いデータを

集めながらレポートに奮闘するものの、

お題の難しさに手こずっていた私たち



『私ね、櫂さんの事好きだけど、

 困らせたくはないの。

 だからここにいられるだけでも

 いい思い出出来てるし楽しいから。』



彩……

私とは違った大人の片思いに

自分がしていた片思いが子供過ぎて

情けなくなった



『それより

 瀬木さんって作家なんでしょ?』



「うん、

 ここにも執筆中の本を

 仕上げるために来てるから」



『はぁ……櫂さんといい瀬木さんといい

 文学に携わる人ってどうしてあんなに

 素敵なんだろ。

 櫂さん恋人いるのかなぁ』




瀬木さんは恋人がいたと思うから

恋愛はしたことあると思うけど、

お兄ちゃんは分かんないなぁ‥

兄弟で恋の話って

なかなかしないもん



私のことを大事にしてくれてるのは

痛いほど伝わるけど、

お兄ちゃんのプライベートって

よく考えたら謎だ



『やっと終わったーー!!』




それから夕方まで缶詰状態で、

レポートをなんとか

纏める事が出来た私達は

残りの夏休みに猶予が出来た喜びで

いっぱいだった



せっかくこんなにも

自然が近くにあるのに

家の中ばかりでは息が詰まる




疲れて眠ってしまった彩を残して

もう一度散歩をしに外へ行こうとすれば、

お料理のいい香りが鼻を掠めた



「あの‥‥何かお手伝いさせてください」



日頃の癖ですっかり家事が

身に付き始めた私は、

カウンターにいた仲さんに聞いてみた



『そんな、お客様ですから』



「あ、私そんなんじゃないんです。

 瀬木さんの家で雇ってもらってる

 アルバイトなんです。」



胸の前で両手を振り

全力で否定する


アシスタントとして

来てるってことは

バイトとしてだし

やれることはやりたい



『そうなのね。

 うーん、それじゃあ

 今日は

 話し相手になってくれないかしら』



「えっ!?

 ‥‥…そんなことで良ければ

 喜んでさせてください。」



『美味しいカフェオレ付けるから』



「私甘いの大好きです。

 ありがとうございます。」



まるでお母さんのように笑う

仲さんに甘えて

カウンターに腰掛けた



飲んだことないくらい

美味しいカフェオレを

淹れてもらった私は、

作り方を帰るまでに

覚えたいと思えた。



『立花さんはまだ大学生なの?』



「はい、まだニ年生です」



『そう、隼人くんの二つ下なのね。

 あの子が大学生の時から

 ここで本を書き始めたの。

 今となっては作家になってるなんて

 驚きよね。』



そんなに早くからここで?



確か高校生の時に書き始めたって…



『今回こんなに大勢で

 いらっしゃるのは初めてですよ。

 毎年、隼人君と出版社方だけなので

 賑やかで嬉しいですよ。』


ガチャ



『仲さんコーヒー淹れて』



ドクン



隣の椅子に腰掛けた瀬木さんは

すでに疲れてるのかとても眠そう



仲さんに先輩のこと

聞けそうだったのにな……



『何飲んでるの?』



「あ、仲さん特製のカフェオレです」




笑顔でカップを持ち上げて見せれば

瀬木さんも小さく笑ってくれた。



眼鏡をかけてるってことは

まだ仕事の途中かな……



本を書きに来てるから

当たり前なんだけど、

前みたいに倒れないか心配だ




『熱いから気をつけてね。』



『ん、ありがと。』



瀬木さんってコーヒー好きだなぁ

しかもいつもブラック。



私は苦いのは飲めないから

こういうのがサラリと飲める人が

羨ましいしカッコイイと

思ってしまう



「瀬木さん、そういえば

 私はここで何をすればいいんですか?」



今までは、

書籍に必要な資料や写真を集めては

渡すことが多かった



やってほしいことって

何か気になっていたし、

レポートも一つクリアしたから

余裕があるうちに

聞いておきたいのだ。




『実は、今回は

 立花に一ページ任せようかなと

 思ってる』



「えっ?……ええっ!?」



『採用するかどうかは別として、

 そんなに難しくはないし、

 高城たちに評価してもらう

 いいチャンスだと思う』



そりゃ、

文学部メインの専攻だし

現場の和木さんや高城さんに

見てもらえるのは

すごく勉強になるけど




「‥瀬木さんの本にですよね?」



『ん、そう。』



「私で‥いいんですか……?」




今度出版予定の

そんな大仕事に携わっていいの?




『‥‥立花がいいんだよ』



「えっ?」




『仲さんありがとう、夕食楽しみにしてる』



「えっ?‥瀬木さん!」



またいつものパターンだ



前よりは話してくれるようになったけど、

やっぱり考えが掴めないまま

フェードアウトされてしまう



一ページってすごいことだし

プレッシャーが凄過ぎるけど

学べるいいチャンスだと

言ってくれたから

やってみたい‥‥



『ふふ‥‥隼人くんが

 ここで座って飲むなんて珍しいのよ?

 いいものが見れたわ。』



悩む私を他所に

なんだか笑顔の仲さんに

カフェオレを飲んでから

お礼を言った



その日の夕食は魚メインの洋食で、

焼きたてのパンやスープも絶品で

私には絶対作れない味に

彩と二人ではしゃいだ



驚いたのは

瀬木さんが夜は

お酒飲んだことだ



家では飲んでるのを見たことなかったから

てっきり飲まないのかと思ってたけど、

お兄ちゃんと同じペースで飲んでる。



仕事中なのに

飲み過ぎないか心配‥‥‥




『尾田、日和はちゃんと働いてるか?』



少しだけニヤリと笑う兄に、

向かい側から睨んでやる

もう絶対酔ってるし‥‥‥。



ファイヤーピットに照らされた

瀬木さんの答えが気になる私は

そっと視線を隣へとうつす



『助かってます。

 立花は本当に‥‥

 よくやってくれてます。』




そんなこと言ってもらえると思わなくて、

さっきまで食欲がすごくあったのに

恥ずかしさで食べ物が

喉を通らなくなってしまう



『はっ、良かったな。

 おう!感謝しろ』



『櫂さんには感謝してます。

 立花に会わせてくれたので。』



ドクン



何でそんなことを言うのだろう‥‥

お酒のせい?

瀬木さん酔ってる?



『だな。

 ほら、飲め。』



「お、お兄ちゃん飲みすぎ!」



『櫂さん、私も飲みたい!』



「彩!!」




軽井沢に来てからの素敵な夜、

瀬木さんの表情がどこか

優しく感じた。


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次の日


彩とまた涼しいお庭を散歩して

近くで写真を撮ったり

来る途中で見つけた

手作りジャムの店に行ったり

ガラス工芸のお店を見たりと

楽しい時間を過ごした。



午後はまたレポートを纏めて

美味しいご飯を食べて

最初のこの時間を下さった瀬木さんに

本当に感謝している。



そして三日目



昼食を食べ終えたお兄ちゃんと彩は

アウトレットに寄って帰ると

早めに出ていった



お兄ちゃんは

もしかしたら瀬木さんと二人だと

緊張する私のために

忙しい中来てくれた気がする



彩はここに来ても

我慢して色々頑張ってたから、

帰りくらいはお兄ちゃんと

楽しんで帰ってほしいな




手を振り見送った私は、

仲さんに断られたけどお願いして

別荘の掃除をお手伝いしていた。



天気もすごくよくて、

みんなのシーツを洗濯して干しながら

目の前に広がる景色に

思いっきり空気を吸い込んだ



「(将来こんなところに住みたいな……)」



空の青さまで違うものに見えるのは

空気がキレイな証拠



瀬木さんも少しは

外に出れればいいのに……



マンションでもそうだけど、

書き始めると瀬木さんは

部屋からほんとに出てこない



食事は夜は一緒に食べるものの、

あとは気が向いたときに出てきて

少しかじる程度に食べると

また部屋に隠ってしまう




「仲さん、

 瀬木さんの部屋も掃除するんですか?」



マンションでも一度あの部屋に

入ってからは、声をかければ

掃除させて貰えるようにはなっている



徹夜してると思うときは、

さすがに声かけづらいんだけどね‥



『隼人君は

 ここに初めて来たときから部屋から

 なかなか出てこなくてね。

 今年は顔を見せてくれてる方なのよ?

 シーツも置いとけば

 自分で変えてるみたいだし。』



やっぱりね………

ここでも同じなんだ



「私持ってきます。

 仕事の話もしたいので」



『そう?じゃあお願いしようかしら』



「はい」



笑顔の仲さんに

私も笑顔で返す。



掃除機を全室かけ終えた私は、

一人だと部屋が広過ぎるので

お兄ちゃんがいた部屋に移動をしてみた。



コンコン



「立花です」



『入っておいで』



「失礼します……って……わぁすごい」



離れになっている

渡り廊下の先のドアを開けた私は

まるで外にいるのではと錯覚させられる



仕切りのない大きな窓ガラスから

外の白樺の木々が並んだ景色が見えて

とてもキレイだ




『どうかした?』



広い空間に置かれた

大きめのデスクに向かって

仕事をしている瀬木さん



ここなら外にいるみたいだから

部屋も出たくなくなるかもなんて、

ついそんなことを思ってしまう



「仕事中すいません。

 シーツを持ってきただけなんです。

 私が変えてもいいですか?」



『ん、頼む』



執筆中だから、

なるべく邪魔したくないので

窓際にある大きいベッドのシーツを剥がして

手際よく新しいものに変えた。



本当にすごい眺め‥‥

まるで森の中で眠れる空間のようだ




『立花

 歴史の本見たいっていってただろ?

 奥に沢山あるから見ていいよ』




「えっ!ありがとうございます!!」



嬉しくなった私は

指で示された方へ向かった



厚めの木でパーテーションしてある

壁の向こうに広がる何列もの本棚に

口が開いてしまう



歴史どころじゃない‥‥

様々な辞書から、洋書まで沢山ある。

それに可愛い絵本まで。



まるで森の図書館だ。



ほんとに瀬木さんの本好きには

敵わないや…‥



ゆっくりと通路を歩き

見たこともない本を手にとっては

そこで立ち読み、

気になる本があれば座って読んだ



私こんな素敵な場所なら

ずっといられるかもしれない






『資料あった?』



「あ………すいません、

 珍しい本が沢山あって

 つい読み込んでしまって」



本棚を背に体育座りしていた私を

上から見下ろす瀬木さんが、

こともあろうか

私の隣に同じように座ってしまった



「…………」



どうしよう……

少し動くだけで

肩が触れてしまいそうな程

距離が近い



「せ、瀬木さん、お仕事中だと

 思うんですけどここにいて

 私邪魔じゃないですか?」




『ん、気にならない』




そうやって小さく笑った顔が

本当にとてもキレイで、

五年前のあの時のことを

つい思い出してしまう




私にもう少しだけ

勇気があったら

あの時もこんな風に

近くにいられたのかな




『俺もここでよくこうしてた』



ドキン


長い足を片方だけ伸ばし、

折り曲げた片方の膝に手を置いた瀬木さんが

私の方に視線を動かすと

頭を優しく撫でられた。




心臓が胸の中で激しく鼓動して、

私はどうしていいか分からず

膝におでこをくっつけた



キレイな指が頭に触れている。

それだけで、

こんなにも心が動くのは何故だろう



どうしてこの人じゃなきゃ駄目なんだろう



他の人を好きになれたら

どんなに楽だろうって

何度も何度も思って忘れようとしたのに

この掌にしか気持ちが動かない




「瀬木さん……」



『ん?』



「……私」



その時、ポケットに入れていたスマホが振動して慌てて取り出す



どうしよう……電話だ



『出ていいよ』




「ありがとうございます。……もしもし」




"もしもし、立花?安藤だけど"



しまった!!

電話しようなんて言っていて、

旅行のことで頭がいっぱいで

安藤君のことすっかり忘れてた




"立花、聞いてる?"



「あ、ご、ごめん安藤君。

 また後で電話していい?」



"ごめん、今大丈夫か聞くの忘れてた。

あとでメールするよ"



「うん、また後でね、ばいばい。」



出掛けようって言ってくれてたのに、

夏休みに入ってしまって

申し訳なかったな。






『安藤君って‥誰?』



えっ?



スマホを閉じた私は、

横に座ったままの瀬木さんの方を

勢いよく向いた



「ツッ!!」



鼻が触れてしまうほどの距離に

瀬木さんの顔があり

私は思わずスマホを落とす




『立花』



少しずつ近付く顔に

心臓が壊れそうで、

気付いたら

両手で瀬木さんの肩を押していた。




「と、友達です、同じ文芸専攻の。」



瀬木さんの肩に置いた手が

どうしようもなく震えてしまう



「すいません…やっぱり

 私部屋から出てます。

 仕事中にすいません」



『ここにいて』



「でも」



『ごめん、意地悪したな。

 仕事に戻るよ。

 夕食まで読んでていいから』




顔が熱い

体も熱い



そんな私の頭にやっぱり

いつものように優しく触れるなんて、

この人はズルいのかもしれない



そして

やっぱりここにいたいと思う私は

もっとズルいのかもしれない



立ち上がった瀬木さんの肩から

両腕が落ちて私は俯いたままいた



『立花、

 明日からアシスタント始まるから

 よろしくな』



「……はい」




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