第2話 作家と編集


私が先輩の家に住み、家政婦業に慣れ始め

早いもので一週間が過ぎていた。



この生活がどうなるんだろうって

かなり不安だったけど、

真面目にバイト沢山してきたおかげか、

仕事となるとかなり割り切れてる。




『ひ よ り‥‥ふふ』



「何……その笑顔怖いんだけど。」




講義で一緒になった親友の彩が、

久しぶりに構内にある

カフェに誘ってくれた。




高校生の時に転校して北海道に行ってから、

少しずつ元気を取り戻して

友達と呼べる子も数人出来た。



その中でも彩は、偶然講義で隣になり

出会えた本当になんでも話せる

大切な親友の1人だ。



今日は瀬木さんに特に何も頼まれてないし、

晩御飯を作る頃までに帰ればいいから

彩もなんだか嬉しそうだ。




私はというと、最近瀬木さんについて

幾つか分かったことがあるのだ。



・徹夜明けや締切前の時は特に機嫌が悪い。


・そして疲れるといつも以上に無口になる

 無表情というより無に近い。


・コーヒーがとにかく大好き

 ほっておくとご飯食べずに一日終わる。



基本的には無口で言葉が足りないけれど、

その割に私のことを案外よく見ていて、

時々声をかけてくれる。



機嫌が悪いのはめちゃくちゃ伝わるけど、

わたしに対して話す時は普通だし

家政婦としての仕事をすることが

仕事だからそこは大丈夫になっていた。



そしてもう一つ。

作品に行き詰まる時だけ

ベランダで稀にタバコを吸っていること




私の中での瀬木さんは

まだどこかで先輩の時のままだ。



煙草をふかすイメージはなかったから、

初めてそれを目の前で見た時は

時間の経過や大人な一面を感じて

少し寂しくもあった



私が知る五年前の先輩は、

制服を着ていた図書館での姿のみで

共通の本が好きなことしかわからない。



何が好きで

どう生きてるかなんてとこまで

知らないまま引っ越したから

少しずつ知らない姿が見れて

嬉しい気もしている。




『で?どうなの?』



「どうって何が?」



『はぁ!?同棲よ、同棲!!』



「ぶっ!……ゴホッ……」



先輩の事に浸っていたのに

大きな声で言われた言葉にむせてしまう。



同棲なんかじゃないし‥‥



実際はあの広い部屋の

掃除や料理が大変で

そんなこと考える余裕すらないもん



それに、何より突然依頼される

アシスタントの仕事に

慌てることが多いからまだ慣れない。




「あのね作家さんの一冊の本が出来るまでって

 ほんと大変でね‥‥」


『は?何それ……つまんない』




つまんないって言われても‥

本当のことだもん



時々見せる知らない顔の一つひとつや、

冷たいかと思えば優しかったり、

一言フォローいれてくれたりと、

気持ちは複雑な状態だけどね‥‥




ブーブーブー


ん?



ポケットで響くスマホのバイブ音に

なんとなく嫌な予感がした私は、

アイスティーを啜る彩を他所に

恐るおそるケータイを開いた



「………‥‥」



『何?また呼び出し?』



パチンとスマホを閉じれば

飲みかけのレモネードを私も一気に啜った



「うん、ごめん。また来週ね」




今日は仕事入れないって言ったのに、

届いたメールに溜め息を吐きつつも

お使いに出掛けることにした。



突然のメールに

最初はいちいち驚いていたけど、

それも何回か続くと驚かないもので

人間の馴れって恐ろしいとつくづく思う。




『ありがとうございました』




紙袋を抱えてマンションへと急ぐのは、

雇い主へ渡すためだけなのだけど、

何処かで早く顔が見たいなんて

あさましい気持ちもあるからかもしれない。



コピー用紙やペンなど近場で買えるものなら

ついでで買えるけれど、

特定の情報やものについて調べたり、

資料を集めたりするのにはまだ慣れない。



作家たるもの拘りも強いし、

物語を作る上での資料集めは大変らしく、

現場に行けない時は、

アシスタント係の私の仕事らしい。




今のこの時代は、

ネットで色々調べられるのに

瀬木さんは誤った必要のない

情報はいらないらしく

調べたい時は本や現場で見たものや、

実際買ったりしながら調べていた。



チリンと鍵の音を鳴らして

玄関の鍵を開ければ、

涼しい風に走ってきた体が冷やされていく




ん?

あれ?

お客様かな‥‥




ホッとするのも束の間

見慣れないパンプスと革靴が目に入り

靴の向きを変えて綺麗に揃える。




買ってきたものはその方を見て

なんとなく納得できるけど、

今日は誰か来るなんて

一言も言ってなかったから、

入っていいか不安になる。




ガチャ



『‥‥‥‥なっ!?‥えっ?‥‥おんな!?』




突然現れた私を見て

ソファーに座る見知らぬ二人が

立ち上がり驚いて声を出した




いきなり大声出されて

驚くのはこっちなんだけど‥‥



カチャ



「あ…瀬木さん…戻りました。」



『おかえり』



ちょうど

仕事部屋から出てきた瀬木さんに、

早速頼まれていたものを差し出した




『ありがと、そこ置いといて』



言われた場所にそれを置けば、

キッチンに置かれたままの

オムライスが朝から動かぬままの

状態が目に入った




やっぱりまた食べずに仕事してたんだ……

寝てないし食べてないしで体大丈夫なの?




『ちょっと瀬木先生!!

 こんな可愛い子今まで隠してたの?』




奥に座っていた知らない男性が

瀬木さんと私を交互に見てニヤリと笑った。



『うるせぇ……喚くな。

 黙ってさっさとチェックしろ』



うわ‥‥‥機嫌悪‥‥。

ここまで先輩が言葉使い悪いのは

初めて見たかも。



それに特に今日はいつもより

機嫌が悪い気がするのは気のせい?




私の横にきた瀬木さんに

珈琲を淹れてあげようとしていたら

眠そうにそれを受け取った。



「あの……すいません。

 瀬木さんのお友達ですか?」



一人はスーツをピシッと着こなした

カッコイイ大人な男性で、

もう一人はとっても綺麗な女の人だ




『は?友達?‥‥あれは出版社の犬』



‥へっ?


‥い‥犬?



『隼人、それはないだろ!!

 もうお前の作品取り扱かうのやめるぞ?』



『はっ、好きにすればいい。

 そこでは連載書かないまでだ』



『ちょっと和木君やめてよ!

 締め切り押してるのに

 あたしがクビになるんだから!!

 クビ!!』




キッチンとソファという距離で

大声で飛び交う罵声に

子供の喧嘩のようで呆気にとられる。




『立花、これ今から食べるから』



「えっ?じゃあ……温め」


『いや、いいよ。

 冷めても美味しそうだから。

 いつも悪いな。』




珈琲とラップのかけられた

冷めたオムライスをトレイに乗せ

また部屋へと行ってしまった彼を見送る




「あ、瀬木さん!

 あのこれはどうするんですか?」



ドアに入ってしまう直前で

掲げたおつかいの紙袋に、

振り返った瀬木さんが少しだけ笑った。




『立花が食べて。』



えっ?



バタン



作品の為の資料だと思って

慌てて有名なお店のを買ってきたのに、

残されたケーキを見つめるしかない私。



閉ざされてしまった空間で

改めて感じる視線に顔を上げると、

満面な笑みを浮かべた二人と目が合った。




「…あの…ケーキ食べます?」



『『食べる!!いいの!?』』



「勿論です。一人で食べきれないですし。」




コーヒーを改めて淹れなおした私は、

ケーキをお皿に取り出して

リビングのガラステーブルに置いた




さっき出版社って言ってたよね……

将来なりたい職業候補でもあるから

少し二人のことが気になってしまう




「どうぞ」



『あら、あなたもここで

 一緒に食べましょうよ』



「えっ?……でも仕事中じゃ」



『いいのよ、

 今頃残りの原稿仕上げてるだろうし、

 チェックもしないといけないから

 一旦休憩しましょう』



「‥じゃあお言葉に甘えて。」



なんとなく断れず、

自分の分のケーキとカフェオレを

持ってきてから

向かい側に座らせていただいた




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



さっきから向かい側に座る

二人からの満面の笑顔が恐い。

というか‥ずっと見られてる気がする。




『ねぇ、君は隼人のなに?』



ドクン



何って‥‥‥言われても



「‥あ‥えと‥‥

 ここで住み込みで働かせていただいてる

 M大二年の立花 日和です」




『住み込み!?……へぇあの隼人がねぇ』




何か……この人

スーツ着てるけど、

出版社とか会社員というより

夜のお仕事の人に見えるのは私だけ?



それに

実際ケーキとか似合わないのに、

めちゃくちゃクリーム口につけて

子供みたいに美味しそうに食べてるし

ギャップがすごい‥‥‥




『日和ちゃんが先生の

 アシストしてくれてたんだね。』



「‥‥うーん、アシスタントなんですかね?」



私は言われたことしかしてないし、

アシスタントと言えるほど役にも立たずで

胸張ってそうですって

言えない気がするんだけどな‥‥




『今まではね、原稿書いて欲しいなら

 あれ買ってこい、ご飯買ってこいだの

 それはそれは大変だったのよ!?』



何となくさっきの感じから

やらされてる想像がつくから、

苦笑いが出てしまう



『紹介が遅れたわね、

 私は出版社で校正編集をしている

 高城 あかね。

 瀬木先生はメインで担当してるの。』



編集部かぁ……素敵

何かその響きだけでもカッコイイ



『俺はその出版社の営業部の和木。

 それよりもう今回の作品読んだ?』




「‥‥まだここに来て一週間なので

 生活に慣れるのに必死で全く

 読めてないんです」




読んでいいと言われても、

あの部屋に先輩がいると思うと

なかなか勇気がなくて入れないのだ。



若いのに本を出せるなんて凄いことだし、

やっぱりあの部屋の本の世界に

興味が沸いてしまっているのは事実だ。




『じゃあ良かったらこれ見てみる?』



高城さんがそっと手渡してくれた一枚の紙を、

両手で受け取ると心臓がドクンと跳ねた



これって……



『今、瀬木先生が書いてる書籍の一部よ。』



先輩の‥‥?



手が少しだけ震えてしまう。



初めて見る瀬木さんの世界観に

触れる事が出来る気持ちと、

触れていいのか戸惑う気持ちが交差する



でも、やっぱり触れたくて

深呼吸してから静かに読み始めた




『どうかしら?』



すごい‥‥‥



たった一部分だけを読んだだけなのに、

最初から読みたくなるような物語の情景に

私は惹き付けられていくようだ





「……………とても素敵です。

 早く続きが読みたいですし、

 瀬木さんの本をもっと知りたいです。」



原稿に目を落としたまま

書き終わったら絶対買ってみたいなと

思える作品で嬉しくなるし、

その紙一枚が愛しくてたまらない‥




『だってさ、隼人』



えっ?



いつの間に後ろに!?

全く気が付かなかった‥‥



「あっ‥‥‥」



背後から伸びてきたキレイな手が

私の手から原稿をあっさりと奪う



『高城、和木、

 書けたからとっととチェックして帰れ』



『ほんとですか!?

 ありがとうございます!!』



瀬木さんは、高城さんに原稿を渡すと

私の隣に腰を深くおろした



何か瀬木さん怒ってる気がする‥‥



部外者が原稿読んだりなんかして

まずかったかな‥



疲れた様子の瀬木さんは

ソファに深く腰掛けると

眼鏡を取って瞳を閉じてしまう。



昨日もトイレに夜中起きた時に

下から漏れる光が見えたから

絶対寝ないで書いてたと思う



隣の瀬木さんを起こさないようにと、

真剣に原稿に目を通して

仕事をし始めた二人の邪魔にならないように

そっと席から立ち上がろうとした




『ここに座ってて』



ドクン



その言葉と同時に

驚く隙もないほどに掴まれた私の右手首に

熱が集中していく



「……せ…瀬木さん?」



『…………』




瞳を閉じたまま掴んでるけど、

もしかしなくても寝てる?



耳を近くに寄せれば

微かに聞こえる寝息が届いた



どうしよう……



捉えられた囚人のように立ち尽くす私に

今度は微かな笑いが届く



『‥日和ちゃん、そこにいてあげてよ』



和木さん……



そんなに強くない握りかただけど

キレイな長い指が離さないように絡みつく




少しだけ静かにしてようかな……

気持ち良さそうに眠るこの雇い主を

今は起こさないようにしたい。



先輩が毎日図書館で本を読んでいたから

本が好きなのは知ってる。



でもいつから読む方じゃなくて

書く方に変わったんだろう‥‥



今は想像出来ないくらい近くにいるのに、

あの頃と同じで何も聞けずに見てるだけの私は

ちっとも成長できていない。



触れているその場所に

赤くなっているであろう顔を隠すように

俯いて私もそのまま瞳を閉じた


-------------------------------------------------


瀬木 遥 side



『………ん』



あれから‥寝てたのか……?



昨日の夜から

殆ど寝ずに書き上げてたから

いつ寝たのかも分からないくらい

ぐっすり寝た気がする‥‥‥



毎回、締め切りの時は気が滅入るのに

立花がいてくれたからか

これでも今回はかなり気分はラクだった。




『ん………何で……ここに‥‥』



あ………俺のせいか……



立花の手首を掴んだままの手をそっと離すと

スヤスヤ眠る彼女を起こさないように

そのままそっと寝かせた



伸ばしかけだろうか‥

目にかかった前髪をそっと撫でれば

眉間に小さく皺がよせられていく




そう言えばアイツらは?



テーブルに置かれたメモを手に取ると

立花の横に静かにまた腰掛けた



------------------------------------------


瀬木先生、原稿読みました。

何ヵ所か修正ありますので

起きましたら連絡お願いします。

再校が終わりましたらメールで送ってください



※二人ともぐっすり眠ってましたので

このまま帰ります。

ケーキご馳走様でした。

次回は恋愛物の提案をそろそろさせてください

高城 和木

---------------------------------------------



『(ったく……起こせよ。)』



クシュ‥‥‥



その時隣から小さく聞こえたくしゃみに

思わず抱きしめたい気持ちを抑えて

そっと頬に手を触れさせた。




『………変わってないな。』



一度部屋に戻ると

柔らかいコットン素材のブランケットを

彼女にそっと掛ける



こんなにも安心した顔を

俺に見せたのはここに来て初めてだな‥



少しだけあの頃より大人びた顔を撫でてから

ベランダに出て眠気を覚ました



立花‥‥‥‥

君は今何を想う‥‥



ここにいてツラくないだろうか‥‥



文句一つ言わずに

働いてくれている立花の

笑顔が早く見たい‥



あの時の気持ちが知りたい。



その時がきたら自分の気持ちを

どこまで冷静に伝えられるだろうか



瀬木side 終


----------------



少しだけ肌寒い感覚に目を開けると

あたりが暗くて驚いた



「(しまった……寝ちゃってたんだ)」




瀬木さんのタバコの香りが少しする‥‥。

ゆっくりと瞳を閉じて

肌触りのいいそれを抱きしめると

瀬木さんに包まれている気分だ



『寒くないか?』



えっ?



閉じた瞳を開けて

体を勢いよく起こした。



「あ……すいません!

 ご飯の仕度しないと、

 それにお風呂もまだ……。」




『ご飯は昼の分食べたからいいよ。

 立花は何か食べるといい。』




「…すみません。

 お風呂だけすぐ入れますね。

 あ、これもすみません。

 かけてくださったんですね。」



瀬木さん

ずっとここにいたのだろうかと思いつつも

ブランケットを畳んでソファに置いた



ここで仕事してるの初めて見た‥



私を起こさないように

電気つけなかったの?

夏を迎えようとしている季節は

この時間でもまだ薄暗い程度だ


「あの……」



『ん?』



「怒ってますよね……

 勝手に原稿読んだりなんかして。

 ずっと読んで見たくて

 その‥‥‥‥すみませんでした」



編集の人が

どんな仕事をしてるのとかも

興味あったけれど、

ただ先輩の世界を見たかった。



『どうして謝るんだ?』



パソコンのキーから手を離した瀬木さんは、

眼鏡を外すとそれをテーブルに置いた




「……瀬木さんの本が読みたくなって

 つい渡された物を勝手に

 読んでしまったので」




『フッ‥‥読みたいなら

 部屋に来ればいいだろ?』



えっ?


ドクン



暗闇の中で立ち上がった瀬木さんに

先程と同じように手首を掴まれてしまう。



どうしよう……

そこだけが熱を帯びてゆき

心臓の音が手を通して

伝わってしまいそうだ



ガチャ



『どうぞ』



スマートに扉を開けた彼は

仕事部屋であるそこへ

私を先に入れてくれた



いつも部屋の入り口から

覗いていた空間に立ち入ると、

本棚にある書籍の多さに

改めて圧倒されてしまう



ドクン



その場で瀬木さんを見上げたら

驚くくらい優しくて

柔らかい表情をしていたので

心臓がハネる。





「(……ここに来て初めてこんな顔見た)」



口数も少ないし、

瀬木さんって何を考えてるか

分からないことが多い。



でも何も言わなくてもその表情で

今は大好きな好きに見ていいって

言われた気がする。



「あ………」



遠慮がちに辺りを見渡していると、

視界に飛び込んできた本に

懐かしくて思わず手が延びる



「これ……読んでもいいですか?」



入り口で腕を組み

ずっとこちらを見ていた彼が

ゆっくりと近付いてくる。



まるであの時のように……



『立花はそれが読みたいんだろ?』



「……はい、これがいいです」



昔と変わらない紺の表紙の部厚い本は

私の閉ざした心を揺らす懐かしい宝物



この本の貸し出しカードの

最後に書かれていた名前を見て、

尾田 隼人という名前を

知ったキッカケになったのだ。



『それ後編だろ?……こっちが』



「あ、いいんです。

 後編読めないまま私いなくなって

 ……ツッ」




はっとして我に帰ると

思い出に浸って話したことに

思わず手で口を塞ぐ



ドクン



それと同時に掴まれた肩が痛くて

上を見上げた



「…………瀬木……さ?」




見下ろす視線が真っ直ぐ突き刺さる。

掴まれた肩よりもその瞳が逃がさないと

言うように私を捉えていた



『………あのさ‥立花って』




「せ、瀬木さん!!

 お、お風呂入れますね。

 あとやっぱり前編も借ります!!」



それ以上そこにいることで

揺れる心を抑えれそうになかった私は

その手から逃げるようにすり抜けた




『立花!!』





「……」



『それ俺も大好きな本だから』




バタン



閉じた扉を挟んだ壁が

今の自分が乗り越えられない壁



気持ちが溢れても大丈夫って思ったのに、

何気ない一言が

溢れそうなコップを

ゆらゆら揺らしてゆく




先輩もこの本が好き……

たった一つの共通点が出来ただけ。

それだけのことなのに

こんなに嬉しくて心臓がドキドキしてる




「はぁ……」



どんなに思っても

駄目って分かってるのに、

諦めが悪い自分の頬をつねり

ペチンと小さく叩いた





次の日



朝から講義が入っていた私は、

起きてこない瀬木さんの朝御飯に

ラップをかけて家を出た



先輩にしてみたら昨日のことなんて

どうでもいいことかもしれないけど、

なんとなく会うのが気まずかったから

少しホッとしてしまう。



こんな気持ち忘れて仕事しなきゃ‥

そう思い静かにマンションを出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る