第4話 ありさ

 僕は宿に戻り仕事をとりあえず片付けた。綺羅きらの電話は結局無視してしまい、言い訳を考えるのも面倒で折り返しもせずにいる。

 後々面倒になることは分かっていたけど、今はそういう気分になれなかった。


 僕は夕食後、また温心はーと湖に向かった。今夜はここにいるつもりで、女将に無理を言ってシートと軽い夜食、飲み物を準備してもらった。


 いつ彼女が訪れてもいいように、僕は温心はーと湖の畔で待った。


 昼間は仕事をし、仕事が片付くとまた温心はーと湖に向かう。これが僕の日課になった。


 それでも有紗ありさは現れることはなかった。



 ロングステイプランも終わり、明日は東京に戻らなければならない。結局僕はどこにも行かないという約束を果たせないことになる。


 あの施設に確認に行ったけれど、有紗ありさという女性は入所していないと言う。


 僕は夢を見ていたのだろうか…。


 でもあの温もりは、僕の背中に回された有紗ありさの腕は、確かに本物だった。



 僕は荷物をまとめ、女将さんに挨拶をする。ここを去るのは心が痛む。


「また来ます」

「ありがとうございます。お待ちしていますね」


 いってらっしゃい、と女将は優しい笑顔で僕を送りだしてくれた。


 僕は車を走らせる。有紗ありさの事を考えながら、彼女があの施設にいるなら助け出さなければならないとさえ思いながら。


「なんだ?」


 救急車とパトカー数台とすれ違った。




來斗らいと


 僕は誰かに名前を呼ばれたような気がした。





END

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君を想う時 桔梗 浬 @hareruya0126

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