4-4 後輩ちゃん、天ノ川家に招待される
先日、天ノ川家に両親が帰ってきた。
突然の帰宅だったせいで、椎と鉢合わせするという珍事もあったが……なんとか丸く収まっている。
「でも、驚いたぞ。あの遊星が夜に女の子を連れ込むだなんて」
「あなた、言い方が良くないわ。風見さんはバカなことをした千斗星を助けてくれただけでしょう?」
「バカじゃないしっ! 出前寿司の人が作りすぎただけだし!」
「三人前なんか頼んだヤツがよく言うよ……」
めずらしく家族勢ぞろいのリビングで、四人はもそもそと朝食を食べている。
平日のため学校は普通にあるが両親は休み、有給を取っている。なぜなら今日は七夕、年に一度の天ノ川会だからだ。
天ノ川会と
いつもは出づっぱりの両親が「家族の時間も大事にしよう」と、天ノ川の名字になぞらえて必ず集まるようにする日だった。
一応、始まりにはルーツがある。
千斗星がまだ五歳くらいの頃、七夕当日が雨になり天ノ川が見れないと大泣きしたことがあった。
その気を紛らわそうと母が豪華な料理を用意し、パーティーのような一日にした。それから流れで毎年七夕はパーティーのようになり、天ノ川会という名前がついて今に至るのだった。
「で、今日は本物の彼女ちゃんも来てくれるんだろ? 名前は確か…………鬼弦さん?」
「違うっ、村咲陽花っ! 絶対その名前で間違えないでよ!?」
「お兄ぃが散々すり込んだからでしょ。オニヅルキリコが嫁になるオンナの名前だ、覚えとけ~って」
「ぐうぅぅっ!?」
特大ブーメランが遊星の首を切り飛ばす。
黒歴史、怖い。
忘れたタイミングで切り込んでくるので、心構えも回避もできない。人生最大の敵は間違いなく過去の自分だった。
「それで……その村咲さんは、学校帰りに一緒に連れてくるのかしら?」
「そうだね。一人分多くなるけど、頼む」
「そんないいわよ。生意気にも彼女を招待したいだなんて、遊星もマセてきたわねえ」
微笑ましい表情を向けてくる母に、遊星は苦笑いを返す。
「親御さんもしっかりした方なのよね。だって遊星の治療費までくださったんですから」
「……あー、あの時は勝手に受け取っちゃってごめん」
「いいのよ。でもいつか先方にはこちらからもごあいさつしないとね?」
「い、いや。なにも母さんたちが出て行かなくても……」
「これはあなたの問題じゃないわ、大人の問題なの。それに家族ぐるみの付き合いになっておけば、遊星だって後々そういうことも言い出しやすいでしょう?」
母のからかった様子に、遊星はたじたじとする。
「……とりあえず帰るのは夕方くらいになると思う。まあ、仲良くしてやって」
「もちろんよ。彼氏の両親に会うなんて、彼女ちゃんも不安と期待でいっぱいだもんね? 緊張しないように精一杯優しくしてあげないと!」
「あー、緊張は全然しないと思う」
「陽花はええ格好しいだからねぇ~」
「言い方」
と、天ノ川家は陽花の受け入れ態勢を整えつつあるのだった。
***
ここまで来て学校の話なんて野暮ったい、ということで夕方。
下刻時刻を迎えた遊星は、麗しの姫を天ノ川家に招待したのだった。
「はじめまして、私は村咲陽花と申します。この度は素敵な会にお招きいただき、ありがとうございます」
陽花はおへその上に両手を当て、しっかりと四十五度の角度で頭を下げる。
「あら~~~~~~!! ずいぶんとしっかりしてるのね、千斗星にも見習わせたいわあ」
「……チッ、こうなると思ったぜ」
ご機嫌な母の横で、千斗星がわざとらしく舌打ちをする。
「そういえば陽花さんは千斗星とは同じ学校の友達だったのよね? すっごい偶然だわ!」
「偶然じゃありません~! 陽花が下心で近づいてきたんですぅ~!」
「ごめんなさいねぇ。千斗星は陽花さんみたいに大人じゃないから、こうやってヒネくれてるの。兄妹ともども仲良くしてやってね?」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いしますっ!」
令嬢モードの陽花が笑顔で答える横で、千斗星がぶすっとした顔でジト目を向ける。が、そこでなにかを思いついたのか、ニヤリとした笑みで母にこんな提案をする。
「あっ、そうだ。いまから千斗星の卒業アルバムをみんなで一緒に見ない?」
「それも楽しいかもしれないわね、中学時代の陽花さんを見てみたいわ!」
卒業アルバムという単語に母は目を輝かせ、陽花がダラダラと汗をかき始めた。
アルバムの撮影は三年の早い時期に終えるのが普通。つまりその頃の陽花はまだイメチェン前。
焦った陽花はその流れを断ち切るために、テーブルの前にある料理を見てわざとらしく感嘆の声を上げる。
「わ、ゎあ~~!? おいしそうなお料理ですねっ! これ、全部お義母様が作られたんですかぁ~!?」
「お、お、お義母さんですってえぇぇぇ!? ちょっと聞きました、お父さん!?」
陽花の露骨な話題逸らしに母は大感激。作戦の失敗を察知した千斗星は、陰気そうな顔で舌打ちをした。
「お義父様もはじめまして。本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
「うん、こちらこそよろしく頼むよ。男らしさの足らんバカ息子だけど、仲良くしてやって欲しい」
「とんでもないです。私の方こそいつも遊星さんに助けていただいてばかりで……」
「うぷっ……こんな陽花をずっと見てたら、千斗星は胃もたれで死んでしまうっ」
なにやら陽花の登場で、天ノ川家は色とりどりの化学変化を起こしている。
ともあれ、こんな騒がしい状態で天ノ川会は始まったのであった。
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