3-7 後輩ちゃんだって、たまには拗ねてみる

「いや~やっぱ持つべきものは友達だよなぁ!」

「痛い、肩を叩くな」

「俺とお前の仲じゃないか、親友ならこれくらいのスキンシップ普通だろ」


 亮介が上機嫌過ぎて気色悪い。


「でも驚いたぜ。まさかお前から女の子を紹介したいなんて言うんだからさぁ!」

「陽花も一緒だけどな」

「村咲ちゃんなら大歓迎。っていうか男2女2っていったら……実質合コンじゃん!」


 昨夜。

 遊星は亮介にメッセージを送り、一緒に昼休憩を取る約束をした。


 椎の人見知りを克服する一歩として、亮介と陽花を混ぜた四人で昼を一緒しようと考えたのだ。二人であれば信用できるし、コミュ力についても申し分ない。


 細かいことは説明していない。ただ亮介に会わせたい女の子がいる、とだけ伝えておいた。


 すると朝からこのテンションである。四限の授業が終わった今、亮介のテンションはピークに達している。


「で、誰なんだよ~もったいぶらず教えてくれよ。可愛いのか? 綺麗なのか? どっちなんだいっ!!!」

「どっちかで聞かれたら綺麗、いや美人寄り?」

「美人! そんなの……最the高じゃねえか」


 亮介のテンションの高さに溜息をついていると、陽花が教室にやって来た。


 ――が、陽花は頬をぷく、と膨らませて遊星をジト目で見つめている。


「……さすがは遊星さんですね。そんな美人さんと、しれっと仲良くなってしまうんですからっ」

「陽花ぁっ、おはようっ! 今日も最高に可愛いよっ、早く陽花のお弁当が食べたいなぁっ!」

「遊星さんのお弁当? これは一文字先輩にプレゼントしようと思って作ってきた物ですよ?」

「お願いだからそんなこと言わないでっ!」


 露骨なまでに冷ややかな態度の陽花に、手をあわせて懇願する。




 昨夜、陽花にも話をした。

 椎の人見知りを克服する一歩として、昼休憩に混ぜてやりたいと。


 正直。いつもの陽花なら好意的に受け止めてくれると思っていた。だが、その日の陽花はいつもより「おこ」だった。


『仕事中は私のことなんか、忘れちゃいますよね~』

『夜遅くまで公園で二人きりだったんですね~~』

『遊星さんはすぐ綺麗な女性と仲良くなっちゃうんですね~~~』


 陽花の口からはチクチク言葉が止まらない。


 遊星がバイトをする理由は陽花の誕生日プレゼントや、デート費用を自分で稼ぐことが目的。


 だが先月に比べて夜も忙しくなったため、陽花とメッセージや電話をする時間が減っていた。陽花も疲れた遊星に負担をかけまいと、積極的なメッセージも減らしていた。


 さすがに陽花も、少しは寂しさを感じていたはず。


 そんなところにかかってきた、遊星からの通話。居住まいを正し、心を弾ませ、電話に出たら――別の女子の話。


 ……陽花が不平を漏らすのも、無理はないことだった。




「遊星さん。私もアルバイトを始めるって言ったら賛成してくれます?」

「えっ、急にどうして」

「社会勉強になるかなと思いまして。それに遊星さんと会えなくて寂しい時……優しくしてくれるヒトも、いるかもしれませんし?」

「ダ、ダメダメッ! そんなの絶対ダメ!!」

「どうしてですか? 遊星さんは良くて、私はダメなんですか?」

「うぅぅっ、本当に勘弁してっ……」


 遊星が泣きそうな声でお願いすると、陽花がくすくすと笑い出す。


「ふふ、冗談です。でもちゃんと私にもかまってくださいね?」

「ごめんっ、本当に反省してますっ!」


 陽花とのデートを彩るために始めたアルバイトなのに、それが原因で険悪になったら本末転倒だ。


「おっ、村咲ちゃん。だんだん遊星の扱いがサマになってきたね?」

「そ、そんなっ、遊星さんを扱うだなんてっ」

「いいのいいの。遊星は打たれ強いし、尻に敷くつもりで相手してやんなよ。そっちのほうが意外と喜ぶかもよ?」

「亮介っ、あんまり余計なことばかり言うなよ!?」


 三人がそうやって騒いでいると――後ろ扉から教室を覗き込む、椎の姿が見えた。


「あっ、風見さん。こっちこっち」


 呼びかけると椎はちょこんと頭を下げ、こっちに寄ってくる。


「おおっ! ついにウワサの美人が……って、え?」


 亮介が椎を見つけると、間抜けな顔で口を開けている。


「もしかして紹介したい女子って……風見のことか?」

「そうだよ。もしかして知り合い?」

「あ、ああ。中学の時、同じクラスだったから」


 その可能性があったか。


 亮介とは去年同じクラスだったから、二人が知り合いである線は考えていなかった。寄ってきた椎も亮介に気付くと……どこか呆れた表情で溜息をつく。


「呼んだ男子ってもしかして一文字くん? ……なんだ、緊張して損した」

「お、おいおい! 久しぶりに会ったのにその態度はひどくねえか?」

「それもそうね。お久しぶり、まだ生きてたのね」

「より悪くなったんだけど!?」


 いきなり亮介が塩対応をされている。

 知り合いということもあって、椎の人見知りセンサーも亮介には反応してないようだ。


 どうやら早くも作戦の半分は失敗。

 だが、とりあえず亮介をイジるのにだけは乗っておく。


「おい亮介。風見さんになんか嫌われるようなことしたのか?」

「人聞き悪いこと言うなよ! ただ中学の時には少しばかりご迷惑を……」

「そうね。同じ学級委員になったのに部活があるとか言って、全然手伝ってくれなかったもんね?」

「だから悪かったって! でも一番悪いのは学級委員をくじ引きで決めた担任だろぉ!?」

「あなたのくじ運のせいで、私は迷惑をこうむった」

「理不尽っ!?」


 とりあえず仲が悪いわけではなさそうだ。遊星が胸を撫でおろしていると、陽花に袖をくいくいっと引かれる。


 そうだ、陽花との顔合わせがまだ済んでいない。


「風見さん、ちょっといい?」


 椎がこちらを向いたのに合わせ、陽花が一歩前に出る。


「先日。お店でお目にかかりました、一年の村咲陽花と申します。よろしくお願いしますね、風見先輩っ」

「う、うん。私は、風見椎。……よろ、しく」


 令嬢モードの陽花には、椎の人見知りセンサーがしっかり反応している。


(よくよく考えれば。人見知り克服の経験を積むのであれば、陽花がいれば十分では?)


「……亮介。お前、やっぱ来なくてもいいよ」

「さっきから俺の扱い、ひどすぎない???」


 とはいえ、さすがに可哀想だったので四人で昼食をとることにした。

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