1-12 #その頃、生徒会室では①

 生徒会視点のお話です。


―――――――


「まったく! どいつもこいつも役に立たないわね!!」


 放課後。

 生徒会室のトップ、鬼弦桐子は荒れていた。


「どうしてこんなにも仕事が片付かないのよ!」

「誰かさんがゆーくんを追い出しちゃったからねー?」

「……天ノ川くんは渉外でしょ! 書類仕事とは関係ないっ!」

「大アリだよー。これまではゆーくんがみんなの書類仕事も手伝ってくれてたし」


 副会長席のふじのりが、マニキュアを塗りながら他人事のように答える。


 二人の机には片付かない仕事の山。

 本来であれば春休みには終わっているはずだった、部費の予算チェックすら終わっていない。


 遅々と進まない仕事に対して、桐子が二年の会計女子に”お小言”を言ったところ、


「そんな言い方、しなくてもいいじゃないですか!」


 と橋本はしもとは泣きながら、生徒会室を出て行ってしまった。

 あれから三日。橋本は生徒会室に来ることはなく、人手はどんどん足りなくなっていく。


 二人の下校時刻は遅くなる一方だ。

 桐子の機嫌は日に日に悪くなっていく。


「……どうして天ノ川くんは戻ってこないのよ!?」

「桐子がひどいことばっかりいうからでしょー?」

「ひどいことってなによ!」


 桐子は剥き出しの怒りを美ノ梨にぶつける。

 だが一年の頃から付き合いのある美ノ梨は、桐子の恫喝どうかつじみた言葉にもひるまない。


 モカブラウンに染めた髪に、誰もが目を引く容姿。

 それでいて女子にも敵を作りづらいコミュ強の美ノ梨は、桐子の大声は自信のなさから来ていることを感じ取っている。


 もちろん、どうして桐子が荒れているのか、も。


「ゆーくんは好き好きオーラ全開だったのにさぁ、全然デレてあげなかったじゃん。そんなのイヤになって当然だよー」


 期待に応えようとはりきっていた遊星に、桐子はいつも冷淡だった。


 好きと言われれば、知ってる。

 仕事が終われば、やっと?

 ミスをすれば、私の信頼を裏切った。


「桐子も好きなんだから、さっさと付き合ってあげればよかったのに」

「バ、バカなこと言うんじゃないわよ! 誰が天ノ川くんのことなんかっ……!」


 言いかけた桐子に、美ノ梨がジト目を向ける。

 すると桐子がだんだんと挙動きょどう不審ふしんになり……美ノ梨に背を向けた。


 ――なんと、信じられないことに桐子はとっくに落ちていたのである。

 だがプライドの高い桐子は一度断わった手前、告白を受けるタイミングが見つけられなくなっていた。


「もったいないことしちゃったねぇ。いくら不死身のゆーくんでも、心折れちゃったら戻ってこないよ」

「……折れるわけないでしょ。だってこれまで十五回も告白されたのよ?」

「十五回もコクれるほうがおかしーの。桐子、ムチばっかで全然アメあげなかったじゃん」

「アメなんかあげないわよ。だって天ノ川くんはフラれる度に成長する、すごい男の子なんだから」


 遊星の成長は、誰から見ても異常といえる早さだった。

 当初は桐子もまったく相手にしていなかったが、桐子がダメ出しをすると遊星はまたたく間に克服してしまう。


 本来であれば四・五回目くらいの告白で、桐子のOKラインには達していたはずである。だが桐子は遊星の成長を見て、逆にとんでもないことを考えるようになっていった。


「簡単にOKしたら成長が止まるでしょ、だったら何度もガケに落とした方がお得じゃない」

「うわー考え方エグすぎぃ」

「向上心がなくなったら人間おしまいよ。だから私に見合う、完璧な男になったら……その時に考え直してやってもいいわ」


 あきれるほどの上から目線に、美ノ梨は思わず苦笑する。

 あんなのに惚れてしまったのが遊星の運の尽き、だったのかもしれない。


 遊星を可哀想と思う一方、美ノ梨は自分がワクワクしていることにも気づいていた。


(そっか、ゆーくんはいよいよ桐子に愛想尽かしたんだ)


 遊星は美ノ梨の目から見ても、相当にカッコよくなっていた。

 おまけに人当たりも良くて物腰柔らかく、威張いばらすこともない。


 同学年の男たちよりは、よっぽどの優良物件だ。

 桐子がいまのままでいる以上、そちらになびく線もなさそうだ。


(だったら……美ノ梨が盗っちゃっても、いいよねー?)


 美ノ梨がそんなことを考えていると、生徒会室に一人の男子生徒が入ってきた。


「――失礼します」

「誰よ。……って、斉藤くんじゃない」


 桐子が不思議そうな声を出す。


 同じ役員同士であれば「お疲れ様です」のあいさつで十分だ。それなのにわざわざ他人行儀なあいさつをする斉藤に、桐子は違和感を覚える。


 そしてその違和感を裏付けるように、入室した斉藤はあてがわれた役員席には腰掛けず、桐子の真正面にやって来た。そして……


「会長、副会長。申し訳ありませんが、本日限りで生徒会を辞めさせていただきます」


―――――――


 次回は斉藤くんと桐子が口論バトルになるようです……!


【感謝】

 本日で公開七日目ですがPV20000、ラブコメ週間ランキング18位に入れたようです。こんなにもたくさんの方に手に取っていただけると思っていなかったので嬉しいです、ありがとうございます……!


 引き続き面白かったと思った方は、

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 八月中も毎日17:10頃の更新を変わらず行える予定なので、

 これからもご愛顧よろしくお願いします!

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