第65話 神界放送の舞台裏。そこは普通のラジオスタジオで、どうやらバトルエンタメ企画が進行中だった……

 ドアを開けて入ったそこは、特殊な部屋だった。

 向こうの部屋が見えるように長方形のガラス窓と、その下にSFチックなホログラムで出来た制御コンソールがあった。さらにそのコンソールの隣にはドアがある。

 ラジオスタジオのような造りの部屋みたいだ……コンソールの投影ウインドウにそれっぽい数値とか、オーディオミキサーが映ってるし。


 よくよく見ると、天井付近の壁に小さな穴が開いてるし、たぶんスピーカーだろうけど、ここって、ヒルデさんがナレーションを入れてた部屋だよな。


「戦いの段取りを説明するわ」

「あぁ、うん……」


 でもなんでラジオスタジオ? 作戦室とかで説明してもらうイメージだったのに、実際はあっさりしていた。


「私はここで実況します。翔くんはいい感じに立ち回って見せ場を作ること」


 いや、ホントあっさりしてんな……!


「シュペル村で試験的に実況してみたけど、その経験を活かして、バトル系エンタメ番組風に見世物企画を調整するわ。そしたら神々に楽しんでもらえ――」

「ちょっと! 待った、ヒルデさん待った!」

「どうしたの? 急に大声出して」

「そりゃ大声も出すよ。いい感じってなに? どう立ち回るの?」

「触手に捕まらないように動いて戦うの。あ、カメラ映りなら気にしないで、ドローンがちゃんと追いかけるから」

「そんな心配してねぇよ。立ち回りも作戦も、なに一つ教えてもらってないし」


 不満MAXでそう言う俺の両手を握ると、ヒルデさんは胸の前まで持ち上げた。


「いい? あなたがつけているこれは『最強のグローブ』なの。これの価値が分からないみたいだから言っておくけど、神器だからね。デザインは現代風だけど性能は神話クラスよ」

「いや、装備が強いのは分かるけど。俺自身が成人男性一人分の戦闘力だしさぁ。もっとないの? このままじゃヤられるよ?」


 これは冗談じゃ済まない。マジですぐに終わる。殴りかかった瞬間、またあの触手に絡めとられて凌辱エンドだ。


「確かにそうね」

「ほらー、やっぱりヒルデさんも勝てないって思ってるじゃん。で、なんかないの? 例えば……そう、特別に救済カードプレゼントとか」


 あのカードがあれば現状を打開できる。武器は最高クラスのグローブがあるから、身体能力をカバーできる『最強のパワードスーツ』って書けばいいし、そうなったら逆転だ。

 だけど、現実はそう甘くないらしい。ヒルデさんは残念そうに首を振っていた。


「それはできないわ。救済カードは一人三枚まで。これは絶対」

「三枚もくれるんなら四枚目だってくれたっていいだろ」

「本当は一枚だけ与えるって話だったのよ? 日本人は大抵チート装備って書くから一枚でいいだろうって。でもそれじゃあ面白くないから、あえて三枚渡して選択肢を広げてあげたの。そしたらペンとかフックとか書くし、おかげで面白い映像が取れたわ」


 うっと古傷を抉られ、俺は苦い顔を作った。

 ホントに神々ときたら、人の不幸を笑いやがって……最低だな。でもペンはもうクソの役にも立たないけど、フックは……あれって確か神様が殴ってて、日頃の行いが悪ければ悪いほど威力が増すとか言ってなかったけ? だったら淫魔には……。

 そう考える俺をよそに、ヒルデさんは小さく笑っていた。


「ふふっ、今思い出しても面白かったわ。けれどもしあのとき、チート装備なんて書いていたらエラーって表記させて書き直しってことになるだろうから、あなた結構センスがある物を選んだじゃない」

「え? エラーって、じゃあ『最強のパワードスーツ』って書いたらエラーなの?」

「エラーね」

「いやなんで? おかしいだろ『最強の抱き枕』と『最強のグローブ』はよくてなんでパワードスーツじゃダメなんだよ」

「武器はまだいいの。使い手の技量次第でどうにかなるものだから。現に翔くんは苦戦していたし、ここからどう巻き返すかって関心が貰えるでしょう。でもパワードスーツじゃ、力押しすぎて面白味がないもの」

「こんな時に面白味なんて求めるなよ……フィーネが犯されようとしてるんだぞ」


 怒りで血が上って頭がじんじんしてくる。眉間に力が入る。もうそろそろ限界だ。フィーネが危ないのに助けてくれない神々にも、こんな状況なのにまだ面白味がどうとか言っている態度にも、自分の非力さにも、嫌気がさす。

 そんな俺の気持ちを察したのか、ヒルデさんは沈痛な表情で頷いた。


「そんな目で見なくても分かっているわ。私だって助けてあげたいもの……だからヤられないための手は打っているわ」

「それってなに? 早く教えてよ……!」



(次回に続く)

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