第59話 衝撃の展開! 俺氏ママになる!?

 ところ変わって礼拝堂。俺は期待を胸に満たしながらばっと木製の大きな扉を開いた。

 中に入ると最奥の祭壇前に誰か立っていた。

 窓から差し込んでいる光のせいで顔は見えないが、シスター服が目に入った瞬間、俺の心臓はトクンと跳ねた。


 やった女子だ! あんなに良い匂いさせてた手紙だったけど差出人は男でしたって展開じゃなかった! 最高だ! これぞ青春モテ期の旬……っ!

 いや待てよ……シスターが礼拝堂にいるのは普通のこと。あの手紙の女性と決めつけるのはまだ早い。


 俺は注意深く窺いながら近づく。


「あ、あの人は……」


 通路を進んでいた俺の目に彼女の顔が映った。窓からの光に隠れていたその顔は整っていて、金色の髪と合わさって清楚な印象。ステンドグラスの窓から差し込む煌びやかな光に照らされているからか、より綺麗に見える。普通に美人シスターだ。ただしそれは初見での感想で……彼女の本性を知っている俺は苦い表情を浮かべていた。


「ホ、ホモシスターだ……」


 俺と正平をカップリングして脳内で犯そうとしたあのシスターだ。

 そうだよな。ここにいて当然だよな。ここってあの人の職場だし……だとするとあの手紙だってシスターが俺に送ったわけじゃないし、そう、そうだ。人違いだ。きっとホモシスターじゃなくて普通の女子がくれて、待ち合わせ場所がシスターの職場だから居合わせただけ……でも一応、聞いてみるか……あの人しかいないみたいだし。


 そう思いながら祭壇脇まで行くと、優しげな表情で佇むシスターの前で足を止めた。


「あの、一応聞きたいんですが、もしかして俺宛に手紙なんて送ったりしましたか……?」

「はい。ふふっ、どうでしたか? いきなりでビックリしましたか?」

「ビックリしたって……はっ!? まさか、俺をからかってあんな手紙を……!」 

「違いますよ。からかってるわけじゃありません。ちゃんと言いたいことがあるんです」


 金髪のポニーテールをふるふると振り、シスターは恥ずかしそうに両手を胸の前に組んでからもじもじした。それはまさしく、告白する直前の女子の仕草だった。


 これは期待していいのか!? このシスター、性癖が同性愛者だけど俺は別カウントだったりするのか!? よし、告白に備えてキメ顔でも準備するか。


 俺がそう思ったところで、シスターはゆっくりと口を開いた。


「あらためて言います、翔さん。私と家族になってください」

「え……っ」


 まさかのプロポーズだった。告白を通り越していきなりこれじゃあ……返す言葉もない。ポカンとなる。多分今、間抜け面を彼女に向けていると思う。


「正確に言うと……私と交わってもらいたいんです」

「ま、交わるだと……!?」


 家族になってほしいと言われ、さらには交わるとなれば、導き出される結論はひとつ。

 金髪ポニテ美女シスターと本気の子作りセッ○ス。

 もうこの言葉だけで三回は抜ける! ヤれる! パパになる!

 そう思うと一方で、俺は小さく首を振った。


「いや、でも俺、あなたの名前すら知らないし……」

「ヘレナっていいます、私の名前」


 ん? ヘレナってケスキネン先生が言っていた淫魔の名前だよな……でも外国じゃ珍しくない名前だし、たまたまだよな……いや、それよりヘレナさんへの質問の方が重要だ。


「じゃあ、ヘレナさん。俺の子供を生んでくれるってことですよね?」

「んー……ちょっと違いますかね。種付けされるのは翔さんの方ですから」

「え!? 俺がママになるの……!?」


 俺はあんぐりと口を開いた。


 衝撃の事実! 俺氏、ママになる!


 まさかこの異世界では男の方が妊娠するんだろうか? いやいやそんなの嫌すぎる。冗談じゃない。男の腹ボテとか……そりゃ、ドラマとかで男の妊娠って話を目にしたことあるけど、それはあくまでフィクションとかだろう。現実的じゃない。

 頭の中がぐるぐるする。プロポーズからのあなたに種付けしたいのという展開についていけない。もうどう返事をすればいいか分からなくて、俺は呆然と立ち尽くす。


「だからぁ……」


 ヘレナさんが俺の首に両手を回してきた。そしてキスでもするように引き寄せ、耳元で囁いてくる。


「ねぇ……ここでしましょう?」

「え、えーっと、それって……」

「私と、交わるんです」

「……っ!? い、いやぁー、うん。嬉しいんだけどね。ここ学校だしさ、礼拝堂でも一応は学びの場所だしさ。そりゃあ今は誰もいないけど、さすがに不味いって」


 何だか腰が引けてきた。さっきまではヤれると喜んでいたが、実際にヤる流れになったら……情けないことに身体がビビって動かなかった。



(次回に続く)


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