第54話 人間ミサイルで異世界の淫魔化した魔術師を打ち倒す!

 盛り上がった地面からぞろぞろと出てきて、敵意剥き出しで睨みつけてくる。だがそんな彼らが目に入ってもフィーネは冷静だった。さささっと俺の後ろに回りこみ、小さな手を背中に当ててくる。


魔法付与エンチャント性質変更チェンジ風移動ウィンドムーヴ


 その瞬間、風の衣が俺の全身を包み込んで身体をふわりと浮かせた。


稲妻ライトニング!」

火炎の豪腕ファイヤーアーム!」

「行けぇ! 先輩ッ!」

「うおお……ッ!」


 フィーネが腕を振るうと、殺傷性が高そうな指向性の電撃と火炎放射の中に俺は突っ込まされた。


 あ、死ぬヤツだこれ。


 そう思った時、はっと閃くものがあった。


 咄嗟に両腕を前に突き出す。ちょうどそこで電撃と火炎が拳に当たった。すると不思議なことに電撃が明後日の方向に曲がり、火炎も拡散するように散った。


「な、なにぃ!?」

「俺たちの魔法が弾かれただと……ッ!?」


 瞠目する植物人間をよそに、フィーネに操られるまま俺は空飛ぶヒーローよろしく両腕を前に突き出した状態でぱっと思いついた技名を叫ぶ。


「必殺! 俺様ミサイルッ!」

「なんだよそれ――グフ……ッ!」

「うわっ、こっち来るぞ――ぐあぁぁぁ!」

「この野郎ふざけやがって! 撃ち落してやる! 光球拡散スフィアスプレッド!」


 魔法を弾いた勢いを殺さずに二人を跳ね飛ばし、華麗にターンすると光の散弾が俺を襲う。だがその攻撃もあっさり霧散し、迎撃しようとしていた植物人間も同様に跳ね飛ばした。

 広間を縦横無尽に飛ぶ人間ミサイルになった俺に次々と魔法が飛んでくる。炎が荒れ狂い、稲妻が空気を焼き、氷のダーツがマシンガンのように飛んでくる。それに石つぶてのような地属性の魔法に拡散する光球も対空射撃並みの弾幕となって俺を襲う。


 だがどれも最強のグローブの前では無力だった。

 フィーネが腕を振るたびに曲がり、攻撃を避けると数人跳ね、避けきれないモノはグローブで弾き、また数人跳ねる。そうすると面白いように植物人間たちが地に伏していった。


「くそっ、迎撃は不可能だ! こうなったら……皆集まれ! 多重魔法障壁でヤツを止めるぞ!」


 良い判断だ。この俺様ミサイルはミサイルみたいに標的に当たったら終わりではない。敵を全て無力化するまで一生襲ってくる意思を持った珍兵器だ。だから迎撃が無理なら壁にでもぶち当てて止めるのがセオリーだろう。

 植物人間たちが一箇所にまとまって何重にも光の壁を作り上げる。


「ボウリングのピンみたいに弾いてあげますよ!」


 そう言うとフィーネが「ストライクッ!」と叫んで腕を振るった。その動きに合わせて風の膜を纏った俺が奴らに向かって突っ込まされる。


「はっ! 俺の前では魔法障壁なんて紙切れ同然だ!」


 光の壁に拳が当たった。すると多少の抵抗はあったものの、ガラスが割れるようにぱりぱりと砕けた。最強のグローブで突き破った勢いのまま障壁の中に密集していた残りの敵を次々と殲滅していく。


「馬鹿な!?  この数の魔法障壁を突破しただと――ぐ……っ!」

「人知を越えてチン知になった俺たちがこんなヤツに――おごっ!」

「何言ってるかわかんねぇよ! 何がチン知だ、脳みそまで勃起しておかしくなったか!」


 俺が奴らを一蹴すると、植物人間の少女が両腕をこちらに突き出した。


「私たちは淫魔化して今や魔人! 人間に負けるはずがないわ! 爆裂の光球スフィアバースト!」


 空中で光の玉が爆発し、その衝撃で若干軌道がそれる。だがそれでも密集した敵を跳ねるには問題なかった。魔法を放ってきた少女の隣にいた男を俺は吹き飛ばした。

 残るは後衛を担当していた少女たちだけだ。


「女をぶっ飛ばすのは紳士の心に反するが、触手人間なら別だ!」

「ひィッ、こっち来るわ……!」

「オラ……!」


 両手の拳で跳ね飛ばし、俺は植物系の触手をはやした少女たちをボコボコにしていった。

 そして動く者が俺とフィーネだけになった頃、風の衣が解かれ、ようやく地面に足がついた。



(次回に続く)

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