第53話 ヒロインの貞操が危ない! 護れ! 翔(かける)!

 数人の植物人間が岩壁から逃れようと魔法を放っていた。


光球拡散スフィアスプレッド!」

衝撃波ショックウェーブ……ッ!」

白煙の矢クラウドアロー!」

幸運二重強化ラックプラスプラス!」


 拡散した光球が岩を砕き、地面に生じたエネルギーの波もごつごつした表面を削り取った。だがそれだけだ。数メートル単位で盛り上がる岩の前ではあまりに無力な魔法だった。彼らは抵抗むなしく岩のアギトに飲まれた。

 そんな中、フィーネと植物人間たちのちょうど中間あたりに白い矢が落ちた。その矢が地面に当たった瞬間、たちどころに煙が噴出し、広がってフィーネから彼らを隠した。


「ちっ、厄介なことを……! これじゃあ向こうの様子がわからないじゃん。もうっ、最悪なんですけど」

「フィーネちゃぁぁぁぁぁん!」


 銃口を左右に振ってじれったそうにフィーネが唸ると、煙から出てくる者がいた。なよっとした男子学生だ。そいつは幸運に恵まれたのか大地の拘束から逃れ、ぐわんぐわんと身体をくねらせながら突っ込んでくる。両腕が触手だからか、物凄く気持ち悪い走り方だ。

 彼にフィーネは容赦なく魔弾を放った。


「ヤバ……ッ!?」


 だが風の魔弾の風圧を受け流すように男は身体を捻って避け、両腕の触手で四つん這いになりながら着地した。そのままの体勢で蜘蛛のように這ってフィーネに飛びついた。


「つかまえたァ。ああ最高だ、フィーネちゃんを抱ける日が来るなんて!」

「嫌ッ、放せ! ゲスゥ……!」

「はぁはぁ……僕は小生意気な君も好きだよぉ」


 張り倒されて触手で腕の自由を奪われ、フィーネは相手を睨みつけることしかできないでいた。


 あれ? これ不味くない……?


 俺が心中で焦ると、男の顔が恍惚に歪んだ。


「僕は幸運を強化するくらいしか取り柄がなかった。でもそのスキルでやっと君に届いた。可愛くて気高くて優秀で、ずっと憧れてたよ。そんな君で僕は気持ちよくなるんだ」


 ストーカー男みたいなやつが出てきたぞ……!? なんだよ、あいつは!


「ふざけんな! それ結局ヤりたいだけじゃん! この変態ッ! 痴漢! 強姦魔!」

「そうだよ。じゃあさっそく、その可愛いおっぱいで僕を気持ちよくしておくれぇ」

「い、嫌っ、犯される!? 助けてぇぇぇ!」

「やめろ! ゴラァアァァァァァァッァァァァァァァァッ!」


 俺は壁際から飛び出し、小柄な軍服ワンピースに覆いかぶさろうとする男に詰め寄った。突然の乱入者に困惑し「な、なんだ……!?」と男が顔を上げた。その顔面に向かって思いっきり拳を突き立てる。

 男の身体が錐揉みするように吹っ飛び、地面に転がった。腕の触手が千切れて足も首も変な方向に曲がって倒れたまま、そいつはぴくりとも動かなくなった。

 どうやら最強のグローブは淫魔にも有効なようだ。これのおかげでただ殴っただけで植物人間を倒せたが、相手が油断していたのがよかった。さもないとあんなにあっさり殴れなかっただろう。


「先輩! ナイスタイミングです」

「ふっ、生娘の救いを求める声があれば俺はいつだって駆けつけるぞ?」

「カッコつけてるとこ申し訳ないんですが、次が来ます」


 虚勢の笑みを浮かべる俺をスルーし、フィーネが油断なくマジックガンを構えた。

 その先では煙が晴れ、自力で岩の拘束から抜け出そうとする植物人間が見てとれる。フィーネの魔法が届かなかった後衛の連中は彼らに破砕系の魔法を浴びせ、手早く数人を助け出していた。


「やっぱり魔法が使える植物人間は厄介ですね。妨害系の上級魔法を最大強化してぶつけたのにもう立て直してる。またさっきみたいにしこたま魔法で攻撃されたら次は捌ききれるかどうか……」

「奴らの顔面にモザイクでも投げつけてやろうか?」

「うぅん、それでも数人無力化できる程度でしょう。残りの十数人に蹂躙されるのが目に見えてます。二人して凌辱エンドまっしぐらですね」

「冗談じゃねぇぞ、そんなエンド。初めてはせめて人間がいい……!」

「同感です」


 フィーネが頷いたところで、前衛の植物人間がいきり立った。


「やってくれたなお前ら! なるべく傷つけないで捕らえるつもりだったが、もう容赦しねぇぞ!」

「って、そんなこと言ってる場合か……! もう復活したぞあいつら」

「私に考えがあります。先輩はただ万歳だけしててください」



(次回に続く)


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