第51話 金髪美少女貴族がスカートをヒラヒラさせて挑発してくるんだが、これは見てええのんか!?

 弓矢が放たれ、俺の真横にざくっと突き刺さった。


「これヤバいやつだ……!?」


 さっきの火の玉と違って相殺されずにそのままきたから直感で分かる。これは魔術障壁じゃ防げない。

 そうと分かればやることはひとつだけだった。俺は狂ったように小さな宝箱をかぽかぽと開閉させた。


「うぉぉぉぉ! 神よ! 俺たちを救いたまえぇぇぇッ!」

「ちょっと何やってるんですか、こんな時に……ッ!?」

「いや、また宝箱開いたらさっきみたいに転移できるかなって……!」

「もうそれ魔力空っぽなんで意味ないですよ」

「ええッ!? じゃあどうすればッ、弓矢とかめちゃくちゃ飛んでくるし……!」

「これあげるから大人しくしててください」


 フィーネがしゃがんで蹲った俺と視線を合わせながらスカートの裏地からペンダントを取り出して渡してくる。緑色の宝石がはめ込まれたシンプルなものだ。


「風霊の加護が施されたペンダントです。これを首から下げておけば、低級の魔法が施された弓矢程度なら退けてくれます」

「マジか! お前のスカートの中、こんなアイテムまで入ってるのかよ……!」

「えぇ。それにエッチな太ももも入ってるんですよ」

「おおッ! ええのんか、見てええのんか……!?」

「ふふっ、先輩エロおやじっぽーい♪」


 挑発するようにスカートの裾を持ってひらひらされると、俺は思わず生足に釘付けになった。エロが恐怖に勝った瞬間だった。

 その様子をくすりと笑いながらフィーネはシリンダーに詰まった最後の魔弾を骸骨弓兵に放った。通路中央に陣取った敵の横隊が風の魔弾で切り裂かれ、散り散りに吹き飛ぶ。


 骸骨兵たちが怯んでいる間に、太もものベルトからスピードローダーを取り出し、リロードすると残った奴らをフィーネはマジックガンで一掃した。


 凄い。数十体はいたモンスターをひとりだけで……こいつひょっとしてめっちゃ強い?


 そう思って聞いてみると、フィーネは得意げに胸を張って見せた。


「まぁこのくらいの相手は余裕ですかね。ダンジョンボスの死霊女帝エンプレスゴーストとか骸骨王ワイトキングとか出てこない限り苦戦はしませんよ」

「おいやめろ。そういうこと言うと出てくるだろ。そのボスとかが」

「それなら大丈夫です。あいつら大抵ボス部屋に引きこもってなぜか出てきませんから」

「そこはゲームっぽいのか……」

「でもこれ実戦形式なんでヘマしたら普通に死にますけどね」

「やっぱりゲームっぽくない……! やだもう帰りたい……」

「なにを弱気になってるんですか? 先輩はもうあんなザコよりも遥かにヤバい奴らと戦ってきたじゃないですか」

「俺にそんな記憶ないんだが……」

「村で戦ったでしょ。あの淫魔たちの方がよっぽど危険なんですよ。あのままほっといたら国が滅ぶほど繁殖して大変でしたから」

「まぁ確かにあの時はお前、触手責めくらうほど追い詰められてたしな……」

「そんなことよりさっさとここから脱出しないと。中央にメインの階段がありますからそこから礼拝堂に戻りましょう」


 話を切り上げると、フィーネは薄暗い通路を歩いていく。その後ろに続き、俺は壁にかけられた魔法のランタンの明かりだけを頼りにして墳墓を進む。

 角を折れると通路の幅が三倍に広がった。今までは石壁だったが、ここは土壁になっている所が目立つ。壁の両側はいくつもくり貫かれ、遺体を安置できるほどの穴が空けられている。その下には石棺が等間隔で並んでいて、所々ミイラ化した遺体が入っているが、そいつらは襲ってくる様子はない。どうやらゾンビ系のモンスターは出てこないようだ。

 そう思ってフィーネに聞いてみると不穏な答えが返ってきた。


「この階層は骸骨兵が主なようですが、別階層だとゾンビ系の、氷塊から蘇りし腐肉フロストコープスとか、怨念人形スパイトマミーとか出ますけどね……腐った臭いを漂わせて、液状化した肉がどろどろに腐り落ちてて、もう目とかも飛び出しててちょー気持ち悪いんですよね。まぁ私の相手じゃないけど」

「うげぇ……なんか想像するだけで気分が悪くなるな……」

「良かったですね。お昼食べてこなかったからゲボるものがなくて」

「あぁ、ホントにな……」


 げっそりしながら進んでいると、そこでフィーネが手を上げて制止した。



(次回に続く)


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