第50話 転移魔法で飛ばされた翔(かける)たち。待ち受けている罠とは……

「あーうん。転移ね。ファンタジーモノでたまに見るヤツ。まぁ今回のはそれっぽい光とか魔法陣的なモノもあったから驚いたけど……」

「今回のは?」

「実は俺、転移するの二回目なんだよ。初めて転移した時は、気づいたら別の場所にいたって感じで、妙な光も魔法陣もなくて、普通に森に転がされていたな……」


 初めてこの世界に来た時のことを思い出す。

 ラブホ美人局転移。人生でもこれほど期待を裏切るような体験はそうそうないが、しかもそれが異世界に転移するのに繋がるんだから、色んな意味で衝撃的だった。

 遠い目をする俺の耳に、むぅ……と考え込むように唸る声が届く。


「それにしても、ユーリはいませんね……転移魔法の範囲外にいたのかな? だったら、ユーリがこのことを先生たちに伝えてくれるはずだし、不幸中の幸いですね」

「あ、スルーっすか……」


 この場にいない従者の働きをフィーネが期待してほっと息をつくと、俺もそっと落胆の息をついた。


「まぁこのままじっとしていてもそのうち救助が来るはずですが……」


 だがそこで、フィーネの柔らかな表情が一変し、鋭いものになった。すっと細めた夕焼け色の瞳が通路の奥を睨みつける。


「先輩、何か来ます」

「……っ!?」


 びくっと身体を震わし、俺も通路を警戒する。

 金属のすれるような音。それから、かここっと歯をかみ鳴らすような音が闇の中から聞こえる。いやそんな音よりも、通路の先に曲がり角でもあるのか若干反響した足音も聞こえていた。一人や二人じゃない。一〇や二〇……もっといるかもしれない。

 そしてランタンの明かりが届くところまで足音の主が近づいてくると、俺は思わず息を呑んだ。


「が、骸骨……!?」


 そこには白骨化した人間が立っていた。全身骨で、ボロ布や錆びた鎧を纏っていて、手には剣と盾、それに弓や杖まで持った者もいる。染みがついたように黄ばんだ顎をかここっと鳴らし、迷い込んできた哀れな生者を嘲笑うように痙攣している。そのうちの一体が、空っぽの瞳孔を赤く光らせた。

 その瞬間、通路に溢れた骸骨たちの目が一斉に怪しく輝く。


「先輩、私たちの現在位置がわかりました」

「そんなこと言ってる場合かよ!?」


 ビビってへっぴり腰になりながら後ずさる俺の横で、フィーネがリボルバー型のマジックガンを構えた。骨の兵士たちが一歩踏み込んできたところで容赦なく三度引き金を引く。

 前列を守っている骸骨が盾を構えると、その錆びた鉄の盾に着弾した魔弾が、骨の兵士たちの目の前で暴風を巻き起こした。風が暴れ、バラバラになった骨が飛散り、一緒に吹き飛んだ武具が壁や床にぶつかってガシャガシャという騒音を通路に響かせた。

 村で見たモノは着弾と同時に相手を火だるまにする炎弾だったが、今回のマジックガンは風タイプらしい。骨の兵士が面白いように吹っ飛んでいく。


「このタイプのモンスターと地形。間違いありません、礼拝堂地下の墳墓。訓練用のダンジョンです」

「本当にこんな箱で転移したんだな……」

「前衛に骸骨兵スケルトン、中衛に骸骨魔術師スケルトンメイジ、後衛に骸骨弓兵スケルトンアーチャー。基本的な陣形ですね」

「なに冷静に言ってんだ……! 来るぞ、なんか魔法陣空中に出しているし……!」


 骸骨魔術師が杖を掲げると、その頭上に魔法陣が形成された。その数はぱっと見ただけで一〇はある。

 魔法陣から火の玉が一斉に飛び出し、俺たちに向かって放たれた。


「ひ――ッ」


 咄嗟にその場に伏せた。だがそんなことをしても意味はない。薄暗かった通路を赤々と照らし、確実に火の玉が迫ってくる。

 だがそこで、フィーネが片手を前に突き出すと、ぱっと火の玉が霧散した。


「先輩、私の後ろから出ないでください」

「すげぇ、あの量の魔法を……」

「ただの魔術障壁じゃないですか。こんなの基本ですよ」


 よくよく見ると、フィーネの白い手を中心に薄い光の膜のようなモノができていた。


 まぁ魔法相手に戦うなら必須だよな……俺は使えねぇけど。


 俺がそう思っている間に、フィーネがマジックガンで敵の隊列を崩した。

 その直後、鈍い輝きを宿した矢尻が俺たちに向けられた。中衛までなぎ倒されたことで後衛の骸骨弓兵の射線が通ったんだ。



(次回に続く)


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