第49話 突然起動した転移魔法、一体どこに飛ばされるのか……

「あ、この奥何かあります……んっ、ちょっと私じゃ無理そう。ぎりぎり届きません」


 声のした方へ首を回すと、ユーリさんがしゃがみ込んで壁と木箱の間にできた隙間に腕を入れていた。


「どうかしましたか?」

「あ、翔さん。ちょっとここに何か挟まってるみたいで、あともう少しで取れそうなんですけど……私じゃどうしても届かなくて」

「それだったら俺に任せてくださいよ」


 快く頷きながら俺はユーリさんに歩み寄った。


「先輩って、ユーリには丁寧に接してるくせに私の扱いはぞんざいですよね」

「そりゃユーリさんは礼儀正しいから、こっちもそれ相応の態度を足りたくなるんだよ。それに、お前みたいにふざけたりしないからな」

「私主なんですけどー」

「まぁ確かになぁ。主って雇用主なわけだし、俺だってもう少し態度を改めたいよ? でもどうしてもなぁ……お前と同じくらいの妹がいるからか、ついフランクに接してしまうんだよなぁ」


 そう言いながら俺は「この奥です」とユーリさんに示された壁際に腕を突っ込んだ。隙間に挟まっている小さな箱のような物をつかむと、冷たい感触が手のひらに伝わった。それをどうにか取ろうとして半ば強引に上下にねじる俺の背に、興味深げなフィーネの声が届く。


「へぇー、妹いるんだ」

「おう。お前みたいに小柄でプリティなサイコで最高なのがな――っと、よし取れた」


 ギギッと勢いよく抜けた箱を落とさないようにしっかり両手でキャッチ。そしてランタンの明かりに照らしてよく見ると、箱には金属的な光沢があって精緻な模様が鍵穴の周りに描かれていた。


「宝箱みたいじゃん。ちょっと小さいけど……これって開けてもいいの?」

「大丈夫だと思います。恐らく授業で使っていた物でしょうから」


 ユーリさんの許可を貰って早速開けてみる。


「あれ? 空っぽだ……」


 マジックアイテム的な物が入ってると少し期待していたのに残念な結果だった。

 だが一拍置いてから、俺の足元に青白く輝く線が走った。それは円を描くように刻まれ、魔法陣となって周囲を照らした。


「なになに怖い怖いッ! 俺すげぇ輝いてるよ……ッ!?」

「ちょっ、先輩……!? こんな所でいきなり魔法使わないでよ、危ないからっ!」

「いやこれは俺の意思じゃなくて、勝手に――」

「もうっ!」


 フィーネが焦れたように唸りつつ飛び込んできた。

 その時だった。

 視界が揺れ、暗転し、一呼吸置いてまた揺れる。それから再び青白い光が大きく輝いたかと思うと、唐突に消えた。


「え? ええ……!?」


 目の前で起こった現象に俺の口から思わず驚きの声が漏れた。

 強烈な違和感。ただ魔法陣が光って消えただけじゃない明らかな異常。

 辺りは壁にかけられた魔法のランタンの優しい明かりだけがゆらゆらと照らしているが、目の前に真っ直ぐ伸びている長い通路の先は、暗い闇に閉ざされていた。


「な、なんでこんな通路が目の前に続いてるんだよ……」


 さっきまでは確かに待合室にいた。でも今は……どこかの通路に俺は立っていた。

 おかしい。急に周りの光景が一変するなんて、どうなってるんだ……?


「転移魔法みたいですね。窓もないし、石造りの通路だからまだ地下にいると思います」


 疑問の答えをくれたのは、俺の腕にちゃっかり抱きついていたフィーネだった。



(次回に続く)


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