第47話 異世界のメンヘラ女すげぇ、魔石をGPSにするぞ……

 貴族なら小説とか演劇とかを嗜むものだと思って聞いてみたが、フィーネにはそういった優雅な嗜みはないようだ。フィーネの雰囲気的には、繁華街でクレープとか買い食いしたり、友達とアパレルショップとか雑貨やでわーわー騒いでいる方がお似合いだから別に意外でもないが……いや、本当に意外じゃないぞ。今にもスマホを取り出して無意味にSNSでもしそうな素っ気無さがある。


 そんな俺の思考が読まれたのか、フィーネが疑わしげな半眼を作って見つめ返してきた。


「じー」

「なんだよ」

「今、こいつは小説も演劇も似合わないようながさつな女だって思ってません?」

「思ってねぇよ」

「ウソですね。先輩の目が言ってました。あーあ、どうせ私は静かにじっとなんてしていられない女ですよー」

「面倒くせぇな。お前絶対付き合ったら、毎日好きって言ってくれないと嫌とか言ってくるタイプだろ? 扱い方間違えたらすぐにヘラって束縛してくるんだろ?」

「そこまでじゃありませんよー。ただ通話用の魔石にこれからすることを逐一報告してもらって、スケジュールの詳細を教えてもらい、私の目の届く範囲の人付き合いをしてもらいます。もし魔石の反応が報告と違う場所に行ったり、居場所がバレるのが嫌でその場に魔石を捨てたりしたら、なぜそんなことをしたのか小一時間ほど問い詰めますかねぇ」

「普通に束縛してんじゃん……魔石をGPSみたいに使ってるし、超怖ぇーよ」


 俺がそう言い返しても、フィーネは考え込むように顎に拳を当てて空想上の彼氏を追い詰めようとしていた。


「それから持ち物チェックもしませんとねぇ。もし元カノの痕跡があるようなら全て排除します、汚物ですから。あと細かい例を上げるなら、好きな有名人なり贔屓している異性について聞きますかね。男なんて下心の塊です。きっとエロい妄想をしてるに決まっています。もしその異性を夜のオカズに使ってるようなら――」

「もう十分だよ、お腹いっぱいだよ……」


 フィーネに見える束縛女の片鱗に俺は思わずたじろいだ。その間、正平が本棚から移動して拓美先輩と入れ替わっていた。


「カップル失踪事件は食堂でも噂になっていたね。でもそれとは別に耳寄りな情報があるんだ。消えたのはカップルだけじゃない。学院に遅くまで残っていた者も忽然と消えてしまったらしいんだよねぇ」

「またそこでエアインタビュー……!? 何、それ流行ってるの?」


 フィーネがすかさずツッコミを入れるが、


「しかもその後、消えた学院生のルームメイトも寮からいなくなったんだ。それでこのカップル失踪事件と居残りルームメイト失踪の共通点はどちらも書置きがあったこと。さすがに学院も立て続けに失踪するなんておかしいと思いだしたようで、教師陣が今日にも衛兵の詰め所に彼らの捜索を依頼するって話してたよ。いや~……それにしても対応が遅いとは思わないかい? 普通書置きがあったとしても、急に生徒がいなくなったら学校側がすぐに動くものだろ。日本じゃ考えられないね」


 そう締めくくると、拓美先輩がヒルデさんに目配せした。


「はい、カット。三人ともご苦労様。あとはこっちで編集するから」

「なんの話なんですか……?」

「お、フィーネもするか? ドキュメンタリー風インタビュー」


 不審そうに尋ねてきたフィーネに、俺が気さくに笑いかけた。


「結構です。それより私からもご報告があります」


 あどけなさが残る顔をきりっと引き締めるフィーネ。珍しく真面目な雰囲気だ。

 そのフィーネの鋭い雰囲気を察知し、俺も笑みを消して真面目な表情を作った。


「ふざけたインタビューなんて出来ない系の話か?」

「はい、出来ない系ですね。それでご報告の件なんですが、先輩たちが学院を見学しながら聞き込みをしている間、私は学院の地下を見回っていました。この時期には使われてない区画を重点的に調査した結果、礼拝堂地下に魔術的痕跡を発見したんです」

「一番怪しい情報ゲットしてるじゃん、優秀だな」

「やった、先輩に褒められた♪ ふふふ、フィーネちゃん優秀って、頼りになるって、お前がいないとダメだって」

「何都合よく解釈広げてんだよ。そこまで言ってねぇよ。つーかどんどん告白してるみたいになってるし……いいからさっさと話の続き聞かせろよ」

「まぁ続きって言っても、明日その魔術的痕跡を詳しく調べましょうってくらいしか言うことないんですけどね」


 やれやれといった調子で俺が促すと、フィーネが悪戯っぽく笑って見せた。

 そして「じゃあ調査は明日ということで。はい、解散でーす」というフィーネの言葉を最後にこの日はお開きとなった。

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