第46話 異世界でインタビュー動画を撮影中!

 ところ変わって学院寮の談話室。俺たちはフィーネと拓美先輩と合流し、お互いに集めた情報を持ち寄っていた。


「いや~あの時は正直、ついに次元を超越したかって思ったよ。だって美少女抱き枕と結婚だぞ? 普通の発想じゃないって」

「あの、先輩。どこ見て話してるんですか? そっち本棚ですよ?」

「で、そのあとはカップル失踪事件。まったく今日は話題に事欠かないけど……俺はこの事件、独り身の寂しい男が行った犯行だと思うね。男の嫉妬は見苦しいものだ」

「なんか目に見えない誰かに自分の感想なんて言っちゃってるし、もしかしてエアインタビューですか……?」

「だがこれは、衝動的な犯行じゃない。短期間に何組ものカップルが失踪しているんだから、単独ではなく組織的な犯行だろう。モテない男たちがリア充を襲う会なる組織が暗躍しているに違いない」

「何エアインタビュー続けてるんですか。そろそろこっちに戻ってきてくれませんか?」


 さっきからうるさいフィーネを無視し「これでいい?」と俺が問いかけると、ヒルデさんがぐっと親指を立ててくる。


 寮の一角に位置するこの談話室は、数組のソファーセットと暖炉、それと観葉植物の他には本棚というシンプルなインテリアだった。

 その本棚の前にはステルスドローンが待機中で、俺は見世物企画の動画を取っていた。アメリカのドキュメンタリーとかである当事者がその時感じていたことや、実際になぜそれが起きたのか解説する時に挟まれるインタビュー形式の動画。少々外野がうるさいことを除けばなかなかよく撮れたんじゃないか?


 フィーネの声は編集で消すだろうし、それにヒルデさんもご満悦だ。あー今日はいい仕事したー……最初はこんなクソ企画に協力なんてする気はなかったけど、あのまま森でサバイバルするよりは、美少女貴族のサポートをするこの生活の方が何百倍も楽しいな。

 そうしみじみと思いながら頷くと、俺はソファーに腰を下ろした。

 俺と入れ替わるように今度は正平が本棚の前に出た。


「晴れて俺とセイラちゃんは結ばれた。この魔法少女セイラちゃんウエディングドレスバージョンの名の下に俺たちは愛を誓い合ったんだ……」

「誓い合ったって……抱き枕が喋るわけないでしょ。幻聴じゃない?」

「うわぁ……あの絵がついた枕増えてるし……というか先輩と同じところで誰かに報告してるけど、あそこ何かのスポットなの? ねぇユーリ」

「そっとしておきましょう。ああいうのには関わらない方が身のためです」


 女性陣の反応が厳しい。冷ややかな視線を向けるヒルデさんも、ソファーの端にぐっと身を寄せてドン引きしているフィーネも、すっと目を逸らして他人のフリをするユーリさんも塩対応。きっと正平の行動は異常に見えているんだろう。

 この四面楚歌な空気に耐えられなくて、俺は思わずソファーから腰を浮かせた。


「やめろよ、そんな反応しなくてもいいだろ……! 愛に年齢なんて関係ないって言うんだし、それだったら愛に次元なんて関係なくてもいいじゃねぇかよ……!」

「翔くん。愛は、お互いに尊重したり一緒に思い出を深めたり、少なくとも相手に自分の気持ちを伝えてからがスタートラインよ。だからあれは愛じゃない、ただの妄想の類だわ」

「先輩、友達のフォローするとかちょー健気ぇー」

「すまねぇ正平。どんなに言いつくろってもお前の変態性はカバーしきれねぇわ」


 物覚えの悪い生徒を教え諭すようなヒルデさんの優しげな視線に出鼻をくじかれ、フィーネの茶化すようなニヤニヤ顔を見ると何だかフォローするのが馬鹿らしくなって、俺は力なく目を伏せた。

 しかしその程度では、正平はめげたりしない。自分の世界にどっぷり浸かったまま盲目的に語り続ける。


「カップル失踪事件だが、俺とセイラちゃんのラブリー観察眼によると、駆け落ちの線が濃厚だと分かった。前にテレビで、浮気を題材にしたドラマが流行った時『あなたもドラマみたいな浮気をしてみたいですか』と世の奥様方にアンケートしたら『私もしてみたい』という割合が増えたのを見た記憶がある。それと同じでここでも小説とか演劇とかで流行って、学院生たちが真似をしたんだろうな」

「で、実際どうなんだ? 流行ってるのか?」


 俺がそう聞くと、フィーネはつまらなそうに首を振った。


「知りませんよ。私、小説とか演劇なんて興味ないし。まぁでも、結ばれない恋愛を題材としたものなら、昔から一定の人気はありますよ」


 つまりは無きにしも非ずということらしい。



(次回に続く)


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